思い出すは、深海魚
暗いです。
…誰かが、僕を呼んでいる
暗い 真っ暗だ
海の底から 誰なんだろう
何なんだろう…
そうだ!あれは…
「…君!海君!!!」
はっと、気づく。僕は時々、何か白昼夢のようなものを見る。この、白昼夢について僕は知っているはずだ。だが、僕は思い出せずにいる。いけないいけないこんな事を考えていては、僕はしがない会社の給料で、彼女と水族館に来ていたのだった。危ない危ない…。
「ごめんごめん。ぼーっとしてたよ。」
僕は、慌てて彼女にそう答えた。
「海君ってさー、時々そうなるよね!ぼーってしてさ!てか、男の人って意味わからない時にぼーって…」
まずいなあ。こうなると、この娘は長いんだよなあ。ここは話題をうまく切り替えて、この場を乗り切ろう…。
「あ、あれ!深海魚コーナー!ダイオウイカとかもいるのかねえ!ははは…。」
ちらっと、彼女を見ながら言う。果たしてどうだろうか…
「あっはは!海君ウケる!ダイオウイカはこんなちっぽけな深海魚コーナーじゃ収まんないでしょ!ははは!」
どうやら、なぜか受けたらしい。意味が分からん。本当にこの娘は、熱帯魚のように敏感で、鯉のように図太いと思う。いや、もはや竜だな。恐ろしい…。まあ、機嫌を直してくれたみたいでありがたい。
彼女が機嫌を直してくれたみたいなので、2人で深海魚コーナーを見ることになった。深海魚コーナーは薄暗い。だが、ぼんやりとしたほのかな青い灯りが幻想的に見えた。水のゆらめきと、青い灯りに照らされた、この深海魚は一体どのようなことを考えているのだろうか…という気持ちになった。
深海魚なんて、見るのは何年ぶりだろう…。ん?僕は、深海魚を見ている…!いや、違う!深海魚で何か思い出さなければいけないことがある!どこだ、いつのどの場所だ…!
そうか…!あの時…!今が25だから、およそ15年前、小4の時!
確かに、僕は深海魚に会っていた。