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コート・サイド・ラバーズ  作者: 大和麻也
Approach ――前進――
20/54

♪第三高校

 土曜日。

「あ、みのり。やっと来たか」

 駅前で愛佳と約束をして、きょうは永正付属第三高等学校――わたしたちの学校では第三と呼ばれている――へ行く。ややこしいが、わたしの通う学校は永正学園高等学校だから、名前の『学園』『第いくつ』で見分けるができる。

 愛佳によると、わたしたちの通う永正高校の過去についてのヒントが系列校の永正付属第三高校に確かにあるらしいのだけれど、わたしが行っても確認できるかは不安が残る。

 できることなら忠と一緒が良かった。でも、忠も用事があるから仕方がない。

「ごめん、場所間違えてた」

「まあ、いつでも間に合うから。それにしても、違和感がないね」

「もう、やめてよ!」

 わたしはきょう――中学の制服を着ている。いや、着せられている。

 愛佳が手がかりとして見つけた資料は図書室にあったらしく、当然他校生が簡単に見ることはできない。だから、わたしを中学生に仕立て上げ、学校見学を装おうと――

「うん、立派に中学生だ」

「ちょっと小さいからってバカにして!」

「いつもしているコンタクトじゃなくて、眼鏡にしたのもいい判断だぞ」

「コンタクト洗い忘れたんだもん。中学のころもコンタクトだったじゃない」

「まあ、髪を黒くしておいたのが一番だな。よく気を回してくれたよ」

「え、髪は忠がテニスのために――」

「ああ、はいはい。みのりは清瀬が一番だねえ」

 そう呆れて、第三の制服を着た愛佳は改札へすたすたと歩いていく。高校の制服を着た愛佳を初めて見たけれど、すごく大人っぽくなった気がする。中学のころと変わらず忠と一緒のわたしには、永正学園でそういった見た目の変化を実感することがなかった。

 いいなあ、第三の制服はひらひらしていて、永正学園の制服よりもかわいい。

 そして、中学のセーラー服はとびっきりダサい。



 校門の警備さんは、わたしが校門をくぐろうとすると少しむっとして睨んできたが、愛佳が「妹の学校見学です」と言った途端ににこりと微笑んで見送ってくれた。

 びくびくするわたしに、愛佳はにやにやと自慢げに言う。

「きのう中学生の学校見学を事務室に申請したから、誰も怒ってこないよ」

「え、申請したの?」

「うん。あたしは徹底してやる主義だよ、『生徒である姉が案内するから、先生の案内はいらない』とも言っておいたんだ」

「……そこまでしなくても」

「まあ、うちの中学の卒業生が多いから、誰も疑わないさ」

「高校生なんだから、少しは疑ってほしいんだけれど」

 永正学園は歴史が長いらしいが、第三はまだ新しい系列校らしい。本校よりもぴかぴかで、デパートみたいな空気の学校だった。窓が多いから校内のどこもかしこもきらきらしている。

 愛佳が案内してきたのは、そんな学校のホームルーム校舎、三階にある図書室だった。入るとすぐ、司書の先生がわたしを見て優しい顔で「ごゆっくり」と言ってくれた。誰ひとりわたしを高校生だとは疑っていないから悲しい。

「さ、ここだ」

 そこは、おすすめの本や新しく入った本が置かれたコーナーの隣で、大きな本がきっちりとたくさん並んでいた。人気がないのか、ほこりっぽい。

「『永正』のコーナー?」

「そう。系列校だし、みのりの学校にもあるんじゃない? ちょうど、うちの学校は去年で三十五周年だったらしいから、いろいろ追加されているんだ」

 なるほど、と思った。永正学園の歴史を調べれば、その中に十年前のことを知ることのできる本もあるかもしれない。

 一冊手に取ってみる。ずしりと重く、とても厚い。茜色の装丁も綺麗だ。表紙には、金色の校章の上に『永正八十年史』と銀色で書かれている。

「でも、これは大学を含めた全体のことが書かれている本でしょ? これなら、愛佳の言うとおりうちの図書室にもあると思うよ?」

「うん、最初はあたしもそう考えてこのコーナーに来たんだ。でも、学園全体のことが書かれた本だと、高校のことはあまり書かれていない。不祥事となれば余計見つけられないだろうね」

「じゃあ、どうして?」

「それがだね、ついでに見た第三の歴史の本で見つけたんだよ――」

 と言って抜き取ったのは、『永正付属第三高校――三十年間のあゆみ』

 思わせぶりな言葉を残した愛佳は、ぱらぱらと硬い紙のページをめくる。最初は膝の上でめくっていたが、やがて重くなったのか近くの机に置いて確認した。

「あった、このあたりだ」

 愛佳の肩越しに覗き込む。

 年号を見ると、いまから十年前。章のタイトル部分には『創始二十六年目』とある。そして、年表を指差してすらすらとなぞっていくと、永正学園で例の事件があった八月の部分に辿り着く。

「え?」

 これは第三高校の歴史のはずだった。


『八月 テニス部で熱中症による死亡事故が発生』


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