1ー4 僕の担当は……です
激しい爆発音が鳴り響く。そして、見ることのできない風の刃がその存在を示すように道路やビルに傷をつけていく。
戦闘は激化の一途を辿っているように見えるけど、実際は一方的だ。
「何故だ! 何故効かない!」
若と呼ばれた魔族は焦りの色を濃く浮かべて、掌から炎を出す。
全てを燃やし尽くすかのような、深紅に燃えるその炎を黒仮面、カフェインに放つ。
「…………無駄だといっているのがわからないのか?」
カフェインは、その炎を避けることなくその身に受ける。
轟々と燃え盛る炎の中をまるで何事もないかのように歩くカフェイン。
「そんな馬鹿な! その炎はサラマンダーですら燃やし尽くすほどの炎だぞ!? なぜ効かない!」
その異様な光景に恐怖を感じたようで、若と言われた魔族はカフェインが一歩歩む毎に一歩後退する。
「お前のいうサラマンダーがどのくらいの敵か知らないが」
そう言うと、一気にカフェインは間合いを詰める。
急な出来事に魔族の反応が完全に遅れる。
「速…!」
「俺のスーツは、レッドドラゴンの炎も通さない!」
そう言うと、魔族の鳩尾辺りに突き上げるような強烈な拳の一撃をお見舞いする。
「ご……ぐぇ……」
魔族の体は、くの字を通り越してほぼ二つ折りになるくらいに折れ曲がり、吐瀉物が込み上げてきたみたいだ。
カフェインは、それが吐きされる前に素早く拳を引き、魔族を地面に落とす。
力なく横たわる魔族から吐瀉物が地面に広がる。
痙攣はしているけど他に動く様子は全くない。
どうやら、ものすごい激痛という現実から目を背けるために意識を失ったみたいだ。
そして、その魔族のすぐ近くに何かが落ちてくる。それはもう一人の魔族で、そちらも落下の衝撃で失神しているみたいだ。
「なんか、大風呂敷広げてたけどさ、レッドドラゴンなんて今まであったことあったっけ?」
「俺は無い。ただ、2代前がやり合ったという記録が残っていた」
「へぇ、いつかやり合ってみたいわね、あんな程度の低い牛頭じゃなくて」
ソルトが視線を向けた先には、ミノタウロスの頭が転がっている。
戦闘が開始してすぐにソルトに襲い掛かってきたのだが、一撃で倒されてしまったのだ。
「お前は大概脳筋だな。ソルト」
「あんたに言われたくないわよ。カフィ」
そのまま、二人でしばらく会話をしていたのだが、思い出したかのようにこちらを見るソルト。
「もう終わったわよ。いつまでそこにいるのよ。早くこっちに来なさいよ」
「こいつらを元の世界に転送しないといけないからな。お前がいないとどうしようもない」
二人に呼ばれた僕は、隠れていた場所から出て、二人の元へ向かう。
「まぁ、必要なことだって分かってるし、あたし達はそれで助かってるんだけど、良くこんな状況でも食べていられるわね」
呆れ顔でソルトが僕に話しかける。なぜそんなことを言われているかというと、当然ボクが今もカレーを食べているからだ。
「今日はどれくらい食べてたんだ?おかげで奴の魔法は一切通さなかったから助かった」
「今日は、あのカレーチェーンの普通サイズでいえば、15食分くらいじゃないかな」
僕の言葉を聞いて、ソルトがげんなりした顔を見せる。こんな美味しいカレーだったら軽く今の三倍はいける。
「あんたの胃は異常なの?15食分とか、正気の沙汰じゃないわよ」
「美味しいから、大丈夫だよ」
「キモっ」
僕がおどけてそう言うと、吐き捨てるようにソルトが応える。
キモいのは分かってるけど、そんな風に言われると地味に凹むなぁ。
「おかげで助かった。ありがとう、カリィ」
「どういたしまして、カフィ」
場を取り持つようにカフェインが僕に話しかける。
そう、僕の格好はいま、黄色のマスクに黄色のヒーロースーツ。
フレーバーズの一員“カリィ“なんだ。
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この世界にある、万能エネルギーを利用したヒーロースーツを開発した僕の国の技術者だったけど、一つ問題があったんだ。
それは、そのエネルギーは体に取り込まないと、そして取り込みつづけないと本来の力を発揮できないということだった。
ヒーロースーツは、そのエネルギーの具現化を補助するためのスーツで、力を発揮する度に体の中に取り入れていたエネルギーがどんどん消費されていってしまう。
エネルギーを補充するためには再度そのエネルギーを摂取しないといけないのだが、戦闘中などにそのようなことをしているヒマなど無い。
そこで一体どうしたら良いのか技術者達が考え抜いて出した結論は
エネルギー摂取をメインとしたサポートスーツを作れば良いんじゃないか。
ということだった。
そこでできたのが、僕の今着ている黄色いスーツ。
コードネームを“カリィ“といい、他のヒーローが戦闘中にその場所で戦闘に参加せずにエネルギーを補充して続けるという、エネルギー担当を担っているのだ。
そして、僕がずっと食べつづけていた白い器に入っていたカレー、いや、カレーのような物体こそが、その万能エネルギー“カリィライッソォ“なんだ。
食べたら食べた分だけまた湧き出るカリィライッソォをひたすら食べてるのが僕の仕事なわけだ。
味はまさにカレー。そう、僕が愛すべきカレーの味なんだ。
命をかけて、世界を守るヒーローのために、ひたすら愛すべきカレーを心置きなく食べつづけられるカレー担当。それが僕の役割だ。
■■■■■■
僕たちが魔族を監視しながら話をしていると、空から誰かが降りて来る。
降りてきたのは、白い仮面とヒーロースーツをきた人間だ。
ソルトと同じ白だけど、ソルトは顔の上部分を隠す仮面を付けているが、シュガーは顔全体を隠す仮面を付けている。そして、動きやすそうな軽装のソルトに比べ、やや女性らしいフォルムのスーツを着ているのが特徴だ。
「シュガー、逃げていた女達の避難は終わったのか?」
「えぇ、無事に終わったわ。ありがとう。カリィ」
「あぁ、無事に逃げ切れたんだ。よかったぁ……」
カフェインの質問に答えるシュガーの言葉に僕はホッとする。
シュガー・ペッパー・ビネガーの3人が護衛に回った時点で大丈夫なのはほぼ確信できたけど、心配だったものは心配だ。
その時ふとシュガーを見たんだけど、何やらお気に召さない様子だ。
「なんで、カリィだけ頑張った事になってるのよ。あたし達が来なかったら意味ないじゃないの」
「むしろ、俺達が来るのが遅かったからカリィが時間稼ぎをしないといけなくなったんだがな」
どうやらシュガーに労われたのが僕だけだったのが気に入らなかったみたいだ。
だけど、カフェインの一言で一気にトーンダウンしてしまう。
話を聞いていると、どうやらあの魔族が他の場所で召喚していたモンスターを探して倒すのに時間がかかっていたようだ。
「でも、二人のおかげで僕も助かったんだ。本当にありがとう。カフィ、ソルト」
「そうよ! 感謝しなさいよね! っていうか、何であんた変身しないでここにいたのよ? 危ないじゃないの」
「家に帰る途中でいきなり襲われてパニックになっちゃって……でも、とりあえずこれだけは転送させなきゃって思って……」
ソルトの質問に僕はエネルギーが入った白い器を出す。とりあえずこれを出さないと皆のエネルギー確保ができないからだ。
「次からは、ちゃんと変身もすることだ。それで、俺達もお前の位置が把握してすぐに守りに向かえる。俺達の代わりは見つけられるが、お前の代わりは誰もできない」
「エネルギー担当として有能だけど、あんた弱いんだから、倒れると何の意味も無いんだから気をつけなさいよね」
僕の言葉にカフェインとソルトが注意をする。言われていることは尤もなので、僕は頷いて反省する。
「さて、この者達を元の場所に帰さないといけませんね」
シュガーはそう言って手をかざすと、魔族達と肉片になった周囲の魔物達が光り出す。
光が強くなるにつれて、魔族達の体が分解されるようにゆっくりと消えていく。
しばらくすると、目の前にいた魔族を含めて、周囲の魔物の姿も全て消えてしまった。
「……先程の話を聞いて、もしかしてと思って大規模の転送魔法を使ったのですが…………自分の魔力を一切使わないで済むなんて…………」
「そうよね、いつもは魔物の死体なんか送り返せないもんね」
本当に出来るとは思ってなかったようで、自分のやったことに驚きの声を上げるシュガーと、それに同意するソルト。
僕のカレー愛が、みんなの役に立てたのなら良かったよ。
これで、僕の2回目の出動が無事に終わることができた。
今回の戦いの成功を祝って、僕は器の中にあるカレーを食べるのだった。
「アンタ! まだ食べるの!?」
僕のカレー愛は止まらない。
ー次回予告ー
フレーバーズのエネルギー担当として戦うことになった僕だけど、その理由はカレーが好きなだけ食べられるからってだけじゃなかった。
いや、カレーが好きなだけ食べれるって最高だけどね!?
なんで僕は、フレーバーズの一員になったのか!
(瑠羽、兄ちゃん頑張るからな!)
次回『僕がスーツを着る理由』