第9章 昂汰という人物。
『玲奈様、よろしければ玲奈様のことを詳しく教えてくださいませんか?』
昂汰はそう言った。
これが最初の会話だった。
「え、玲奈、16歳。ごめんなさい、詳しくって言われても私は自分の下の名前、年齢しかわからないんだけど…」
私は3歳の頃に親に捨てられて苗字など覚えていないのだ。生まれてから毎日暴力の嵐で誕生日 クリスマス お正月を祝うなど知らなかった。なので誕生日などしらない。
『そうですか、実を言うと僕もそんな感じです。』
昂汰の予想外な答えに玲奈は思わず詳しく教えるよう聞いた。
『社長から玲奈様の幼いころの家庭環境は伺いました。僕も、施設をでている孤児です。親からの過度の暴力で保護されました。だから僕も名前、年齢しかわかりません。』
玲奈は絶句した。
目隠し用の包帯で昂汰本人の姿は見れないものの、耳に入ってくる昂汰の声がすごく落ち着いていて優しさのある声色だったので、てっきり裕福というか、親の愛情のある家庭で育った人物だと思っていたのだ。
人と言うのは、不思議なもので同じ境遇の人間を心のどこかでは求めてしまったり、同じ境遇の人間が目の前にいた場合 警戒心がなくなりやすいのだ。
玲奈も心はなくとも立派な人間だ。
少し、警戒心がとけてきた。
が、玲奈には人から裏切られた恐怖がまとわりついている。
安易に信じてはいけない、と玲奈は思った。