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コート・サイド・ラバーズ  作者: 大和麻也
Love ――はじまり――
4/54

♪荒れ果てた部室

 岡田先生から借りた鍵を持って、テニスコートのほうへ歩く。

 テニス部創設は難しいようだけれど、部室を見ればテニス部を作る実感が湧いてくることだろう。それなのに、

「部室なんてどこにあるんだ?」

 忠は部室の場所を知らなかったらしい。岡田先生も、校舎の外にあることしか知らないようだった。

「みのりは知らない?」

「わたしは知らない」

「困ったなあ……」

 ぐるりとテニスコートの脇を歩く。この学校には四面のコートが並んでいて、フェンスの外から回るだけでも、なかなか長い距離を歩く。

 そのうち、校舎から一番遠いところまで歩いて来てしまった。

「どこにもないね」

「そうだなあ……でも、こうして鍵が作られている以上、確実にあるはずなんだが」

 忠は困り切ってしまっている。

 藤井なんとかという選手がこの学校から卒業したのなら、テニス部はきっと立派なものがあったのだろう。その部室も立派だとすれば、こうして見つけられないと不安になってくる。

 取り壊されちゃったのかな? ああ、でも、鍵はあるのか。

「あれ?」

 ふと、建物を見つける。それは見るからにボロボロで、窓には木の板が張られ、壁は白色だったようだけれどすっかり灰色に汚れている。

「どうした? そこは使わなくなった倉庫か何かじゃないのか?」

 忠の言う通り、その建物にテニス部の部室と解るものはない。永正学園は最近建物の建て替えが多いから、古い建物はあまり信用できない。

「ううん……わたしにもそう見えるけど、試してみようよ」

 忠から鍵を受け取り、その古い建物のドアノブに鍵を差してみる。

 がちゃり。

 開いちゃったよ。

 忠に助けを求める。この扉を開いたら、何か悪いものが出てきそうで怖い。

「はいはい、僕が開けるよ」

 そういってノブを摑み、一度唾を飲んでから慎重に回す。

 ドアを引くと、もわっと変な空気が流れ出てくる。しかも臭い!

「うわ、何この臭い!」

「これは本当にひどいね。本当にテニス部の鍵だったのかな?」

 咳き込みながら、忠は部屋に片足ずつゆっくりと入っていく。空気を入れ替えるため、ドアは開けられるだけ開けた。

 建物の外で忠の報告を待っていると、それほど時間が経たないうちに忠が建物の中から叫ぶ。

「みのり、ここは確かにテニス部みたいだ」

「嘘、本当に? わたし、こんな部屋で部活したくないよ」

「僕もそう思うけれど、仕方がない。ちょっと入ってみなよ」

 わたしは嫌々入る。やっぱり、ドアの前にいるよりもずっとひどい悪臭が充満している。こんなところ、人間が過ごす場所ではない。

 でも、入ってみればテニス部であることは間違いなさそうだ。ラケットが十数本籠に入れられていて、テニスボールがスーパーで使うような籠で三つぶんある。臭いの発生源は主にこれらだ。

 忠もそれに気がついていて、いくらかボールやラケットを調べている。

「体育倉庫のものとは別に、より品質のいいものがたくさん保管されていたんだね。しかし、こりゃひどい。カビの生えたボールもあるし、グリップが腐ってしまったラケットまである。使わないと当然こうなるよ、一体何年こうしていたんだ?」

「ベンチもほこり被ってる。気持ち悪いなあ」

 部屋は意外と広く、ミーティングにも使う備品置き場の部屋だったのかもしれない。部屋の奥にはドアがふたつあり、奥にふたつまた部屋があるようだ。

「ここは更衣室だね。右の部屋が男子、左の部屋が女子」

「嫌だ! わたし調べたくない、絶対臭いもん」

「わかった、わかった。僕が調べるから」

 そう言って、忠は男子更衣室へ入って行った。すぐに気持ち悪そうに咳き込む声が聞こえてきて、悲しくもほっとした気持ちになる。

 外に出たら忠が探すだろうし、汚いベンチに座って休むわけにもいかない。どうしようか迷って立っているしかなかったけれど、忠に申し訳ないからやっぱり覚悟して、女子更衣室のノブに手をかける。

 がんばれ、わたし。

 吐き出せる息を全部吐き出して、なるべく呼吸しないように部屋に入った。


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