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夏休みが空け、暑い残暑が残る中、神崎たちはグラウンドで汗を流していた。現在、この学校の生徒は長い校長の話を立ちながら聞くという一種の拷問を受けていた。
「なんでこの時期にうちの学校は体育祭なんてものをやるんだろうな」
「そんなこと言ってても現状は変わらないよ、神崎」
「でも、このままだと何人か、倒れるぞ」
周囲を見渡すと今にも熱にやられ倒れそうな人たちがゴロゴロといた。
身長順的に一番後ろにいる、神崎と櫻井がそんなのんきな話をしていると校長の横に桐野が現れた。
「なんだ、アイツ?」
神崎が首を傾げているなら、桐野が校長に何か言った途端、校長が話を切り上げた。
「マジでアイツ、怖いな」
「でも、そのおかげでやっと休憩できるから感謝しないとね」
皆、当然のようにのどが渇いていて、生徒たちは一斉に近くの水道に向かって歩いていく。しかし、一番近くの水道は校舎側にあり、後ろにいる神崎と櫻井は当然、行き遅れることになる。
長蛇の列を見て、神崎と櫻井がうんざりしてる所にその悪魔はやって来た。
「これ、飲んでいいわよ」
「ほんとに、ありがとう」
目の前に差し出された紙コップを疑いもせずに櫻井は水を口に含んだ。
「おい、櫻井」
神崎の静止は間に合わず、櫻井は桐野から渡された水をすべて飲み干してしまった。
「ほら、貴方も飲まない?神崎君」
「そんな地獄への片道切符みたいなもの貰うか」
「あら、酷い言われようね」
「大丈夫だよ、神崎、それだったら、俺にも水を渡すのはおかしいだろ」
ほら、と言って櫻井はもう一個の紙コップを神崎に差し出してくる。
「だとしても嫌だ」
「大丈夫よ、頼むとしても大したことは頼まないもの」
「結局、頼むつもりかよ」
「今日、クラスで決める競技について協力してもらうだけよ、貴方にとっても悪い話じゃないはずよ」
「わかった」
そう言って神崎は櫻井から紙コップを受け取った。
この学校の体育大会には、個人での出場回数が決められている。それは勿論、足の速い生徒が何回も出れてしまったら、その組だけが有利になってしまうからだ。そんな中、神崎のクラスで一番足が速いのは神崎だと言われている。噂でそれがとどまっているのは、神崎が滅多に本気を出さないからだ。それは決まって自分好きな競技に限る。バスケの時にドリブルを突きながら、陸上の生徒より足が速かったのは皆に知れ渡っている事実だ。
去年の体育大会の際は、クラスの男子全員に頼まれ、渋々と引き受けた神崎だったが、基本的には本気を出すと目立ってしまうのでそうゆうことはしない。今年は何としてもさぼりたかったのだが、恐らく、また男子たちに頼まれるのであると思っていた神崎には桐野の提案は悪いものではなかった。
「では、二人三脚の選手は桐野と神崎でいいんだな」
クラスの男子たちは涙を飲みながらその決定を受けれていた。
(泣きすぎだろ)
他の競技は仕方ないとしても1つは楽な競技になったことを神崎はほのかに喜んでいた。桐野といることで目立つのは仕方がないと思っていたが体育大会に関してはいい方向に転がったと神崎は感じた。ちなみに他の競技は1500メートル走と学年対抗リレーに選べれた。いや、やらされたという表現の方が正しいだろう。
まだ、続く練習を考えるとめんどくさいなぁ~と少し憂鬱になった神崎だった。




