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コート・サイド・ラバーズ  作者: 大和麻也
Advantage ――猛追――
43/54

♪再会と再開

※この章より人物一覧を掲載しません

 繫がらないだろうと思ってかけた電話に、忠は出てくれた。

 忠はテニスする気は当分湧いてこないだろうと話し、一緒にお昼を食べに行こうとだけ誘ってきた。寂しい思いをしつつわたしが了解をすると、「またラーメンがいい?」と訊かれたので、遠慮なくそうすることにした。忠が呆れたように言う優しい声を聴いて、わたしは安心していた。

 翌日待ち合わせ場所にやってきた忠は、連絡を絶つ以前とほとんど変わらないように見えた。わずかに違うとは思ったが、何が変わってしまったのか想像もつかない。きっとまた、わたしの知りえないところで何かあったのだろう。

 もう一度、忠を引き寄せないといけない。

 他愛無い話を口数少なに交わしたのち、お店に着いた。注文をしてお冷が届くと、忠は汗を拭うと、少し身を乗りだした。

「さて、手分けするのもお互い限界だよね。ごめん、僕が悪かった」

 俯く忠に、わたしは驚いた。謝られたこと自体が驚きだったけれど、忠の判断が誤りであったこと、忠自身も単独行動に疲れ果てていたこと、わたしにとって驚くべきことは多かった。

 うん、とだけしか返せず、わたしは喉を潤し心身を冷やした。

「これからはまた、元通りふたりで行動しよう。みのりはそれでいい?」

「いいよ。そうしたい」

「なら良かった。できれば、結論を急ぎたいんだ。そのためには、僕がベストを出せる状態でありたかった」

 そっか、とはすぐに返さなかった。わたしがいることが忠にとって一番なのは嬉しいけれど、そんなことよりも聞き逃せないことがある。

「急ぎたいの?」

「うん」

「どうして?」

「どうしても」

「まだ夏休みは長いのに。模試とか旅行とかの予定?」

「のっぴきならない事情でね。長引かせることに、いくつかの不安がある」

「また、忠の問題?」

「そう」

 訊くな、とでも突き放すように、忠は短い返事で切り上げた。

 それにしても、きょうの忠は長く喋ろうとしない。連絡を絶つ直前からそうだったとも思える。いつもほどわたしに甘い言葉を言わないし、小難しい英語のことわざも言わない――ふざけて「僕の嫁」とも口走らない。大好きなアニメを最近は見ていないからだろうか、それとも、それ以上に気を払って口を滑らせないようにしているからだろうか。

 わたしがそんな考えを巡らせていたのに、忠は本題に踏み込んだ。

「よし、これまでの情報を総合する必要があるね。みのりは……何か得られた?」

 訊かれても、話しはじめるところが見当たらない。第一、忠と比べたら手にした情報は少ないだろうから、自分から話すのは躊躇われた。

 忠がフォローを入れてくれる。

「たとえば、教員についてわかったことは? 僕はそこを気にしていたんだ」

「教員? ええと……わたし、特に調べてないなあ」

「そうかい? まあ、僕とみのりで気がかりが違うことには、薄々感づいてはいたけれど」

「うん。でも、先生と言えば、岡田先生から永正の評判を聞いたよ」

「評判? もしかして、学校の重点がスポーツか、勉強か、って話?」

「そう。十年前といまで、明らかに違う気がして。調べたら、スポーツ推薦がなくなったことが原因で、ふっと学校の方針がシフトしたんだって」

 ふうん、と忠は感心しながらも、あまり重大な情報だとは感じていないようだった。かと思えば、すぐに顔を上げる。

「いや、待てよ」

「どうしたの?」

「十年前から学校の方針が大きく変わった……そのころ、ちょうど校長も交代しているんだ」

「そうなの?」と確認したところで思い出す。「ああ、熱中症事件の責任を取ったのかな?」

 しかし、忠は首を振った。

「柴村丈一郎という校長が階段から転落して怪我を負って、ついでに運悪く病気も重なって職場復帰できなくなったのさ」

「しば……むら?」

 忠が目を丸くした。

 いいや、わたしのほうが驚いている。柴村の名前はつい最近耳にしている。

「どうした、みのり? 何か引っかかることが?」

「柴村丈一郎って言ったよね? 柴村って」

「……うん。僕の記憶違いでなければ、間違いない」

「わたし、柴村順二って名前なら聞いたよ。あの日、炎天下でテニスをして死んだ、第三高校の二年生」

 忠からは、「なんだって?」の言葉すら聞かれなかった。


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