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「お帰りなさい、食事にする?お風呂にする?それともわ・た・し?」
開口一番に桐野はライトノベルの主人公が言われそうなセリフを上目遣いで完璧に決めてきた。
「何を下らないことをしている」
ため息が出そうになるのをぐっと堪えて神崎はやっと言葉を紡ぎだした。
「あらつまらないわね」
桐野は若干すねた顔をするが、神崎は全く気にせず話を続けた。
「それよりも何故お前がここにいる」
「あなたのお母さんに入れてもらったのよ」
「それも聞きたかったことだがそこじゃない。何故、遠方はるばる俺の実家まで来てんだと言っているんだ」
「そんなの気になったからに決まってるじゃない」
神崎は唖然、いい返そうとしたら、その時、中から声がかかった。
「いつまでそこでイチャついてるつもりなの、優」
「そんなことないから、母さん」
現れてのは神崎の母、神崎沙織だった。
「取り敢えず、中に入りなさい」
そう言われた2人は、言われたとおり神崎家の中に入った。
「全く、素直じゃない息子でごめんなさいね」
「いえ、全く気にしてませんので」
「おいそこ、人の話を勝手にするな」
神崎は一言だけ言うと荷物を置いて、すぐさま家を出ようとした。
「あら、私を置いて行くつもり」
目の前に出て、神崎を妨害したのは、勿論、桐野だ。
「ついてくるなら、勝手にしろ」
どうせ何を言っても無駄だろと心の中で思った神崎だが口には出さず、邪魔しなくなった桐野の横を通り過ぎた。
「そうなら、遠慮なく、ついていくわね」
若干、ご機嫌になった様な桐野は神崎に続いた。
「早めに帰ってくるのよ」
エレベーターを待つ間、2人の背中には沙織の言葉が響いた。




