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第四話

「あれ? 珍しいわね、弁当なんて」

「へ?」

「へ?って、それお弁当じゃないの?」

「ああ……そうだ。そうだよな」

「?」

美沙に指摘されて、雅史はようやく、渚がプレゼントしてくれた物の正体に気付いた。

(そうか、わざわざ昼休みに届けてくれたんだもんな。むしろ気付かない俺がどうかしてる)

雅史は、なんとなく反省したい気分になりながら、昨日と同じように美沙の隣に腰掛け、推定弁当のフタを開ける。そこには、バランスが考えられており、かつ見る者を楽しませてくれる色彩豊かな世界が広がっていた。雅史は思わず感嘆を漏らした。

「へぇ……手間かかってるな」

定型句を述べてから、雅史は用意されていた割り箸で食材をつまみ始める。全体の量はそれほど多くなかったが、買ったパンもあるので気にはならない。

「……ん?」

だが。

別の観点において、異変はすぐに訪れた。

卵焼きに殻が入っている。

ニンジンの皮がむけていない。

ミニハンバーグが生焼けである。

漬け物のキュウリが一つに繋がっている。

ご飯に含まれている水分が規定以上である。

うさぎりんごが返り血を浴びている。

「……雅史のお母さんが料理しない理由、わかった気がするわ」

「いや……まあ、そうなんだが」

実際には、この弁当を料理したのは渚だが、確かに雅史の母は似たようなスキルの持ち主である。

「でも、なんで今日に限って?」

「いや、色々、突然の事情が、あってな」

真実を話すのははばかられたが、かと言って嘘をつくのは正しくないと考えた雅史は、慎重に言葉を選んで答えた。

「ふーん。……ねえ、それ美味しい?」

「……好意を馬鹿にしたくないから答えん」

「それ、間接的に答えてない?」

「………………」

美沙は、そこで僅かに顔をうつむけた。

「も、もしよかったらだけどさ。わたしが、その、お昼ご飯みたいなの、作ってあげよっか?」

「え?」

突然の申し出に、雅史は首を捻る。

「べべべつに、深い意味じゃないわよっ!? ただ、そう、成長期の男子はちゃんとした食事採らないと体に悪いとかあるじゃない!どうせ兄貴とかお父さんの分作るついでだし!」

「あ、ああ……事情はまあ、わかった」

身を乗り出してきた美沙に、雅史は反射的にのけぞりながら答えた。妙に熱が入っている理由は定かではないが、毎日コンビニのパンで昼食を済ませている雅史にとって、魅力的な提案ではあった。

「で!?どうなのよ?」

「いや……でも、俺は何も返せないぞ?」

「何言ってんの!? アンタは、いつも無償で体張ってるんだから、これぐらいあってもバチは当たらないわよ!」

「そ、そうかあ……?」

「そうなの!」

話しながらも、美沙が前に、雅史が後ろに上体を傾けていたせいで、第三者から見ると美沙が雅史を襲っているかのようだが、もちろん二人は気付いていない。

いつかのように、いやそのときよりずっと近くで、二人は見つめ合う。

「…………」

「……わかった。それじゃ、頼む」

「わ、わかればいいのよ、わかればっ」

そこで美沙は、今更顔を見る間に赤らめて、バネのように雅史から遠ざかった。


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