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コート・サイド・ラバーズ  作者: 大和麻也
Game ――決着――
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♪クライマックス

「先生、ちょっと話したいことがあるんです」

 わたしは半ば強引に鎌本先生を引き留めた。岡田先生は不可解だと言わんばかりに眉を歪め、鎌本先生もなぜだろうと首を傾げようという様子だ。しかし、非常勤講師である鎌本先生が、夏休みのあいだ学校に来ていることは少ないはずだから、ここで訊くべきこと、追求できることをぶつけておかなくてはならない。忠は急いでいる。

 ただ、鎌本先生もわたしのことを知っていた。

「私から聞きたいことがありますか? テニス部のために」

 わたしは頷いた。

 わけがわからないという顔をしている岡田先生を差し置いて、鎌本先生はわたしを案内しはじめた。しばらく歩いて連れて行ってくれたのは美術室で、初めて訪れるそこに漂う絵の具の臭いにわたしは息が詰まるのを感じた。

 美術部の活動はないらしく、ここ数日で制作しているのであろう絵画が部屋の隅に静かに並べられている。日がそれほど当たらないらしく窓を開けているだけで涼しいのだが、鎌本先生は冷房のスイッチを入れたかと思うとすべての窓やドアを閉め切った。

 適当に座ると、すぐ向かいに鎌本先生も座った。先生の佇まいは美しく、アカデミーで出会った恵子さんとほとんど変わらない雰囲気を持っていた。

 ここに来て、心臓が暴れはじめた。

 それを悟ったのか、わたしが言葉を紡ぐ前に先生が切り出す。

「テニス部、作りたくて調べているらしいですね」

「はい」

「じゃあ、事件のこともわかったんですね?」

「はい。それについて解れば、復活への近道になると思って」

「わたしが何かを知っていると?」

「それは事実ですよね、『事件』と呼んでいるんですから」

 先生は一瞬目を閉じ、鋭く一息に言う。

「……知ることは自由ですし、考えもわかります。けれど、復活には必ずしも関係しないかもしれないことは、調べているうちにわかっているはずです。わたしはある程度あの事件について知っていますが、黙っていることもできます。嘘もつけます。その上で、恵那さんは十年前のことについて知ってどうしますか?」

「…………」

 痛いことを言われた。

 緊張が高まり、背筋を伸ばしているだけでも精一杯になる。入試の面接試験のときだってこれほど上がってはいなかった。嫌な汗が止まらず、理性的に話せるとは到底思えなかった。

 それでも、その反駁は無意識のうちにどんどんと溢れてきた。

「知ることができたら……いえ、知るだけでいいんです。わたしたちはただ、自由に部活でテニスができないことが嫌だったから――廃部になった理由もわからないまま、『廃部の部活には入れないね』では気が済まなかったから――こうして事件について調べ始めたんです。それだけなんです。そのためだけに、わたしは考えて、調べて、走って、悩んで、忠と過ごしてきたんです。だから、はっきり言って『どうして調べるんだ?』とか『どうして焦るんだ?』と訊かれたら、『わからない』と答えます。『知るだけでいいのだから、教えてくれたっていいじゃないですか』と言い返すかもしれません。理由なんてない、でも、結論はすぐそこにあります」

 正直な気持ちを話したつもりだ。少しだけ隠して誤魔化した気持ちもあるけれど、嘘はついていない。直情的に話したのは久しぶりな気がする。

 鎌本先生は黙っていた。自分からは話してくれないらしい。

 わたしは息を呑んだ。

 結論を語るしかない。

 忠を呼ぶことはできるだろうか――いや、それでは納得できないわたしがいる。忠と再会したあのとき、ほとんど決着はついていたはずだ。再会したところで再スタートとも思っているようでは甘かった、忠は最初からそのつもりでいたのではないか? わたし個人で調べた情報を、自分のものと繋ぎ合わせたかっただけ。この夏すべてが計画的だったのならば、わたしは逆らいたい気持ちだった。


「十年前――」


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