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エピローグ

劇的な告白から一週間が過ぎた。

早朝、まだ活動的な運動部の生徒しか登校しないような時刻に、人のまばらな通学路を並んで歩く男子と女子。

「あー……眠い」

「当たり前なこと言わないでよ! あたしだって眠いんだから……ふわぁ」

雅史と美沙だ。ついこの前までは瑞希と登校していた美沙だったが、宋士の朝練を手伝う雅史に時間を合わせるようになっていた。周りに会話を聞かれる心配も少ないので、敬語ではない。

「辛くないのか?」

「ふぇ? な、何がよ?」

二度目の欠伸と闘っていた美沙は、突然の雅史の問いに眉をひそめた。

「いや、時間の話。大分早くなったんだろ?」

「ああ……そゆこと」

あの一件の後、雅史は美沙に対して何かと気を遣うようになっていた。だが、生活力に関しては美沙の方が勝っているのは明らかで、雅史の杞憂に過ぎない心配がほとんどなのだが、

(……散々待たせたんだもん。ちょっとぐらい、ワガママ言ったっていいわよね)

その心遣いが嬉しいので、美沙は度重なる彼の好意をありがたく受け取ることにしていた。端からだとただのパシリにしか見えないこともない。

「俺のために無理すんなよ? 別に、昼でも放課後でも会えるんだから」

「……あんたねぇ」

しかし、こうも迂闊に乙女心を逆なでられる機会が多いと、怒鳴りたくなるのが人情である。


「俺のせいで美沙が傷付くのは、もう御免だからな」


「ーーい、いいのよっ! あたしが好きでやってるんだから!」

……怒鳴るには怒鳴ったが、顔を怒り以外の理由で真っ赤に染めていては、効果は薄かった。


「ーーこれで俺の七連勝だ」

「ぐ……最近厳しいな、土方」

「そうか?その逆かも知れんぞ」

ここ何日か、雅史は将棋の成績がこれまでの勝率をかなり下回っていた。宋士はとぼけたものの、明らかに彼は本気を出していた。

「さ、次だ。雅史、お前が腑抜けになっていないことを証明したくば、言葉ではなく盤面で示せ」

「……なあ。お前、なんか怒ってないか?」

ピタリ、と宋士の駒を持つ手が止まる。

「ははは。可笑しなことを言うな、雅史。何故なにゆえ俺が憤怒せねばならんのだ?」

「あはは……だよな、悪い。俺の勘違いみたいだ」



「ーーああ。実の妹がとある男に見事にフられ、あまつさえ目の前で他の女と接吻されたからと言って、心底腸はらわたが煮えくり返るような俺ではないよ」



「え……うえぇぇええええええええっ!?」

土方渚ひじかた なぎさの兄、土方宋士は、あくまで無表情に、持ち駒の飛車を、鬼神の如き迫力を以て、親の敵を討ち取るように、盤上に叩き付けた。


「で?で?ぶっちゃけどこまでいったのかね?」

いつもの授業中、いつにも増して瑞希はハイテンションだ。

「だーかーら、何もないっつーの!」

定期テストが近いので授業に集中したい雅史だったが、これではどうしようもない。

「ホントにー?」

「お前に嘘つく気はないっつーの。……なんていうか、世話になったしな」

一番肝心な場面で迷いを断ち切ってくれた瑞希に、雅史は心から感謝していた。

「……ふぅん」

雅史の答えに何を感じたのか、瑞希は突然大人しくなった。細めた彼女の目から、感情は読み取れない。

「ど、どした」

「……まいいや。寝る」

言うや否や、机に突っ伏す瑞希。

「……なんなんだ」

雅史はため息をひとつついていたので、

「…………せに」

瑞希が小さく呟いた台詞には、気付かなかった。


放課後になった。

「遅いです!」

「お前が早いんだ!今回はホームルーム終わってすぐすっ飛んで来たんだぞ!?」

「あれー、言い訳ですかー?」

「ぐっ……分かった、今回は俺が悪かった。だがしかし、明日は覚えてろよ!」

「はいはい。いいから早く帰りましょー」

雅史の宣言を軽く流して、美沙はさっさと歩き出す。

「ったく……」

その姿を追おうとしてーーそろそろ散ってしまう桜の花びらを乗せた風が、不意に彼女の髪をなびかせる。

「ーーーー」

それは、本当に一瞬だったけれど。

得たものの美しさと大切さを再確認するには、充分な時間だった。

雅史がついてこないことにようやく気付いた美沙は、振り返り、満面の笑顔をたたえて、呼びかける。


「何してんの雅史!置いてくわよー!?」


「ああーー待ってくれ、すぐ行くから!」

そうして雅史は、桜の舞い散るその道を、ずっと共にあると決めた最愛の幼なじみへと向かって、しっかりと前を見据えて走り始めた。

というわけで完結です。ここまでのお付き合いありがとうございました。機会があれば、また甘甘なお話か、学園カオス第二弾でお会いしましょう!

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