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コート・サイド・ラバーズ  作者: 大和麻也
Fault ――嘘――
33/54

*嘘の実力

 打感がまるで違った。

 藤井英人のセカンドサービスを打ち返したとき、精度を重視して速度と威力を削ったはずのスピンサーブだというのに、鉄球でも飛んできたのかと思った。バックハンドは片手打ちで磨いてきたけれど、両手でないと腕を壊してしまいそうだ。

 だが、そのあとのサーブでのミスは、決してそれに萎縮してしまったわけではない。狙ってスライスサーブを意識して打った。見た目にも、左方向へ少しだけバウンドが変わっていた。

 さて、スライスサーブを見せたなら、狙ってみる価値はある。みのりには散々注意したけれど、僕はある程度使い方を知っているつもりだ。実戦で使ったことはないから、失敗したって仕方がないと割り切ろう。

 ファーストサーブ。僕は体を大きくのけ反らせる。そして、スピンサーブから――手首を捻る!

 上手く山なりの打球が飛んで、藤井英人の足の動きが細かくなる。フォアハンドへ体を向かわせようとする瞬間、バウンドが――変わる。

 バックハンドへ急に方向の変わったボールに対し、藤井英人は窮屈に対応する。ここを狙いに僕は前進し、がら空きになったサイドへフォアのボレーで落とした。

 サーブ権が再び移動する。藤井英人は僕からボールを受け取りながら口角を上げた。

「しつこくスライスを打って来ると思ったら、ツイストサーブが打てるのか」

「僕のはまだまだ。みのりのほうが上手です」

「へえ、やるじゃない」

 そう言って、鼻歌でも歌いそうな様子でベースラインまで下がって行った。

 それにしても、『サービスしましょ』を教材に覚えた付け焼刃の技だから、一か八かを決められたのは棚から牡丹餅とでも言おうか。藤井英人にも見せてしまったし、もう封印となりそうだ。黙って真似して、みのりにはあとで怒られるかな。

 藤井英人が構える。動きが一度止まったかと思えば、体を大きく振り回すかのようにしてフラットサーブを放つ。ファーストサーブで決めてきた。

 フラットだと気づくのは打ち終えてからのことだ。ラケットの先で何とか当てることができ、弱々しい打球が藤井英人に向かってゆく。回り込んで、フォアハンドで狙っている。

 ここで深く打ち込まれたらおしまいだ。藤井英人のスイングと同時にネット際に前進する――

「アウト、だね」

「…………」

 ネット際で立ち竦んでしまった。相手の打球があまりにも早くて対応できなかったのではない、遅すぎたのだ。

 藤井英人は僕のアプローチを見て、咄嗟にロブで背後を狙ってきた。アーチを描くゆるやかな軌道を、僕は仰ぎ見るしかなかった。素人では敵うはずのない対応の早さ、状況判断の的確さ――そして、読みと余裕。

「これで2-2、五分だね」

 幸いアウトになって同点だ。

 ただ、わざと僕に追いつかせたのではないかと恐ろしくなった。


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