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コート・サイド・ラバーズ  作者: 大和麻也
Let ――仕切り直し――
13/54

*当時の新聞

 みのりがいなくなってから、本腰を入れて新聞を読み漁った。

 しかし、画面をこれほどまでに凝視すると目に堪える。八月五日ぶんを読み終えるころには休憩を取らずにはいられなくなった。時間も思ったより経過してしまっている。

 テラスのようなところに出てベンチに座り、自販機で買った炭酸ジュースの缶を目に当てる。風も浴びることができ、気分が入れ替わった。改めて開き、喉を潤わせながら思案を巡らせる。

 このままでは埒が明かない。いまのペースでは何度も休憩する羽目になるし、何より絞込みの効率が悪い。隼太が示してきたキーワードは、少なくとも五日間の長官には含まれていなかった。夕刊も調べるとなればかかる時間はおおよそ二倍、目で調べることになる以上、もっと上手い調べ方をしなければならない。

 せめて、パソコンを頼らずともできる限りの絞込みをしよう。

 まず、私立高校のテニス部で起こった事件だ、どこを当たるのが賢明なのか。いま調べているのは全国紙だが、地方紙を当たったほうがいいのだろうか? ――いや、テニス部を廃部に追い込む事件なのだから、ある程度の話題性はあったろう。永正大学も、系列校を複数持っていてそこそこ名前のある大学だ。全国紙の地域面を探していれば充分に見つけられそうである。

 次、起こった時期を考えよう。部室で見たカレンダーの記憶から憶測するに、書き込みやその取り消し線などを鑑みると、何かが起こったのは八月の初旬である。

 また、学校という場所を考えなければならない。これは時期と兼ねて考えるとちょうどいい。時期は夏真っ盛り、ただし学校は夏休みのはずだ。昼間、生徒は夏期講習で学んでいるか、部活に励んでいるかだ。そう、部活に励んでいるのだ――夏の盛りに。

 となれば、調べるのは猛暑日の夕刊だ――

 僕は急いで缶を空け、パソコンの前に腰を据え直した。プレビューを利用し酷暑の記事を見つけた日付の夕刊を眺める。功を奏し、それらしき記事を比較的楽に見つけられた。


 八月六日 夕刊 社会面

『連日の酷暑 熱中症搬送は全国二百人超

 八月六日、日本全国が高気圧に覆われ、各地で三十度を超える真夏日となった。全国で最も気温が高かったのはK県桜川(さくらがわ)市の三十七度で、同市内では熱中症によるものとみられる頭痛や吐き気を訴えた三十二人が病院に搬送された。うち二人は死亡している――』


 僕たちが住み、僕たちの通う永正学園の住所でもある桜川市の名前が見つかった。狙い通り、ビンゴだ。

 ひとつ見つかれば芋蔓式に関連記事をいくつか労せず入手できる。その中には、やはり永正学園高校の名前があった。


 八月七日 朝刊 地方面

『私立高校で熱中症……テニス部員一人が死亡

 八月六日、桜川市内の私立高校で、テニス部で高校二年生の生徒(十七歳)が活動中に意識を失い同市内の病院に緊急搬送されたが、一時間後に死亡した。部活中の高校生合わせて八人が熱中症と思われる体調不良で搬送されており、六日の桜川市では全国で最高となる三十七度が記録されていた』


 八月八日 朝刊 地方面

『部員死亡の私立高校 緊急保護者会で説明へ

 桜川市の私立高校・永正学園高等学校は、八月六日にテニス部員が活動中に熱中症により死亡した事件について、緊急保護者会で説明することを決めた。保護者会はあさって十日に開かれる。部員の死亡について、同校は保護者から対応の遅れや行き過ぎた指導が指摘されていた』


 八月十日 夕刊 社会面

『部員死亡 校長「熱中症への危機感薄れていた」

 八月十日、桜川市の私立高校・永正学園高等学校は緊急保護者説明会を開き、八月六日に同校で起きた熱中症による部員の死亡について説明と謝罪をした。同校の校長は「連日の猛暑のもとで部活動を指導していたために、私をはじめ各教員に熱中症に対する危機感が薄れてしまっていた。亡くなった生徒の保護者および関係者と、多大な心配をおかけした保護者のみなさまに深くお詫び申し上げるとともに、再発防止に努めるべく各部の顧問教師への注意喚起を徹底し、いざ症状を訴えた生徒が出た際の応急処置の方法を定着させていくことを約束します」と話した。八月六日にテニス部を指導していた四十一歳の顧問教員には厳重注意をしたほか、減給と無期限の部活動指導禁止の処分を下したが、同教員は退職願を提出しているため受理するかは理事会で検討するという』


 記事の印刷をパソコン指示して、椅子にもたれかかり息を吐いた。まったく、目が痛いったらない。

「Mission completed.みのりと合流しないと」


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