♪きな臭い文字
清瀬忠……高校生
恵那みのり……高校生
岡田幸介……数学教師
藤井英人……テニスプレイヤー
「……彫刻刀か何かで、かなり深く掘ってある」
ロッカーの文字を、忠は冷静に観察する。わたしだって、暗い更衣室の中で心の準備もなしに急に見てしまわなければ、腰を抜かすようなものではない。
「まあ、イタズラだよね」
立ち上がって、制服に着いたほこりを払う。見えないけれど、スカートのお尻は真っ白だろう。
立ち上がれば、忠の顔が近くなる。
「僕もイタズラだとは思いたいけれど……」
「違うの? 確かに、文面は妙だけど」
「さすが、僕の嫁だね」
「忠の考えは?」
「『ドウシテ、殺シタノニ』……文面が変だということは、僕も同感だよ。誰からの視点なんだろうね、この文面」
「手の込んだイタズラ?」
「ずいぶん新手だね、高校生のイタズラにしては。何より、場所が変なんだよ……この女子更衣室のロッカーに、かなりの力で彫刻刀を突き立てたようだね。生半可なイタズラにしてはおどろおどろしい」
忠の言う通りその傷は、ロッカーの扉をもう少しで貫通してしまいそうだ。女子生徒にしては怪力、そう言いたいのかな?
「じゃあ、何か理由があるの?」
「あるとは言いたくないけどね。誰かが何かを殺したんだろう?」
「で、でも手がかりなんてないよ?」
「そうだね……さっき部屋を見た限りでは、ここは十年前から閉ざされている。カレンダーが十年前の八月になっていた」
「十年前!」
忠がカレンダーにまで注目していたことには驚いたけれど、それ以上に、テニス部が十年も復活していないことにはもっと驚いた。テニス部くらい、その十年のうちに設立させようとする人がいてもいいはずだ。
忠は眉間にしわを寄せる。
「何か、きな臭いな」
「……『臭い』なんてやめてよ、この部屋が臭いの思い出しちゃった」
「言われたら僕もまた気分が悪くなってきたよ……結局、Great pains but all in vainってところだね」
「はあ……?」
「収穫なしってこと。とりあえず、きょうできることは何もなさそうだ、岡田先生のところへ鍵を返しに行こう」