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コート・サイド・ラバーズ  作者: 大和麻也
Fault ――嘘――
30/54

♪憧れの先輩

 お昼ご飯を食べ終え、テニスコートでウォームアップを始めた。

 きょうレッスンを受けるのは、ざっくり数えて十五人ほどらしい。テニスアカデミーには何度も来たことがあるが、そのときレッスンはひとりのコーチ当たり四人か五人だったから、きょうは特別なのだろう。

 コートは屋内。五つも並んでいるそれぞれがネットで仕切られていて、わたしたちはクラブハウスと接したコートでプレーすることになっている。しかも、同じ大きさの建物がふたつあるからすごい。レンタルで借りられるのは外に四面あるコートだから、屋内を使うのは初めてである。

 足元は学校のものと同じで硬い。レンタルコートでは、人工芝に細かなきらきらとした砂が敷かれていていた記憶がある。忠にそれを話したところ、

「インドアコートはハードコートだね。衝撃が大きいから、足腰が疲れるコートだよ。まあ、学校で使って慣れているから平気だよね。

 外のはオムニコートって言って、日本やオーストラリアくらいでしか普及していない稀なコートだよ。このスクールは少し古いからね。足腰への負担は少ないし、整備が簡単なのがいいところ。球足はやや遅くて、跳ねにくい。クレーコートほどではないけれどさ。これがまた滑るんだよ」

 とたくさん喋っていた。結局よく解らない。

 そのうち、拍手が湧く。クラブハウスから続くドアが開かれ、スタッフに導かれた藤井英人が現れたのだ。

 背が高く体格も逞しい。それでいて、白いウェアが似合う爽やかな人だ。忠のような部分もあれば、正反対の部分もある――何だか面白い。

 その藤井選手は、アカデミーのスタッフがたくさんの参加にお礼を述べたあと、緑色のラケットを胸で抱えながらにこやかに話した。

「きょうは午前に小さい子たちのレッスンを見たんですが、すごく上手で驚きました。今度の部も大半は会員の方なんですよね、きっとぼくからは何も教えることはないと思います。教わる側にもなりつつ、一緒に楽しみましょう」

 改めて拍手が送られた。

 参加者のウォームアップが充分だとわかると、さっそく各々ラケットを握ってコートの中央に列を作った。コーチが投げるボールを打ち返し、軽いストロークの練習をするのである。忠はわたしの横、藤井選手はなんとわたしの後ろ、列の一番後ろに並んだ。

 みんな上手いなあ、と思いつつ自分もラケットを振る。しかし、後ろがプロ選手だと意識したせいか緊張して、ついつい飛ばしすぎてアウトになってしまう。横の忠に言い訳しようかと思ったら、後ろから肩に手を置かれる。

「力みすぎ。確かにボールはやや短かったけど、前進しなくてもいいところだったよ」

 プロからのアドバイスだった。かっと頬が熱くなる。

 忠を見ると、羨ましいのか複雑な表情をしていた。

 続いて、ついにプロの一打。確実にゆっくりとスイングして、綺麗に山なりな打球が真っ直ぐ飛んで行った。これはこれですごく美しいし、朝飯前だと見せつけたようで格好良かったのだけれど、ギャラリーからはつまらないと漏れる。

 仕方なく、藤井選手はコーチにもう一球頼んだ。コーチのほうも楽しそうに承諾し、素手で打ちやすいところに放り投げられる。プロは細かくステップして、ベストな立ち位置を整えると、ぐっと軸の右足を引き、体を前に戻す勢いでラケットを振り抜く。

 すぱん、と空気を切る音が響くと、黄色いふさふさはネットすれすれを駆け抜けていった。

 ああ、わたしとは違うんだ――憧れと羨ましさと、少しの悔しさに、真夏の肌が震えた。


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