表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コート・サイド・ラバーズ  作者: 大和麻也
Deuce ――交錯――
37/54

♪先生に相談

「清瀬と連絡が取れない?」

 Aランチのカツレツを飲み込み、岡田先生は目を丸くした。

「お前ら仲が良いのにな、何かあったのか?」

 首を振って否定した。忠が黙り込んでしまうようなことをした心当たりはない。

「携帯電話に繫がらないのか?」

「はい」

「家の電話には?」

「まだです。そこまで大袈裟なことではないと思って」

「まあ、そうだよな」岡田先生はカツレツをもう一切れ頬張る。「じゃあ、旅行か何かだろう。たまたま充電が切れている、とかな」

「そうだといいですけど……」わたしは忠から旅行などの話は聞いていない。「ずっと連絡が取れないようだったら、また相談します」

 それがいい、と岡田先生も頷き、わたしと忠のクラスと担任を確認した。メモにそれを書くと改めてわたしに向き直り、ほかに何かあるかと訊いてきた。

 学校へは岡田先生に報告をする以外の用事はないつもりだったから、ラケットやシューズ、ウェアは持って来ず制服で来ていた。テニス部関連の用事はもうないのだから、もう帰ってもいい。けれど、分担して情報収集をしている忠の音信が得られないいま、わたしがもっと積極的に動かなくてはならないと思い出した。

 岡田先生からも何か訊けないかと思い、以前の疑問をぶつけてみる。

「あの、忠のこととは関係ないんですけど……岡田先生のこの学校のイメージって、どんな感じですか?」

 え、と漏らして岡田先生が首を傾げる。

「どうして気になるのかわからないが……そうだな、やっぱり永正学園は、充実した環境でしっかり学べるところが魅力だと思うぞ」

 ふうん、と思った。わたしと違って、みんな同じことを言う。

「まあ、恵那もこの学校に来たからにはちゃんと勉強することだ。数学の宿題、終わらせたか? 数学、学期末テストももう少しで赤点だったんだからな」

「……が、頑張ります」

 ちょっとはね。

「恵那はどういうわけか奇跡的に赤点がないから、まだいいか」岡田先生は呆れたように続ける。「おれが恵那くらいの歳のころも、怠けていたからな」

「そうなんですか?」

「怠けたというか、疲れたのか」はにかむように笑顔を浮かべる。「高校受験が終わってひと安心した直後に、高校の難しい授業が続いたからな。夏休みはとことん遊んだよ……あ、受験と言えば――」

 岡田先生は天井を仰ぎ、思い出そうとしながら話す。

「おれが受験のころは永正学園、どういう評判だったかなあ……」

「思い出せない?」

「おれはあまり桜川のあたりを進学先に考えていなかったからな」ぼさぼさ頭を掻いていると、はっとして顔を上げた。「そういえば、ここに就職が決まったときは、『進学校じゃないか』って驚かれたぞ」

「……そうですか」

 岡田先生の話からは、わたしの記憶と合致することは出てこないだろう。



 もうひとり、わたしは学校で人を尋ねた。

「そう、清瀬くんがねえ……」

 保健室の上津先生である。

「何かあったの? 清瀬くんが連絡を絶つほど塞ぎ込むようなこと」

 わたしは首を横に振る。

「むしろ気分はいいはずなんです。いつも応援している藤井英人とも会ったし」

「あら、そうなの? 確かうちのOBのテニス選手よね?」

「そうです」

「なら、余計に妙ね。でも、それなら長くはならないでしょ」

 にこりと上津先生は微笑んだ。生徒の相談に乗り慣れているのだろう、わたしもこの笑顔ひとつで安心した。もしわたしが悩みを打ち明けた場面だったとすれば、きっとその悩みは大したことがなかったのだと認識し直すだろう。気を軽くしてくれる。

 ここでも、深刻になるようだったら相談するように、と話をつけた。この話が終われば、上津先生にも先ほどと同じ質問を試す。

「ところで、先生。永正学園ってどんなイメージですか?」

 上津先生は、突然ね、とまた微笑んだ。十年前も確かにこの学校にいた上津先生ならば、いままでと違った答えを聞かせてくれるはず。

「そうね、やっぱり質の良い勉強ができる学校なんじゃない?」

「それは、十年前からですか?」

「ああ、十年前のことを調べているんだったわね。ううん……十年前は、いまとはかなり違う学校だったと思う」

 しめた、上津先生に期待して正解だった。

「どんな学校でした? いまと何が違います?」

「私がこの学校に働くことが決まったころは、すごく部活動が盛んだったんだよ」

「そうですよね! バレーボールとかソフトボールとか、強かったんですよね?」

「あら、よく知ってるね。そうそう、強かったのよ」

 これでわたしが間違っていなかったことがようやくわかった。わたしが持っていた永正学園のイメージは、忠や藍先輩、岡田先生のそれと時期がずれていたのだ。以前は部活で名前を売り、現在は方針を変え学業で売り出している。

 となれば、その方針転換の理由は気になる。

「でも、どうしてそんなに変わっちゃったんだろう?」

「そうねえ……」上津先生が懐かしそうでありながら、悲しそうに話す。「スポーツ推薦がなくなったのが一番ね」

「スポーツ推薦? あったんですか?」

 わたしは成績を基準にした推薦入試を受けている。

「うん。まあ、怪我で学校生活の楽しみを失っちゃう生徒が多くてね。私も反対していたひとり」

「怪我、多かったんですか?」

「それなりにね。部活が強かったから、部活でもかなりハイレベルなことをやっていたんだと思う。当時の保健室、なかなか忙しかったわよ」

 そうか、部活の指導は結構スパルタだったんだ。

 いい情報を手に入れたので、きょうのところは先生に挨拶し帰ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ