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第二話 一国の崩壊

魔界騎士団2番隊隊長リクが目覚めると、彼の滞在していたカンロ市は炎上していた。

そこへ同行していたハルエ。


「サディス盗賊団を倒さないと」

「サディス盗賊団を倒しに行くぞ」


カンロ市を襲った盗賊団は何人もいてみんな棍棒やナイフで武装しており強かったが何とか倒した。

すると副団長が現れる。


「ヒヒヒ団長はここにはいない死ね」

「弱そう」


ハルエのスキルで瞬殺した。

そこへ宿屋から逃げ出してきたキリシとスズロとリリア。


「お、お前は……!」


廃墟と化した町の中、背後からかけられた懐かしい声に少女が振り返る。

視線が交錯し、双方の瞳が驚きに見開かれた。


「キリシ?」

「お前もここに……ってことは、そうか、やっぱり……ああ……」

「キリシ! ひっさびさー」


全くペースを乱さず、道端でばったり旧友と会った時のようなリアクションを示すハルエ。

一方のキリシは、気を抜くと溢れ出てしまいそうな、様々の感情を必死に我慢していた……。


―俺の目の前に現れたのは、長年の親友、市村ハルエだった。いつもと変わらないブレザー姿の彼女は、いともたやすく盗賊連中を叩きのめす最強の拳闘士と化していた。


【イチムラ・ハルエ】

コスト:12

レベル:52

クラス:グラップラー

スキル:防壁貫通拳、魔導外装、存在探知


「ハルエ…本当にハルエなんだな」

「うん…会えてうれしいよ、キリシ君」


―だが、再会を喜ぶのはまだ早い。


「とりあえず、今は盗賊どもを蹴散らすのが先だ」

「うん、やっちゃおう!」

「行け、モンスター達!」


カンロ市にたどり着くまでの間、俺はエンカウントしたモンスターのうち比較的強力な個体をカード化していたのだ。召喚された3匹のモンスター―雷鳥サンダーバード、炎魔ヘルファイア、水精ウンディーネ―が盗賊に襲い掛かる。

一方のハルエは屈強な盗賊達を拳二つで次々と粉砕していく。リリアさんやハルエと共に現れた男も、俺たちの死角をカバーしてくれている。スズロは絶妙なタイミングで回復魔法や強化魔法を詠唱し、サポート役の仕事を全うしている。


「畜生、何て強さだ…!」

「副団長もやられちまったし…俺たちじゃどうしようもねぇ!」

「に、逃げろ~!」


俺たちに敵わないと悟った盗賊たちは、惨めに敗走していった。


「やったね、キリシ君!」

「ああ、ハルエ!それにしてもお前、すごいスキルだな。防御力無視のパンチと、魔力が続く限り無敵のシールドかよ」

「キリシ君こそ、カードゲーム部部長らしいスキルじゃん。…でも、もしかしてそのスキル、エッチなことに使おうとか考えてないよね?」

「そ、そんな事あるわけないだろハルエ!まっさかぁ~!」

「…まあ、いいけど。私、キリシ君よりコスト高いし」

「ところで、その男の人は…?」


俺は鎧を纏った男に顔を向ける。リク・ビッテンフェルト―何故か名前とクラス以外のステータスを読み取ることが出来ないが、それが彼のスキルなのだろうか。だとしたら胡散臭い奴だ。ハルエに変なことしてないよな。


 「俺はリク・ビッテンフェルト。魔界騎士団2番隊の隊長だ。もっとも、今は長期休暇中だがな。城の裏庭でハルエを拾って以来、案内役としてお前さんを探す手伝いをしていた」

「どうも、クロマ・キリシです。ハルエがお世話になっています」

「私のスキル、『存在探知』は知っている人がいる場所が大雑把にわかる能力なんだ。でもこの世界のことよくわかんないから、リクさんに案内してもらったの。おかげでこうやって、キリシ君にあえたわけ」

「なるほどな。ありがとう、リクさん」

「まあ、気にするな。俺も休暇で退屈していたし、旅を楽しませてもらったよ」

「で、キリシ君。そこの女の子は…?」


ハルエはスズロとリリアさんを訝しげに睨む。


「あたしはリリア・オークウッド。クラスは騎士よ」

「スズロ・オークウッドです。白魔導士です」

「俺が目覚めたのはシロガ村という小さな村の近くの森だった。この二人に助けられて村に案内されたんだが、村は盗賊団に壊滅されられていた。俺たち三人は盗賊団をブッ潰すために、情報が集まるこの町にやってきたんだ」

「んで、そこも盗賊団に襲われたと。運が無いねえ、キリシ君は」


ハルエが嘆息する。だが、運のせいだと片づけるにはタイミングが良すぎる。おそらく俺たちは道中で奴らのスパイに捕捉されていたのだろう。


―ゴーン、ゴーン。


町の中央にある駐屯地の鐘が鳴り響く。避難命令が解除された知らせだろう。


「さて、それじゃ司令部に報告に行くとしようか。盗賊を始末した報奨金をいただかないとな」


リクさんの案内で、俺たち5人は駐屯地へと向かった。


―王国の西端に位置する、とある古城。

かつての戦で主を失い朽ち果てたこの城は、サディス盗賊団の本営と化していた。その地下室では、一人の銀髪の少女が全裸で磔にされていた。少女の身体には無数の痣が浮かび、凄惨な拷問の跡を示している。


「やれやれ、こうまでしても折れないとはね」


少女の顔を覗き込み、邪悪な笑みを浮かべる以蔵。銀髪の少女は力強い眼差しでそれを睨み返す。


「以蔵、君はやっぱり狂っている―教えてくれ、何故君がそうなってしまったのか」

「ごちゃごちゃうるせえんだよ、ゴミの分際で!」

「ぎゃあああああああああ!!!」


少女の身体を容赦ない電撃が襲う。既に、何度も繰り返されたやりとりだった。以蔵は物理や魔法で限界まで痛めつけてから、回復魔法で元に戻すという方法で少女を屈服させようとする。しかし銀髪のホムンクルス―キリカの魂を宿したそれは、未だ抵抗の意志を保ち続けていた。

ホムンクルスとは、錬金術師によって生み出された、生贄や戦闘のために使用される魂を持たない人造人間である。以蔵によって吸収されたキリカの魂は、その肉体に転移させられていたのだ。


「…はあ、はあ。この程度かい、以蔵」

「口の減らない奴だな、お前も。なら、別の趣向と行こうか、フローネ」

「はい、以蔵様」


地下室の暗闇から、黒いローブを身に纏った青髪の少女が現れる。


【フローネ・チェストフ】

コスト:11

レベル:35

クラス:妖術師

スキル:感覚操作・薬学知識


「こいつにとびっきりの『気持ち良いの』をくれてやってくれ」

「承知しましたわ」


フローネは注射器を取り出し、キリカの内腿に薬物を注入する。


「何をする、お前…!」

「うふふ…」


やがて、内腿から股間にかけて、猛烈な“熱”がこみ上げる。キリカの口から甘い吐息が漏れる。フローネの媚薬と感覚操作は、キリカの全身に依存性の強い「快感」をもたらし始めた。


「キリシ、ごめん…ぁぁぁぁああああ!」


鋭い刃物が脳に侵入してくるような快楽に、意識が飛びそうになる。

鋭敏になったキリカの体、その上半身に聳える双丘をフローネが揉みしだく。

その先端に咲く桃色の蕾をこねくりまわされると、背筋にゾクっと電流が走った。


「くふぅぅぅぅっ」

「無様だねえキリカ。痛みには強い忍耐で耐えられても、快楽を拒む術はないみたいだな」

「ぐぅぅっ、こんなの、絶対負けない...」


固く結ばれたキリカの口から、抵抗の言葉が絞り出される。

だが以蔵とフローネは知っていた。それが、恐ろしく脆い虚勢に過ぎないことを。


「あーら、まだそんな口聞けたのね。お仕置きが足りないのかしら。安心して、すぐにトバしてア・ゲ・ル」


フローネは妖艶に微笑むと、近くのビーカーから何やら怪しい生物を取り出した。

見た目はタコのような、それでいて粘性が高くグロテスクで気持ち悪いーーーーー。


「これ、知らないわよね。表沙汰にはなってないけど、この地方では一部の女性が女性ホルモン分泌を促進する目的で、性感マッサージをする習慣があってね。そういうレジャーの一貫で、この子たちが重宝されるのよ」

「ひっ」


フローネの手を離れた触手が、キリカの股間に密着する。そのおぞましさに、キリカは顔をひくつかせた。


「通称、オクトパッション。まあこの子たちは闇市場に流通するものに改造を加えて、強力にしてあるんだけどね!」

「あ、ああああああ!」


触手が蠢き、キリカを未知の快楽が襲う。舐められ、擦られ、こねくりまわされる。

キリカの体は、本人の意思とは無関係に、性的な昂りへと押し上げられていく。


「怖い? いいえ、気持ちいいわよねえ? 人間、恐怖を感じる脳の部位は恐怖を感じる部位に極めて近いの。だから、しばしば恐怖と快楽は、脳において混同されるのよ。それ故に快楽殺人や、流血に興奮する人が後をたたないのよねー」


フローネの高説も、キリカには届いていない。


「ダメ、これ以上はもうっ! もうっ!」


そんな懇願を撥ね付けるように、以蔵が自らのシンボルをキリカの尻にあてがう。


「やっ! 今そっちされたら、私もう、もうっ....」

「あーん、なんだって?」


異物がまたひとつキリカの中を侵し。


「はあああああぁああああああんんんん!」


キリカの意識はとうとう焼ききれた。


―――――ごめんね、キリシ。私、汚されちゃった。


消えゆく意識の中で、キリカは一言呟いた。


「うっ、ふう...やっぱりオ○ニーは最高だぜ!」


時同じくして、魔界騎士団司令部のトイレ。

キリシはハルエとオークウッド姉妹という三人の体を思い浮かべながら、男の営みを終えた。


「はあ。いやー、こっち来てから抜いてなかったからな。キリカ、以蔵のとこで元気でやってるかな。今度ビデオレターでも送ってやりたいな」


キリシは溜め息をつきながら、トイレの水洗レバーに手をかける。

キリカが引き剥がされたことによる不安定さ、街の悲惨な死体たち、血の臭い。

色んな感情がない交ぜになって―――――キリシは、少しずつ狂いつつあった。


「俺はリクだが、実は俺もハスキーボイスで男だと勘違いされるけど女なんだ」

「これでハーレム形成だせ」


キリシはキリカから経験値を得たことで12に上がったコストを活かし、魔札封印のスキルでオークウッド姉妹をカード化した。


「キリシどうしてそんなことを」

「俺は狂ったのだ、ヒヒヒ俺は主人公だから無双して陵辱し破壊し奴隷」

「見損なった」


そしてリクとハルエが襲ってきたが、管理者の手腕でオークウッド姉妹とモンスター達から吸い上げた経験値でコストを14に上げて何とか倒し二人ともカード化した。


「これでキリシ帝国だ」


魔界騎士団司令部は崩壊し、跡地にキリシ帝国が樹立された。

サディス盗賊団、王国、キリシ帝国の三国時代の始まり……。


「はっ」


スズロは体中を流れる凄まじい汗を感じながら目を覚ました。隣では姉のリリアとハルエがすうすう寝息を立てている。


「今のは……」


ただの夢? それにしたってあまりに酷い夢だ。キリシは自分たちを助けて、ここまで連れてきてくれた。そのキリシが今更ハルエ達もろとも見境なしにカード化してくる、などと……冒涜的なまでの悪夢だ。

しかし……知っているのは姉のリリアだけだが、スズロは小さい頃から何度か予知夢を見たことがあったのだ。それも、とびっきりの悪い夢に限っていつも現実になってしまう。


「キリシ……信じていいんですよね……」


スズロは胸元を押さえた。

果たして、彼女の切実な願いは報われるのだろうか。


―身体に浮遊感があった。何も着ていない裸の体には痛ましい拷問の跡、そして凄まじいまでの快楽の余韻。

キリカは自分に何が起きたか思い出そうとした。妖術師と以蔵が与えてくる異形の快楽に負け、陵辱されて感じてしまい、意識まで失って、そして……。

快感のあまり、ついに昇天してしまったのだろうか。宙空に浮き、地上を眺めている自分。どこかの森だった。フローネと名乗っていた青髪の妖術師の少女がいる。とても楽しそうな表情で、あのオクトパッションとかいう触手生物の捕獲を行っている。タコなのに、どうやら生息しているのは森系のエリアらしい。

現実感のない光景だった。だが……キリカは、直感的にこの現象の意味を理解した。当たり前のように、自然と悟ることができた。理解したことを自覚した瞬間、スキルの説明文が目の前に浮かび上がった。


タイムシフト:周囲に存在する人物の精神へ潜行し、その人物が持つ過去の記憶、精神に記録されている過去の映像や感情を追体験することができる。一度潜行を行った人物の精神は、その人物が近くにいればスクリーン上に映し出すことも可能。


マインドベイン:他人の精神に潜行し、0101100記憶を見て10101011いる最中に発動することで、その人物の記0110...01110に、干渉しトラウ00.11110000与え破壊..01110001011書き換えも可1101


後半はノイズが入っており解読できなかった……だが、何ができるのか、何をすればいいのかは自ずと知ってしまっていた。

「支配して奴隷とし使役する」、それがキリシに与えられただった。単純明快な欲望と邪悪さ、強さへの渇望の現れ。では自分のこれは、一体?

キリシの魔札封印も大概だが、それを遥かに上回る冒涜的で危険な他者への攻撃手段。これが自分の本質だとでも言うのか?

キリカは迷いを振り切る。冒涜はお互い様だ。快楽でトんでしまったことがスキル覚醒のきっかけになるなど笑い話にもならないし、キリシ達には絶対言えない。だがとにかく何にせよ、今はキリシ達の元へ帰らなけれならない。

自分がついていなければ、間違いなくキリシは一瞬でダメになる。自分も、キリシと一緒じゃないといつかは己が何者なのか分からなくなってしまう。あくまでクロマ・キリカはクロマ・キリシから生まれた存在なのだ。絶対にキリシのところに帰らなけれならない。そのために、時には手段を選ばないことも必要になる。今までもそうしてきた。だから、今回も。

偶発的に覚醒した「タイムシフト」のスキルにより、飛ばされた意識をフローネの精神、過去の記憶映像へ潜り込ませたキリカは、凄絶な覚悟と共に、「マインドベイン」のスキルを発動させた。


「以蔵様ぁ」

「ようフローネ。キリカの様子はどうだ」


キリカの肉体を思いっきり自分のなんかで汚したことで満足し、賢者モードに入ってしまったため一旦自室へ戻った以蔵の前にフローネが現れる。その瞳は焦点を失っており、足取りはふらついている。


「キリカ様。あは、キリカ様の話ですかぁ。そんなことより以蔵様、あなたも一度女の子の快楽を味わってみましょ」

「は?」

「最高よ。頭の中も体の外も中もぜーぶ触手様色に染め上げられるのって、こーんなに気持ちいいことだったのね」

「お前、いきなり何言って……何イーッ!」


ありえないはずの異変。以蔵は素早く跳躍して臨戦態勢を取った。ようやく気付いたのだ。

忠実な部下でありハーレムの一人であるはずのフローネが、大量の触手生物をいつの間にか部屋中に這わせ、自らの主へ牙を剥いていることに……。


「フローネ‥‥貴様なんのつもりだ‥」


以蔵は想定外の裏切りに、怒りで声を震わせながら吼える。

その時、気付く。いままで捕らえていたはずの少女の姿がどこにも見当たらないことに。


「ああ、なるほどね、そういう‥‥。そういうあれか‥‥」


以蔵は怒りに身を任せ―


「キリカァァ!!」


絶叫しながらフローネに襲いかかった。彼にとって他人は道具。思い通りにならない道具など‥‥不要だ。


―スズロが悪夢を見た翌朝、リクとスズロとリリアという珍しい組み合わせの3人は、食料の買い出しに来ていた。

ハルエとキリシはもとの世界について二人で語らい始めてしまい、なんとなく気まずくなって、その場にいられなくなってしまったのだ。

彼らが赴いたカンロ市は復興に向かい歩み始めていた。


「さてさて、何買おうかねぇ?とりあえず酒だな。」リクがつぶやく。

「ちょっと!貴重なお金を浪費しないの!まずは保存の効く食料品を買わなきゃダメ!!」

「えー、いいだろ別に‥‥」

「まったく、アンタを一人にしないで正解だったわよ‥とりあえず私は向こうで特売品買ってくるから、アンタもきっちり必要なもの買いなさいよ。スズロ、こいつの監視任せたからね!」


そう言うと、リリアは特売品目掛けて突っ込んでいった。


「信用ないな‥俺‥。ま、いいや。ほらいくぞ、月日。」

「それ誰ですか。」

「何って。お前ら姉妹って火憐と月日じゃないの?ファイヤーシスターズじゃないの?」

「だからそれ誰ですか。バカ言わないでください。」


リクとスズロは市場へと赴むき、買物を進める。スズロは終始無言だった。あの夢のことが頭から離れない。キリシさんは少し不純だけどみんなを守ってくれる人だと思っていた。今だってそう信じている。けど‥‥


「卵、牛乳、肉、白米、大根、豆腐、DVD、以上でよろしいですか。」

「うん、あとさ、このDVD人妻もの?」

「いえ、素人ものです。」

「あちゃーもう見飽きちゃったよ‥‥。新ジャンル開拓するつもりだったのに‥。」

「って、あんたは何買ってるんですか!?」


店員とリクとの会話が耳に入ってきたスズロは慌ててツッコミを入れる。油断も隙もありゃしない。

リクとスズロは買物を終えて店の外を歩く。


「あーあ、せっかくの機会だったのに‥‥、返品することはねぇだろ。」

「あんなものにお金使おうとするあなたが悪いんです!」

「男なんてそんな生き物だからね。四六時中エロのことしか考えてねぇよ。」

「もう、あなたがあの魔界騎士団の一員だなんて、しかも2番隊隊長だなんて思えません。」


魔界騎士団はこのスターラ王国において唯一活動が公認されている組織。国中の猛者たちが入団を希望するも、団員として認められるのはほんの一握りだけという。

ましては隊長に抜擢されるものなどほぼ皆無で、スズロも隊長格と直接対面したのは初めてだった。

こんな男に1番隊の次に強いとされる2番隊の隊長が務まっているだなんて信じ難い。


「俺だってなりたくてなった訳じゃないの。なあ。ところでお前、なんか悩んでるだろ?」

「ど、どうしてわかったんですか?!」

「当たり前だろ、顔に出すぎなんだよお前は」


どうやら私は相当元気のない顔をしていたようだ。


「ねぇ、リクさん。もし信じたいと思う人がいて、でもその人が裏切るかもしれないって思ったらどうする‥‥?」

「どうするってお前‥‥質問が抽象的でよくわからないが‥‥。

俺ならそうだな、そいつを信じる。」

「え‥‥」

「なんだか知らないが、そいつはお前が信じるに値することをしたんだろ?だったら信じてればいいだろ。」

「で‥でも‥」

「そんで、もしそいつがお前の信じるそいつじゃなくなったと思った時には、お前がそいつをしばいて元どおりにしてやれ。そん時は俺も手伝うさ。」

「本当ですか‥‥‥?」

「ああ、約束する」

「リクさん‥‥」

「だから、さっきの素人ものを買いに戻ろう!」

「黙れ童貞。」

「貴様ぁぁぁ!!」


そのころリリアは店の不興をかいつつ特売品を安く買い占め、ご満悦で店を出てくるところだった。


「さて買い残しはないかな‥‥」


(リリアさん‥‥)


突如頭の中に直接語りかけてくるような感覚。


(こっち‥です‥‥)


その声に導かれるままに彼女は路地裏へと進む。普段なら警戒するところだが、今回は違った。その声はなつかしい、聞き覚えのあるあの声だったから。

路地裏を覗き込んだリリアが見つける、傷だらけの少女の姿。


「やっと会えました‥‥お久しぶりです。リリアさん‥。」

「キ‥キリカ‥?あんた、キリカよね!?


お久しぶりじゃないわよ!酷い傷‥すぐに手当てしなきゃ命に関わるわ!すぐに運んであげるから!」


「手当てー?んなもんいらねぇ。」


突如リリアとキリカの背後から聞こえてきた声。

リリアの背筋が凍りつく。


「だって、キリカはここで死ぬからね。」

「森以蔵‥」

「逃げてください、リリアさん!時間稼ぎくらいならできますから‥‥!」

「ふざけないで!アンタを置いて逃げられるわけないでしょ!」

「いいね、美しい友情だ。素晴らしい。けど無意味だ」


以蔵はその手に暗黒のオーラをまとわせる。


「死の‥‥波動。」


そして手掌からそれを凄まじい勢いで放った。


「絶望を抱いて眠れ。」


暗黒のオーラは二人を呑み込まんと迫る。


「リリアさん、早く逃げてください!私が‥」

「うるさい。邪魔なのはアンタよ。」


そう言うとリリアはキリカを突き飛ばした。


「もう、あたしは目の前で誰かを失いたくないの。だから、アンタは私が護る。

スズロにごめんって伝えてね。」

「リ‥‥リリアさんー!!!」

「まずは‥一人目か。今までご苦労だったね。」


以蔵の高笑いとともにリリアは暗黒のオーラに呑まれて‥‥


「お前も邪魔だ」


突如、リリアは突き飛ばされる。リリアを突き飛ばした何者かは背中に背負った大剣をぬく。

以蔵は目を見開いてその男を見る。


「ウオラァァァァ!」


その男は大剣を一閃し暗黒のオーラを一刀両断した。


「おい、お前ら大丈夫か!?」

「あんた‥どうしてここに‥‥!?」

「あれからスズロと喧嘩してな、あいつと別ルートで帰ってたとこにお前がいたんだよ。」

「へえ‥‥(更に磨き上げた俺のスキル「死の波動」のオーラを意に介さずか‥さすがに「特記戦力」の1人だけのことはあるね‥‥リク・ビッテンフェルト‥‥)」

「君がリクさんかい?初めまして、俺は森以蔵!早速なんだけど俺の仲間にならない?」

「はあ?」

「俺の雇い主様も君のことえらく気に入っててね、もし仲間になってくれたら、君を俺たちの軍の最高幹部の1人にしてあげるって言ってるんだ。どう、悪い話じゃないだろう?」

「スズロの野郎、俺を童貞だって言いやがったんだ!人が気にしてることなのに!」

「そんな事で喧嘩したの‥‥」

「俺もう今年で29なの!死活問題なの!」

「まあ、また今度でいいや‥。いまあの男と戦ってる場合じゃないし‥興も冷めちゃったしね。キリカを手放すのは惜しいけど知りたいこと分かったしね。アディオス!」


そう言い残すと以蔵は無数のカラスとなって消え去った。


「ったく無茶しやがって。」


リクはキリカを背負いながらリリアと共に帰途についていた。


「助けてくださって有難うございます。」

「今回はお礼を言っておくわ。あなたのおかげでキリカちゃん取り返せたんだし」

「別にいいよ。あ、つーか今日、魔界騎士団の幹部会議の日だった!?しまった遅刻だ‥。シジイに‥総隊長に殺される‥‥。」

「え、遅刻しただけで!?」

「いや、ゲンコツ喰らうだけ」

「じゃあ、大丈夫なんじゃない?」

「そのシジイのゲンコツ、山を砕くレベルなんだけど?」

「‥ドンマイ!!」

「てめぇ!!」


そんなことを言い合いながら彼らは魔界騎士団本部に帰っていった。ただ、キリカは少し浮かない顔をしていた。

先ほどリクに助けられた時、制御しきれないスキルが暴発しリクの過去をのぞいてしまったからだ。


その見た記憶の中では少年がひたすら、剣をふるって人を傷つけていた。


これは聖戦。王族にあだなす輩を駆逐せよ。それでこそ神のもとに導かれる。そう洗脳教育された少年がひたすら罪なき人々を傷つけていた‥‥

少年はまた1人に斬りかかろうとして‥‥その剣を弾かれた。


「おや、君がうわさの小童ですか。その年にしてそんなに強いとは驚きます。」

「ですが、自分の為だけに使う力になど、強さも意味もありません。」


そう言うとその人は少年の剣を自分の剣で折ってしまった。驚愕する少年。その目には恐怖が浮かんでいた。その少年は殺される恐怖に怯え震えていた。


「どうです、私についてきてはみませんか。」


記憶はそこで途切れている。

リクさん‥信じていいんだよね‥。キリカは心の中で小さく呟いた。


「さてと‥」


本拠地の古城にもどった以蔵は先ほど脳内に保管したリクの戦闘データを解析にかかる。

リク・ビッテンフェルト 解析結果

元スターラ王国暗部組織所属

非協力的な国民、王族にとって危険となりうる国民への殺しを王族より許可された非公開の暗殺部隊に少年時代から所属していた彼は多くの国民、要人達を殺害。

稀代の少年兵として名を馳せるも、ある要人の暗殺任務に失敗してから姿をくらます。

その要人とは‥‥であり、彼はこの人物に師事したものと思われる。その後‥‥。


「なるほどー。よかったよ、知りたいことしれて。これであの人もきっと喜ぶ

、なあフローネ!」

「ええ、以蔵様」


キリシとキリカの再会、不信、信頼がうずまいて、スターラ王国に激動の波が迫ろうとしていた。

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