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Flavors ~ボクの担当は…………です~  作者: 建山 大丸
僕がスーツを着る理由
6/11

2ー2 邂逅

 夕陽が落ちそうになるこの時間、道行くランドセルを背負った子供達の足取りはとても軽い。


 (確か、明日は殆どの小学校は終業式か)


 そう思いながら帰宅する僕の足取りは、小学生とは対照的にとても重い。


 つい数時間前に起きた出来事が、重く僕にのし掛かっているからだ。


 (なんで、僕じゃなくて瑠羽なんだろう……)


 思ってもどうしようもないことだとは分かっているけれど、僕はそう思わずにはいられなかった。



■■■■■■



 「【進行性感覚喪失症候群】?」


 学校も夏休みに入り、家で出された課題を消化しながらカレーを食べていた僕は、小学校から弟の瑠羽(るう)が倒れたと聞いて、慌てて病院に駆けつけたんだ。


 そこでお医者様から聞いたのが、【進行性感覚喪失症候群】という聞きなれない病気の名前だった。


 その名の通り、数ヵ月~数年かけて徐々に様々な感覚が失われていき、最終的に死に至るという恐ろしい病気らしい。


 どうやら瑠羽は最初に平衡感覚を喪失してしまったようで、友人と走って遊んでいる最中に急に倒れてしまい、その時に頭を打ってしまったため、病院に運ばれたのだった。


 「瑠羽は治るんですか?」


 「病気も感覚も完治したという症例もあります。ですが、基本的には治ることがない病気と考えてもらっていいと思います」


 「え……」


 「どのタイミングで、どの感覚が、どの程度失われていくのかも個人差があります。一人で行動するのはとても危険です。いままで通りの日常生活が送れなくなることを覚悟しておいてください。あと……」


 お医者様の言葉が色々話してくれてるけれど、頭に入ってこない。


 感覚が無くなる? 日常生活は無理? 瑠羽が?


 料理が全く駄目な僕とは違い、瑠羽は料理がとても上手だ。特に、カレーに関してはじいちゃんと父さんが"ひいじいちゃんの再来"だというくらいに美味しい。


 正直言うと、僕は瑠羽のカレーはひいじいちゃんを越えたと思ってる。瑠羽は、カレーの神様に愛されてる。そう思ったほどだ。


 瑠羽は表で、僕は裏で、二人で【KariiCurry】をやっていければ良いね。なんて話していたばかりなのに。


 カレーの神様は愛してくれても、この世界の神は瑠羽を嫌ってるのだろうか。



■■■■■■



 「兄ちゃん、心配かけてごめんよ」


 病室にいくと、ベッドに横になっている瑠羽がそこにいた。


 とても元気そうに見えるその姿は、病魔によって感覚が失われている病気にかかってるなんて全く思えない。お医者さまは、実は嘘を付いているんじゃないかと思うほどだ。


 「兄ちゃん、ちょっと転んで頭打ったからって検査で入院とかするの?」


 「ちょっとじゃないだろ?聞いたぞ。全力で走ってよろけて頭をぶつけたって。そりゃ、検査もするだろ」


 「ちぇっ。聞いたのかぁ」


 検査の本当の理由を知らない瑠羽は、大したことがないと思って僕に話す。


 僕は、そんな瑠羽に怪しまれないように努めて明るく話す。感づかれないように。至って普通を意識して。


 「兄ちゃん、なんか無理してない?」


 「おまえ、兄ちゃんが体力ないの知ってるだろ? お前が倒れたって聞いたから、病院まで走ってきたんだぞ」


 「え……ごめんよ兄ちゃん」


 「そこのバス停から!」


 「家からじゃないんかーい! あははははは!」


 「遠くて無理だって」


 「それもそっか。あははははは!」


 何とかごまかせた。と、僕は内心ほっとする。


 瑠羽は、僕と違っていろいろ優秀だ。


 明るくて、優しくて、頭もそれなりに良くて、運動神経も結構良いし、ルックスも良い。家事も得意で、気も結構回る。だから、学校新聞の企画で行われた全校でアンケートで“旦那にしたい人““彼氏にしたい人““彼女にしたい人““嫁にしたい人“のグランドスラムを獲得したくらいだ。


 父さんも、“瑠羽は女だったら完璧だったな“とか毎回言っては瑠羽に殴られている。


 僕も、実はそう思っているのは内緒だ。本人は、中性的な顔を結構気にしているからだ。


 そんな瑠羽だから、僕のちょっとした何かで何かを感じ取ってしまうかもしれない。


 そうなる前に退散しようと思い、席を立つ。


 「兄ちゃん、もう行っちゃうの?」


 「大した事なさそうだからな。明日検査の時間前にまたこっち来るから。今日は暑いから、ちゃんと水分取るんだぞ」


 そう言って僕は、瑠羽の好きなジュースを渡す。


 「ありがとう兄ちゃん!」


 瑠羽は嬉しそうに受け取り、一気に飲み干していく。


 これだけ笑って元気なら明日の検査が終わったら退院できるかなと思って部屋を出ようとする。


 だけど、


 「兄ちゃん……」


 「なんだ? 瑠羽」


 神様は、


 「なかなか手の込んだイタズラするね」


 「は?」


 残酷だ。


 「わざわざペットボトルに色水とか入れるー?」


 「え……?」


 瑠羽は、


 「兄ちゃん? どうしたの? 兄ちゃん?」


 味覚を失っていた。



■■■■■■



 僕の異様な反応を見て、自分の状態がかなりおかしいと感づいてしまった瑠羽は、僕を問い詰めて自分の病状を知ることになった。


 自分が味覚を失ったこと、そして他の感覚も失うという事実で、僕以上にパニックを起こし、泣いて暴れる瑠羽を落ち着かせることはとてもじゃないけどできなくて、お医者さまが鎮静剤を使う自体にまでなってしまった。


 そうして眠っている瑠羽をみて、自己嫌悪と罪悪感でいたたまれなくなって病室を出た僕は、今に至っている。


 そして、ふと現実に目を移すことになる。


 (学校、辞めなきゃかなぁ)


 母さんは、瑠羽が4歳の時に事故で死んじゃったし、父さんは、カレーの帝王として全国を旅して歩いている。

 そんな人が家にずっといるとは全く思えない。


 じいちゃんとばあちゃんがいるけれど、あの二人は海外に住んでいて、まだ仕事もしている。こっちに来てといってすぐ来れる訳じゃない。


 瑠羽のこれからを考えると、もしも手足の感覚が早く無くなった場合、視覚が無くなった場合、誰かが近くにいないといけない。


 そうなると、僕しかいない。僕しか瑠羽の面倒を見れない。


 ふとたどり着いた公園の、人通りがなさそうなところにあるベンチで腰掛けながら、僕の考えた結果はこれだった。


 僕の足りない頭だと、そうするしか思いつかなかった。


 (僕一人で考えてもどうしようもない。後でじいちゃんに連絡を取ろう)


 時差で、そろそろ向こうは朝になるはずだから、それに合わせてどうしたらいいかじいちゃんに相談して今後のことを決めなきゃと思って、ベンチを立った瞬間だった。


 さっきまで夕焼けで綺麗だった景色が急に暗くなる。


 何事かと思い夕日の方角を見ると、そこには巨大な影が一つあった。


 10階建てのマンションと同じくらいの大きさであろうその影は、ゆっくりとこちらに動いているようだ。


 少し進むごとに、足元で砂煙が舞う。地鳴りと小さな地震のような振動もある。質量のある影、つまり、巨大な物体だ。


 そんな巨大な二足歩行で動く物体は僕の世界には思い当たるものはない。


 (異世界の何かだ! 何でこんなに近くまでサイレン鳴らなかったの?)


 僕はそう思い逃げようと周りを見る。すでに人影が全くないことにいま気づく。


 (あれ? もしかして避難勧告結構前に出てた?)


 考えに没頭しすぎて気付かなかったかもしれない。


 そんなことはどうでもいい。今、どうするべきなのか。


 そんなの決まってる。


 逃げるしかない。


 そう思って改めて逃げようとしたその時、


 「くっ! まさか巨大化するなんて!」


 「どうするのよ! もうエネルギーが足りないわよ!」


 「カリィはどうした?」


 「食べ過ぎでもう……無理だそうよ」


 「……つかえねぇな」


 僕は、五人のヒーローに出会った。






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