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コート・サイド・ラバーズ  作者: 大和麻也
Love ――はじまり――
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*思い立ったら吉日

「やったね忠! 全勝優勝だよ!」

 高校から駅への帰り道。みのりは僕とのダブルスがよほど面白かったのか、球技大会の話題ばかり話そうとする。賞状をもらって大喜びしているみのりに、僕は苦笑いを我慢できない。

「トーナメント制なんだから、当然優勝には全勝がつきものだよ」

「でもでも、コールドゲームだってあったじゃん」

「違う違う、コールドは野球のルール。みのりが言いたいのは、ラブゲームのことだよね? LoveはZero、つまりは完封。まあ、どうせ一ゲームの話で、試合はたったの二ゲーム先取。ひょっとすればパーフェクトゲームだってできただろうね」

「テニスが上手な忠ひとりならともかく、初心者のわたしがいてもできたんだよ?」

「それはそうだけれど、相手だってほとんど経験者がいなかったじゃないか。大したことではないよ」

「わたし、上手だった?」

「うん、すごく。ほとんど初めてだったなんて思えない」

「よかった、嬉しい」

 底抜けに明るくて、底抜けに素直、そして間も抜けているみのりは、ことあるごとにとても感化される。振り回されて苦労することは多いけれど、楽しそうに過ごすみのりは微笑ましいものだ。

「ねえ、忠。今度またテニスコート借りようよ。テニス、楽しくなっちゃった」

「そうだね、ただでさえ永正学園にはテニス部がない」

 この永正学園は、進学重視の私立高校。球技大会も、授業に影響がないよう一学期期末テスト後のイベントだった。

 そのためか、部活としてはメジャーなはずのテニス部は、硬式・軟式ともに設置されていない。球技大会に上手な選手がいなかったのもそのせいで、テニスコートは体育の授業でしか使われない有様、きょうもコートのコンディションは最悪だった。

 僕も部活でいいからテニスをしたい気持ちはある。きょうまでみのりとミックスダブルスをしてきて、その気持ちはより高まった。だから、僕がわざわざ『テニス部がない』などとみのりに言ったのは、みのりにこう提案してもらいたかったからかもしれない。


「うちにもテニス部、作れないのかな? 帰宅部は退屈だよ」


 みのりにはスポーツが一番の道楽である。テニスは僕の楽しみである。

 となれば、学校でテニスができるのはいいことだ。球技大会に備えてコートをレンタルしていたが、みのりと遊ぶために借りていたら小遣いが足りなくなる。

 とはいえ、提案者がみのりであることも注意したい。

「みのり。テニスを真面目にやってみたい? また一時の楽しみで、すぐに飽きるんだったら僕は気乗りしないよ」

「そう言われると困るけど……で、でも、いまを逃したらもう部活なんてもうやっていられなくなっちゃうよ? 二年から部活を始めても、すぐに受験生になって引退だよ?」

「それもそうだけど……」

 いったん、足を止める。

 みのりが上目で僕を見つめている。

 僕も困ったものだ、相手がみのりだと無茶をしてみたくなってしまう。

「Nothing comes from nothing……もまた事実か」

「へ?」

「思い立ったら吉日、やってみようか」

「本当に?」

 目を輝かせるみのりを見て、この決断は何としても実現させてみたいと強く感じた。

「ああ、明日、岡田(おかだ)先生にお願いしてみよう……でも、その前に」

「その前に?」

 みのりのライトブラウンの前髪を摘む。

「この茶髪を黒く染めるんだ。こういう無礼とも思われかねない恰好は、テニスにはご法度だからね」

「ええ……でも」

「大丈夫、黒髪も似合うから」

 結局、僕はみのりがかわいくて仕方がないのだ。


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