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対外的シリーズ

対外的にイイ男への苦悩

作者: 嵯峨愁

一部無理矢理な表現があります。直接的な表現ではありませんがダメな方はご遠慮下さい。

 今、売れに売れている俳優、幸村 透(25)。

 すっきりした切れ長の目に見つめられたらどんな堅物でも3秒でオチると評判らしい。

 とある大河ドラマでデビューし、その後様々なドラマでは色々な役を演じたが、その中で一番好評だったのは刑事ドラマで警部補の役だった。

 恋愛絡みのミステリー小説が原作なのだが、その警部補の役は主人公の女性を好きになるが、もう一人の主人公である男性と女性が結ばれて振られる役だった。

 その切なさの表現と苦悩する表情がお茶の間で色っぽいと大評判になった。



「ふーん」

 で、と言わんばかりにどうでも良さそうに適当な相づちを打ったのはこの部屋の主。

 ぱらぱらと捲ってみてる表紙に書かれているのは次のドラマの台本だった。

 その中に線を引かれているのは主役になる男性の箇所。

 どうやら今度はサスペンスの探偵役らしい。

「頑張って」

 素っ気なく言いながら台本を渡した相手はかの幸村 透本人だ。

 TV通りの顔がそこに座っている。

「藤緒」

「なに?」

 呼ばれた女性は机へと向かおうとしたのを止まってもう一度幸村を見る。

 一部を除いた日本の女性を虜にした顔が藤緒と呼ばれた女性のすぐ傍にある。

 しかし彼女は顔色一つ変えず、銀色のフレームを持ち上げて眼鏡を直す。

「近いよ」

「藤緒」

 言外に離れろと冷たい響きを持たせた藤緒の言葉に幸村は身体を引く。

「本読み、手伝ってくれ」

「嫌よ」

 幸村の言葉に藤緒はこれ以上なく素っ気ない態度で背中を向ける。

 彼女は幸村の本読みをもう手伝う事はない。

 それは幸村が犯した失態の所為だ。

 彼女―――袴 藤緒は幸村の幼なじみだ。

 家が隣同士、小学校から高校までずっと一緒で、親同士も今も仲が良い。

 初めて別になった大学での演劇サークルの勧誘が藤緒と幸村の関係を変える事になる。

 大学での発表の時、幸村はほんの端役で舞台に上がっていたのだが、それを偶々有名な演出家の目に止まったのが切っ掛け。

 そこから彼はとんとん拍子に大河ドラマに出演し、現在の地位へと上がった。

 幼なじみの藤緒を置いて。

 藤緒自体は女子短大へと進み、卒業後はそこそこ中堅の会社へと入社した。

 絵に描いた様な平凡でささやかな日常をそのまま継続して。

「もう、あんな目に会いたくないの」

 幸村自体はもう実家から出て東京で事務所に決められたマンションで生活をしている。

 藤緒は未だ実家で暮らしているので交流自体は少なくなったとは言え継続している。

 彼の実家は今もまだ隣にあるのだから、それは当たり前と言える。

 そして二人の関係性で一番重要なのが、二人は未だに幼なじみと言うカテゴリーから外れていない事だ。

 幸村が実家へ戻った時に少し話しをする程度であって、彼の東京の家へと行ったり電話をしたりとそう言う関係すらない。

 ただの本当の幼なじみ。

 それが二人の関係だった。

 それを数週間前、幸村のルール違反じみた行動によって破られてしまった。


 ただの本読み。

 それは以前から時々行っていた事だ。

 演劇サークルに居た時からの、ほんの些細な頼み事。

 藤緒は今回もそうだと思い、いつも通り簡単に引き受けた。

「いい加減素人に頼むのやめなよ」

 そんな風に笑いながら、どうしても納得のいかないシーンだけ付き合う。

 天下の幸村 透の本読み相手なんて贅沢な真似させて貰ってるわー、と軽口まで叩いて。

「悪いんだけど、このシーンがどうしても」

 そう言って幸村が示したシーンは、トレンディドラマでも良くあるシーンの一つ。

 男女が諍いを起こし、彼女が走り去るシーン。

 その中のワンシーン。

「えーっと・・・・『どうして・・・・、私は貴方の都合の良い女じゃないの!』」

「『由里・・・・・』」

 良くあるベタな展開だなぁ、と彼女は思いながら台詞を言う。

 そして、その肝心な台詞が藤緒の口から漏れる。

「『私の事が本気なら、その証拠を見せてよ!』」

 ちなみにドラマでは男は何も出来ず、彼女に頬を引っぱたかれて走り去られるシーンだった。

 台詞は『それは・・・・』と続くはずが、幸村からは何の台詞も上がらない。

 はて、と彼女が台本から顔を上げると、幸村の視線とぶつかった。

「透?」

 おかしい、と思った瞬間、幸村の手が藤緒に伸びた。

 肩と、後頭部を掴まれて。

「なに・・・・」

 尋ねる前に、幸村の唇が藤緒の口を塞いだ。

 銀フレームの眼鏡が、幸村の顔とぶつかる。

「ん・・・っやめ・・・!」

 離れたと思った瞬間、今度は眼鏡を取り払われて床に落とされた。

 そして食いつく様に、また口付けをされる。

 ぬるりとした舌が藤緒の口腔を荒らし回り、怯えていた舌を引きずり出された。

 くちゅくちゅと水音が部屋に響く。

 本当に長い時間、口腔の粘膜と舌は幸村の舌に嬲られ、言いようのない痺れで喋れない。

「や・・・・」

 幸村を突き放そうと腕を伸ばすが、それは彼の右手に押さえ込まれる。

 本読みの時はいつも机に座っていたのが、仇になった。

 そのまま手を纏められて、机に上半身を引き倒される。

「な・・・っ?!」

 批難しようとした藤緒はまた幸村に口を塞がれ、叫ぶ事も逃げる事も出来無くされた。

 そして、幸村は藤緒を机に縛り付けたまま、彼女の洋服へ手を伸ばす。

 容易く破られた服の残骸が足下へ落ち、隠されていた肢体は幸村の目の前に晒される。

 これと言って可もなく不可もない、平均的な身体。

 女優を見続けた幸村にしてみれば貧相な藤緒の身体に、幸村の手が這い回る。

「んんっ!!」

 そして。

 彼女はそのまま幸村に犯された。

 一度ではなく、二度三度と。

 初めてだった彼女の足には無残な血の跡と、無数とも言えるほどに付けられた幸村の痕。

 痛い程掴まれた薄い胸にも指の痕が残り、誰がどう見ても合意があったとは思えない程にボロボロにされた。

「なんで・・・・・」

 一度目は机。その後からはベッドへ移されてずっと揺さぶられ続けた藤緒は呆然としながら幸村へ尋ねる。

 しかし、答えはなかった。

 三度目で意識を失い、気が付いた時には幸村はいなかった。

 藤緒が使った台本だけを残して。



 そんな真似をした男が、また平然と藤緒の目の前に現れた。

 同じように台本読みを手伝えと。

「冗談じゃないわ・・・・」

「ふじ・・・・」

「呼ばないで。早く隣へ帰って」

 二度と見たくない、と藤緒は背中向けたまま幸村に告げる。

 今日は下に家族がいる。

 上で騒げば間違いなく見つかるだろう。

 そんな安心から藤緒は幸村の部屋への侵入を許してしまった。

「大体どう言うつもりなのよ。あんな真似をしておいてノコノコ現れるその神経が判らない」

 思い出せば、身体が震える。

 良い様に嬲られ、犯された身体は容易く恐怖を克服する事は出来ない。

 しかも、幸村は藤緒の中に全てを吐き出していた。

 汚された下肢から流れた自分の血混じりの白濁はただただ藤緒に恐怖を与えた。

 怖い。

「もう・・・・あんたの事見たくない」

 幼なじみであっても許せる境界を越えている。

「・・・・・お前が」

 低く、底を這う様な幸村の声に、藤緒はハっとして振り向く。

 そこに居たのはTVで見る様な色男ではなく、目に狂気を宿した幼なじみだった。

「いつまでも俺を幼なじみとしか見てないのは知ってた」

「あ・・・当たり前でしょう?!どれだけの腐れ縁だと」

「お前は、俺の物だ」

「は?冗談じゃない。私は私の物よ」

 すっと立ち上がる動作に、藤緒は椅子から立ち上がる。

 逃げ道は横から走るしかない、と思い立った瞬間から藤緒は横を抜けようと身体を動かす。

 しかしそれを幸村の手が阻んだ。

「はな・・・離しなさいよ!」

「嫌だ」

 とてもお茶の間で持て囃されている俳優とは思えない凶悪な表情。

 取って食われる、と藤緒は身体を硬くする。

「なぁ・・・・お前、会社で告白されたって?」

「な・・・・・・」

 何でしってやがるこの野郎、と藤緒の顔は羞恥で赤く染まる。

 会社の先輩で、藤緒の元教育係だった人だ。

 そこそこに爽やかで、気配りの出来る人物。

 しかも将来有望の出世株、と噂されている人が、どういう訳か藤緒に告白をしてきた。

 藤尾自身はそう言う目で見ていなかったのでごめんなさい、とお断りしたのだが。

「あんたに・・・・関係ないでしょそれ」

 掴まれた手からじんわりと恐怖が染み込んでくる。

 この間の様な目に会いたくない、と身体と心は硬くなる一方で、幸村を正視していられない。

 耐えきれずに顔を背けると、空いていた手で顎を掴まれた。

 力尽くで振り向かされて、顎が痛いのを藤緒はきつく睨み付ける。

「大体・・・あんた芸能人でしょ。こんな事で醜聞作ってどうするの・・・っ」

 良いワイドショーの餌食になるのは目に見えている。

 もっとも、藤緒はばれたくないので泣き寝入りするしかないのだが。

「事務所だっていい顔はしないでしょ・・・・っ」

「そんな物知らない」

「知らない・・・・じゃないでしょ!余りにも無責任過ぎるわ!」

「俺はお前が離れないなら、今は取りあえず幼なじみのままで良かった。けど離れるなら無理だ」

「だ、誰も縁を切るなんて言ってないでしょ!」

 幸村の言葉に、藤緒が反論する。

 しかし、幸村の力は弱まらないし、開放もされない。

「大体何でいきなりなの?!」

「いきなりじゃない」

「いや、いきなりでしょ!私何一つ聞いてないわ!」

 好きだとも、愛してるとも。

 何一つ藤緒は幸村から与えられていないし聞いていない。

 あるのは長年の付き合いからの幼なじみという称号のみ。

「おじさんとおばさんには言ってある」

「はぁ?!」

 なんだそれは、と顎が抜けそうになった。

 しかし幸いな事に幸村の手で押さえられていたので無様に口を開く事はなかった。

 そんな藤緒に構わず、幸村は坦々と話を続ける。

「俺がこの業界に入る時、お前の事だけお願いした」

「な、何を・・・悪い予感しかしないんだけど・・・」

 その言葉に、幸村は酷く、見た事ない程柔らかく残酷に笑う。

 恐ろしいほど、たらし込もうとする表情だ、と気が付いて藤緒は青ざめる。

「俺に藤緒をくれって」

「私の意志はどこよそれ!」

「そんなもの、後からどうとでもなる。だからまず二人に藤緒に見合いとか持ってこない様にお願いしておいた」

「まだそんな物来る年齢じゃないわよ!」

「でもいつかは来るだろう?だから先に結納金も納めた」

「ちょ、こわい!どんだけ私の意志を無視するの?!」

 こいつ、病んでる!と藤緒はがくがくと震える。

 足の力が抜けて床の上にへたり込むと、幸村も同じように目の前に座る。

「時期が来たら、ちゃんとプロポーズして、指輪を贈ってって考えてたけど・・・・・余計な虫がお前に付く事を失念してた」

 だから犯して身体だけ先に奪った、と。

 恐ろしい事を平然と言ってのける幸村の姿からはとてもじゃないが世間の評価は当てはまらない。

「だから、お前は俺の物だ。心は後から貰う」

「や・・・・いやいや・・・・落ち着きなさいよ、お願いだから」

「あの時も、そのつもりで避妊しなかった」

「あんたそれ犯罪者だからね!?」

 じりじりと徐々に距離を詰められ、気が付けば目の前すぐに幸村がいる。

 怖い、と藤緒は背中を向けるが、肩を掴んで正面に向かい合わせにされた。

「藤緒」

「な・・・・・何・・・」

 柔らかく呼ばれた声に藤緒はびくりと震える。

 ベッドへ移されてから、ずっと身体を貪られながら耳元で囁かれた声。

 甘くすら響く声が、また耳元で聞こえる。

「俺と結婚してくれ」

「早いんじゃないのそれ・・・・何もかもすっ飛ばしてるん・・・」

 最後まで言う前に、藤緒の口は幸村に塞がれる。

 柔らかく甘噛みをされた舌が痺れる。

「恋人期間として知る事はもう全部知ってる」

「いやまあ・・・・ってなし崩しに許されようなんて卑怯だわっ」

 居心地が良くなりつつあった腕の中で藤緒は恐怖を思い出して藻掻く。

 しかし幸村は藤緒を離そうとしない。

「それに・・・・」

 笑った顔はこれでもかと極上品。

 十人中九人は確実に落とせるほど甘やかな笑顔で。

「もう、お前でしかイけないし」

「・・・・・・さいってい!!」

 それって試したって事よね、と藤緒は心底嫌悪する表情で幸村を睨み付けるが、目の前にいる男は一向に気にせずに表情を変えない。

 勿論、藤緒の考えている事は見通しているのだろうけれども。

「実地では試してない」

「聞きたくないから言わないで!!」

「じゃあ言わないが。取りあえずそう言う事だから」

 幸村の手が、藤緒の眼鏡を奪い取る。

 離れた所へ放り投げられ、唇が触れるスレスレまで顔を寄せられる。

「あんたとは絶対嫌よ」

「聞かない」

「聞きなさいよ」

 良い様にされては堪らない、と藤緒は幸村を思いっきり蹴りつける。

 綺麗に鳩尾に入り、幸村は藤緒から手を離してそこを抑える。

 ざまみろ、と藤緒が心の中で吐き捨てて眼鏡を持つ。

「絶対、あんたの思い通りなんてならないからっ!」

「・・・上等だ、何が何でも落とす」

「ご免被るわよ!」

 幸村の宣言に、藤緒は真っ赤になりながら部屋を飛び出る。

 頭を冷やす為に外へ出て行く、と親へ告げて藤緒は玄関から出て行く。

 明かりが付いた自分の部屋を見上げると、にやりと笑いながら見下ろしている幸村がいる。

 冗談じゃない、と藤緒はぶるりと震えてコンビニへと走り出す。



 1時間後、藤緒が部屋に戻ると幸村はいなかったが、机の上にメモと薄いプラスチックのカードが置いてある。

 ―――やる。

 端的な言葉に、藤緒は深々とため息を付いた。

「やる、じゃないわよ・・・・」

 そのカードを見ながら、今後どうしようかと藤緒は頭を捻った。

続くか続かないか・・・・決めかねた文章になりましたが、取りあえずはこれで終了です。

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