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コート・サイド・ラバーズ  作者: 大和麻也
Love ――はじまり――
3/54

*先生に相談

「やっぱりね。黒髪が一番かわいい」

 翌日、早速髪を染め直したみのりと共に学校へ来た。

「またまた、お世辞でしょ?」

「いいや、本気。さすがは僕の嫁だ」

「もう、中学のころはずっと黒かったのに」

 痴話言は適当に切り上げ、数学教師の岡田先生を探す。きょうは成績会議のため生徒は登校しても仕方がないのだが、午後三時にもなれば先生たちの会議は終わっているだろう。それに、この時間に授業がなければ岡田先生は食堂で遅めの昼食をしていることを知っている。

 その当てのとおり、岡田先生は学食のBランチを食べていた。僕たちが歩み寄ってくるのを確認すると、岡田先生は急いで口の中のものを飲み込み、癖の強いぼさぼさな頭を掻いた。

「あれ? 清瀬も恵那もどうした? ……あ、恵那は髪を黒くしたんだな。校則に染色の決まりはないが、感心だぞ」

「あの、岡田先生。ちょっとお願い事がありまして」

「清瀬が、おれに? 何だ? とりあえず言ってみろ。あ、補習はダメだぞ」

 みのりに補習をしてほしい、という冗談は省いた。

 岡田先生はまだ若く、新卒で採用されてからまだ三年ほどらしい。だから、こうして相談をしに行くと決まってフランクに対応してくれる。

「部活のことでして、テニス部を作れないかと相談に」

「え? テニス部?」

 岡田先生は目を丸くする。

「あんまり急だなあ……もちろん善処はするけど。おれを顧問にしたいのか?」

「できれば。テニス、好きみたいなので」

「まあ、好きだが……言ったことはあったかな?」

「たぶん、はっきりとは言っていませんね。でも、授業中に藤井英人(ふじいえいと)の話はたくさんしていたので」

「ああ、そうか。あれだけ話せばな」

 藤井英人――永正学園の卒業生で、現在はプロのテニスプレイヤーだ。世界ランクはまだまだ三桁から脱せていないが、テニス好きの間では期待の高い選手である。かくいう僕も、いまに世界大会で活躍しないかとわくわくしている。

 岡田先生はその藤井英人のプレイスタイルや最近の試合結果について話すことが多く、だいたい察しがついていた。

「それに、それに」

 手を挙げてみのりが付け足す。

「右腕だけ太いみたいだから」

 言われて、岡田先生は自分の腕を見る。僕もあまり気がついていなかったが、確かに、ワイシャツの弛み方を見るとそうらしい。

 みのりも妙なところで目敏い。

「まあ、確かにテニスは好きだな」岡田先生は気分を良くして話す。「お前ら、ミックスダブルスを組んで面白くなったのか」

「そんなところです」

「藤井英人の母校として、テニス部があったほうがいいよな、おれもそう思う。コートもほとんど放置されているんじゃ荒れっぱなしでもったいない。だが、どうやって部活を作る? いま顧問をしている鉄道研究会が顧問要らずだし、テニス部の顧問になるのはやぶさかじゃないが、いまから運動部を作るのは大変だぞ?」

「はあ……それもそうでしょうな」

「まず、うちの学校じゃ運動部は五人の同好会でスタートできない。必ず十人の部員が必要。次に、もうこの時期じゃ秋の大会にはエントリーできないと思うぞ」

「まあ、試合は市民大会でも構いません……でも、十人はきついですね。発起人が一年ふたりだけですし」

 みのりをちらりと窺う。

 首を傾げた。

 どうやら部員集めにみのりのコネクションは期待できないようだ。そもそも、僕たちふたりのネットワークはとても狭い。

 岡田先生は味噌汁を啜って、息をつく。

「まあいいや、部活を作るのはお前たちだし。とりあえず、部室でも見てこい。鍵を出してやろう」

「ありがとうございます」

「あ、先に飯を食わせてくれよ」

「……解っていますよ」


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