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コート・サイド・ラバーズ  作者: 大和麻也
Fault ――嘘――
26/54

♪忘れていた先生

 トイレと言ったけれど、そんな意味はない。ただ恥ずかしかっただけだ。

 コートを出てしまえば退屈になる。仕方がないから、中庭の自販機のジュースでも飲んで戻ることにしよう。

 その中庭の自販機へと歩いて行ったとき、そこに白髪のおじさんが歩み寄ってくる。誰だったかな、憶えがない。

「こんにちは」

 ひとまず会釈して挨拶をすると、おじさんは挨拶を返して立ち止まる。

「こんにちは、部活?」

「はい」

「暑いから気を付けて。それと、宿題もちゃんとやらないと、成績まずいからね」

「へ?」

 授業を教わっている先生だったらしい。これはまずい、誰だったか思い出さないと。

「きみ、恵那みのりさんだよね?」

「はあ……そうですけど」

 向こうはわたしを知っているのに、思い出せない!

「夏休みは特に、英語をちゃんとやるように」

「え? 英語は永江(ながえ)先生と飯尾(いいお)先生ですよ」

 一年生の英語はリーディングとライティングがある。永江先生はリーディングを教えてくれる若い女の先生で、同じく若い飯尾先生もライティングを受け持つ太った男の先生だ。どちらの先生も、目の前にいる眼鏡で顔の長いおじさんとは違う。

「ああ、僕は英語の主任。知らなかった?」

「そうなんですか……」

「言ったように、宿題はちゃんとやるようこと。さもなくば、今度こそ赤点。きみの成績がまずいって、永江先生も飯尾先生も言っているんだから」

「……はあい」

 ここで、英語の主任の先生は手を腰に置き、少し笑いながら首を傾げる。

「まさか、僕のこと知らない?」

「……ごめんなさい」

「あはは、やだなあ。ここの校長だぞ」

「――ああ!」

 思い出した、朝礼で見たことがあったのだ。

 はっとして首からかけているネームプレートを見ると、『八重樫(やえがし)』とある。そうだ、永正学園の校長先生はこんな名前だった。下の名前は……『ふで』? いや、よく見るとフリガナは『ハジメ』となっているし、そもそもそんな名前のはずもない。見たことのない細かくて難しい漢字だ。

「すみません、八重樫先生」

「よかった、思い出したか」

 ほっとしたように苦笑いする。ど忘れは仕方がない。

「そういえば、校長先生は何を?」

「ああ、いまから外へ出るところなんだ。出張」

「はあ、校長先生が」

「そうそう。いつでも校長室にいるわけじゃないのさ」

 永正学園の校長室ってどこだったかな?

「さ、時間だから行こうかな。頑張れよ」

「はあい」

 校長先生は自販機でペットボトルのお茶を買い、校門のほうへと歩いて行った。

 さて、わたしもさっさとジュースを飲んで戻ろう。


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