*教訓
鎌本恵子の姉は大きく息を吐いた。
初めて会う先生だったのだけれど、その表情はやはり疲れた様子だとわかった。高校生の男女ふたりが長々と十年前の事件の真相について、私見を捲し立てたのだ、疲れて当たり前である。
優雅に、かつ静かに口を開いた。
「よく調べましたね。私から言うことは何もありません」
どうやら、肝心の真実が正しいかどうかは伝えてくれないらしい。
「ふたりは、テニス部を作りたいんですよね? あなたたちで真相を導き出したうえで、覚悟は間違いありませんか?」
みのりは頷いた。
僕は頷けなかったが、その沈黙で思いは伝えられたと思う。
すると、鎌本先生は再びため息をつき、どこか恐ろしい雰囲気をまとわせた声で僕たちに警告した。
「十年前の事件は、本当に恐ろしく、愚かで、悲しい事件でした。そんな事件があったことを、絶対に忘れないでください。特に、あなたたちのように仲が良くて若いふたりは必ず記憶しておかなくてはなりません。
愛や思いやりは素晴らしいものですが、それはときに理性を破壊する麻薬となり、自分が後悔することになる嘘を平気で連ねた台本になって――相手を残酷に突き放すものなのです」
藤井英人が言っていた言葉を思い出す――
『嘘は必ず、周りの人を不幸にする。最後に泣くのは、自分だけじゃない』