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    誕生、「ゼロ=リターナ」 ③


零次はVR装置を起動し、VR空間へとログインした。

今回はサヤと戦った時と同様、プライベートモードの為、デュエルサイバーズを起動すると直接対戦部屋へとログインする事になる。基本、ステージはランダムで固定されており、毎度VR空間にて数百万を超えるパターンのステージが生成される。

だが、大体ステージ毎の特徴は決まっているので、その特性だけを抑えれば大体どのステージでも戦えるだろう。


デュエルサイバーズのルールは単純な殴り合いとは少し異なる。

実は自身に体力が設定されているのではなく、アバターパーツ自身の耐久が自分の耐久力になる仕組みだ。

つまり、制限時間内に、いかに相手のアバターパーツを破壊できるかどうかが勝負のカギとなる。

だが、デュエルサイバーズにはもう一つ勝利の条件が隠されている。

それはアバター自身の『コア』破壊だ。 アバターパーツによって隠されたコアを破壊すれば、パーツの状況がどうであれ無条件で勝利となるのだ。


コアの位置は固定されていて、人間の心臓部に値するところがコアとされている。

但しコアは一番耐久値の高いボディパーツによって守られている為、早々狙えるものではない。

あくまでも逆転要素の一つとして用意されたと考えるべきだろう。

零次のログインが確認されると、目の前の真っ白な光景からステージが徐々に生成されていった。

今回のステージは何処かの工場なのだろうか、ドラム缶やら空き箱といった物が無造作に配置されており、他にも数多くのギミックが用意されていた。

このような室内タイプのステージは障害物が多く、非常に動き回り難い。 零次にとっては苦手なステージであった。

大河は既にログインを終えていて、仁王立ちで零次の事を待ち構えていた。


「待たせたな、桜庭よ……いや、久しぶりというべきだろうな」


「久しぶりだぁ? 何のことだよ」


「あの時の屈辱、ワシは一片たりとも忘れはせんかったぞぉっ! 貴様のせいでワシはワシはぁぁぁっ!!」


大河は突如、顔を天へと向けて甲高い雄たけびを上げた。

ビリビリと伝ってくる振動にうんざりとしつつ、零次はため息をついた。


「貴様が学園に入学してきて間もない頃、当時無名だった貴様とワシはデュエルサイバーズで一戦を交えたのだ。 その時ワシは可愛い可愛い彼女を連れておってな、彼女にいいところを見せようとそりゃもう張り切っていた」


「んな話どうでもいいから、さっさと始めようぜ?」


「黙って聞けぇいっ! 貴様はその時、姑息な手段を使ってこのワシを負かせたのだぁっ!」


「知るかよっ! 俺はテメェを知らねぇし、戦った記憶もねぇっつーのっ!」


「おかげでワシは彼女に振られてしまい一人身となってしまったぁぁっ! あれからワシは貴様の事を研究に研究を重ね、ようやく最強のアバターを完成させた。 この積もりに積もった恨み、今こそ貴様に晴らすときだぁぁぁっ!」


『やっちゃってください親分っ!』


『そうだ、そんな生意気なクソ野郎ぶっ潰してくれっ!』


『応援してますぜ、親分っ!』


外野の中継からは例の3バカが勝手に盛り上がっているが、零次から見れば鬱陶しいの一言に尽きる。

せめてエフィーナの黄色い声援でもあれば、と思ったがエフィーナはビクビクとしながら心配そうにこちらを覗き込んでいるだけだった。

プログラムを組んでいた時の暴走っぷりは一体何処へ消えたというのだ。


「ただの逆恨みじゃねぇかっ! ガッカリだぜ、テメェもあの3バカと大差ねぇとはなっ!」


「行くぞ桜庭っ! このワシが生み出した『伝説(レジェンド)白鳥(スワン)』で貴様の息の根を止めてくれるわぁっ! アバターセット『レジェンド=スワン』、ロォォォディィィングゥゥゥッ!」


大河は右腕に取り付けたローダーを天へと掲げ、力強くアバターの名を叫んだ。

派手なエフェクトと共に大河の体中にアバターパーツがインスタンス化されていく。

真っ白なアーマーにはこれでもかというぐらいギッシリとトゲが埋められていた。

いや、アーマーだけではない。 アームからレッグまでもがトゲで埋め尽くされていた。

あれでは迂闊に手を出せば逆に自身がダメージを受けてしまう。 背中には羽のようなものが広がっているが、あれはただの飾りなのだろうか?

一応そのパーツがあるだけで、辛うじて『白鳥』として認識は出来るが……あまりにも無理やりすぎる。


「なんちゅー格好だありゃ、センスのかけらも感じねぇぜ……」


「黙れぃっ! レジェンド=スワンは対『インファイター=ゼロ』用に作られた究極のアバターなのだっ! 見よ、美しい白鳥のトゲをっ! これでは貴様お得意の近接攻撃が打てまいっ!」


「白鳥にトゲがあってたまるかっつーのっ!」


「桜庭よ。 世の中にはこういう言葉があるのだ、綺麗な物にはトゲがあるとな」


「いや、だからどうしたんだよっ!?」


最初はまともな男だと思っていたが、どうやら中身はただのバカだったようだ。

おかげで零次はすっかり拍子抜けしてしまっていた。


「貴様、モタモタしているのではないっ! さっさとインファイター=ゼロを出さんかっ!」


「悪いな、俺はもうインファイター=ゼロではない。 ちぃとばかし、名を変えさせて貰った」


「何? どういうことだ?」


「ま、戦ってみりゃわかるって。 アバターセット『ゼロ=リターナ』、ナウ・ローディングッ!」


零次は同じように右腕を天へと突きあげると、ローダーが青い輝きを放ちゼロ=リターナのパーツが零次にインスタンス化されていく。

お互いインスタンス化を終えたところで、試合開始を告げるとカウントダウンが開始された。


「おーいエフィーナ、ちゃんと見てんだろうなー?」


『は、はいっ! み、みみみみ見てますっ!』


もうすぐ試合が始まるにも関わらず、零次は余裕全開でエフィーナに向かって手を振っていた。

カウントダウンが残り3を迎えたところで、ようやく零次はファイティングポーズを構える。

残り3,2,1……0。 ゲームのスタートを告げるゴングが、ステージ中に響き渡った。


大河との距離はそこそこ離れているが、この程度であれば瞬間加速で瞬時に距離を詰める事は出来る。

武器を己の拳しか持たない零次にとっては、とにかく近づかなければ何も始まる事はない。

早速零次は力強く地を踏みつけると、ブーツから青白い光が生じた。


「しねぇい、桜庭ぁぁぁっ!」


大河の両手が真っ白に輝いたかと思うと、突如巨大なマシンガンが二つインスタンス化される。

するとマシンガンから無数の弾が零次に目掛けて発射される。 弾を避けようと、零次は空へ向けて地面を蹴る……が、予想だにしない加速がかかり、凄まじい勢いで零次は真横に吹っ飛ばされてしまった。


「うぉぉぉぉっ!?」


ガッシャーンと派手な音を立てながら、零次は積んであったコンテナの山へと自ら突っ込んでしまった。

中身が空だったのは不幸中の幸いだった。


「いってぇな、クソッ! これだったらあの銃食らってた方がマシだったな」


「隠れても無駄だぞっ!」


大河は倒れている零次に容赦なくマシンガンを向けて乱射する。

何とかコンテナを蹴り飛ばし、零次はダッシュで駆け抜けながら弾を避け続ける。

ここで一気に距離を詰めようと、ほんの少しだけ力んで、勢いよく大河へ飛び込んだ。

大河の背中につけられた翼が突如動きだし、正面へと向けられる。

そこで零次は、背中の飾りが『翼』ではない事に気づかされた。


「おいおいおい、やべぇぞ――」

月光(ムーンライト)白鳥(スワン)、発射ぁぁっ!!」


翼のように見せかけた背中の飾りは、『ビーム砲』だった。 その太い銃口を見せられ、嫌な予感が過ぎった零次は全力で後退し障害物へ身を隠す。

黄色い派手なエフェクトが画面いっぱいに埋め尽くされ、ありとあらゆる障害物を吹き飛ばしていった。


「ヤバイヤバイ、あの一撃食らったらシャレにならねぇぞ……」


物陰から大河の様子を伺いつつ、零次は独り言を呟いた。

射撃自体は掻い潜る事は出来そうだが、問題はこっちが攻撃する手段を持ちえていない事だ。

被ダメージ覚悟で殴り続けるのも手段ではあるが、先程のビーム砲といい思わぬ反撃を受けてしまうリスクも高い。


「隠れても無駄だ、すぐにでも炙り出してやるぞ」


なんとかして反撃の糸口を見つけなければ。だがそうやって焦りを募らせる零次を大河は呑気に待ったりはしない。突如無数の手榴弾を取り出すと、ところ構わずまき散らし始める。

そのうちの一つが、丁度様子を伺っていた零次の頭上に飛び込んできて、ゾクッと背筋に寒気が走った。


「おい、マジかぁぁっ!?」


ズガァァァンッ! 派手な爆発音と共に次々とオブジェクトが破壊されていく。

間一髪で避けきる事が出来たが、それを待ち構えていたかのように大河はマシンガンを乱射させた。


「ククク、どうだ桜庭よ。 ワシの伝説(レジェンド)白鳥(スワン)に手も足も出せんか?」


「クッソ、あんなアヒル野郎に押されてるなんてよっ!」


零次は地に留まり、両手で弾丸を受け止める。 ミシミシッとダメージが入ったが、まだ破壊までには至らない。

マシンガンが止んだ隙を狙って、零次は一度退きドラム缶の裏へと隠れた。


「このままじゃ埒があかねぇぞ……こうなったら一発ぶん殴って――」


『れ、零次さんっ! 待ってくださいっ!』


零次はマシンガンをこちらに向けている大河へ飛び込もうとした途端、ふと上空のモニターからエフィーナが大きな声で叫んだ。


『相手のアバターは本当に対零次さん用に設計されているんです、策もなしに飛び込むなんてダメですよっ!?』


「何言ってんだ、相打ち覚悟でもダメージを取っていかねぇとどうしようもねぇだろっ!?」


『零次さん、落ち着いてください。 いつもの零次さんならもっと冷静に頭を使うはずですっ! 何も殴るだけが零次さんの武器ではないはずですよっ!?』


「殴るだけ……が?」


零次はエフィーナの言葉を耳にして、ふと思考を停止させる。


「フンッ、貴様も女子の前で恥を書かせてやるぞ桜庭ぁぁっ!」


『流石親分、カッコイイっすっ!』


『まさに不良の鏡だぜっ!』


『いいぞ、もっとやっちまってくださいっ!』


外野の3バカがワーワー騒ぎ始めると、エフィーナは肩身を狭くしながら画面外へと消えてしまう。

思わず両手耳を塞いで舌打ちをするが、ふと零次は表情をハッとさせた。


「そういやあいつ、開始地点から動いてねぇな」


零次は大河が初期の位置から全く動いていない事に気が付いた。

確かに初期位置の中央からはステージ全体は見渡せるし、大河の射撃も全て届く位置にあるだろう。

それでもこれだけ隠れる場所が多いのに、自ら姿を晒したままだというのはおかしい。


「殴るだけが武器じゃない、ねぇ。 ヘヘッ、ありがとよエフィーナ。 お前のおかげでいい事閃いちまったぜっ!」


零次は丁度傍にあったドラム缶を両手で抱え込んで横に倒す。

先ほど誤って突っ込んでしまったコンテナの山とは違い、重さからして中身は空ではないようだ。

ならば、と零次は迷わずドラム缶を蹴飛ばして転がした。


「ほーら、止めてみろよっ!」


「ふん、そんなものでワシを止めようとは甘いぞっ!」


大河は零次が放ったドラム缶を迎撃すべく、マシンガンで撃ちぬく。

すると、ドラム缶は木端微塵に砕け、中から黒い液体を巻き散らし、銃弾の火花に反応し着火した。


「ムォッ!? 何が起きたっ!?」


「ざまぁみろ、逃げれるもんなら逃げてみやがれっ!」


炎の海に包まれた大河は、しかし非常にゆっくりとした動作で必死に脱出しようと試みる。

零次の予想通り、あのアバターは遠距離と防御に特化した分、機動性の大半を犠牲にしているようだ。

もがく大河に、零次はもう一つ立て続けにドラム缶を投げつけた。


「ええい、貴様ぁぁっ! 拳でワシを殴らぬとはどういうことだぁぁっ!」


「知るかっ! テメェが余計な事すっから俺は殴れなくて困ってたんだっ!」


「ゆぅぅるさんぞぉぉぉ、桜庭ぁぁぁっ!」


怒りに満ちた大河の咆哮がステージ中に響き渡る。 直後、直後、炎の中からガチャンと何かが変形する音がした。

もしや――零次の顔に冷たい汗が流れ、背筋に寒気が走った。


「おいおいおい、待てお前落ち着けっ!」


「しねぇぇぇいっ、月光(ムーンライト)白鳥(スワン)だぁぁぁっ!」


「冗談じゃねぇぇぞぉぉぉぉっ!?」


零次は全力で距離を離そうと、力強く地を蹴飛ばし飛び上がる。 その瞬間、大河の派手なビーム砲が零次へと向けて発射された。 すると、突如周囲にカッと真っ白なフラッシュが発生し、ズゴォォォォォンッ! と凄まじい大爆発が引き起こされた。


「あっぶねぇ……まさかオイルまき散らした中であんなもん放つとは思わなかったぞ。 銃器でさえ危ないってのに、無茶苦茶な野郎だぜ」


俊敏な跳躍に助けられた零次は、間一髪で爆発から逃れる事が出来た。

大河の周辺一帯は見事爆発によって黒い煙に包まれていた。

あのアバターの機動力では大爆発から逃れる事はできなかっただろうと、そう思った瞬間、煙の中からマシンガンの銃声が聞こえた。

「うぉっ!? あの爆発でくたばってねぇのかよっ!?」


「貴様ぁぁぁ、よくも小賢しい真似をぉぉっ!」


「言っとくけど半分はテメェの責任だからなっ!?」


煙の中からはノシノシと両手にマシンガンを構えた大河が姿を現した。

だが、流石に爆発に巻き込まれた事もあり、パーツのほとんどがボロボロになっている。

パーツを覆っていたトゲは全て剥され、今では黒こげになった『ただの鎧』と化していた。


「よし、景気よく一発決めてやるかっ!」


もはや殴り放題の的と化した大河へ向かって、零次は地を強く踏み込んで力をためる。

ブーツは青い光に包まれ、徐々にエネルギーを蓄積していく。

だが、大河も懲りずに翼のキャノン砲をこちらへと向け始めた。


「遅すぎるんだよっ!」


零次が強く地を蹴った瞬間、信じられない程の豪速で一直線に向かって飛び込んだ。

瞬く間に距離が詰められ、零次が突き上げた拳が大河の鎧へと直撃する。

ガァァンッ! と激しい金属音が鳴り響き、大河は勢いよく吹き飛ばされあっという間にステージの端の壁に衝突した。

その瞬間、体を覆っていたアーマーが砕け散り粉ように消え去っていく。


「な、なんだこのダメージ? おかしいだろっ!?」


まさかあの重そうな鎧を身に着けた大河を、いとも簡単に吹き飛ばせるとは流石の零次も驚きを隠せなかった

力加減は難しいが、エフィーナが改修した『ゼロ=リターナ』は今までの『インファイター=ゼロ』とは明らかに異なっている。

全体的なクセを強くした分、凄まじいポテンシャルを秘めたモンスターアバターへと進化を遂げていたのだ。


「桜庭ぁぁ、これでワシに勝ったと思うなよっ!」


「しぶてぇな、まだ起き上がってくんのかよ」


アーマーを破壊された大河は、まだやれると言わんばかりに立ち上がりマシンガンを両手に構えた。

その瞬間、零次は大河へと向かって飛び込んだ。

弾丸の如く突き進む零次は、拳を突き上げるとあっという間に大河のコアを砕いて見せた。


「ゲームセット、だな」


「バカな、バカなバカなバカなぁぁぁっ!?」


軽快なBGMと共に、目の前に『YOU WIN!』の文字が浮かび上がった。

システム上で勝利を告げるリザルト画面、何度見てもこの瞬間は気持ちがいいと零次は頷きながら勝利の余韻に浸っていた。







「テメェ、まぐれで勝ったからって調子に乗んなよっ!」


「覚えてろよ、次こそ親分がテメェをぶちのめしてやるからなっ!」


「そうだ、俺達を敵に回したことを後悔させてやるっ!」


敗北したショックにより気絶した大河を抱えて、3バカの男子生徒はスタコラとデュエルルームから退散した。

よほど零次に負けたことがショックだったのだろうか、何も気絶までしなくともいいのに、と少しだけ罪悪感を抱いた。

逃げていく3バカを呆然と見送っていたエフィーナの右肩に、零次はポンッと手を置く。


「キャッ、な、ななななんですかっ!?」


「何びびってんだよ、お前本当すげぇ奴だな。 『ゼロ=リターナ』……気に入ったぜ」


「え、え?」


「正直こんなバケモンじみたアバターを使いこなすのは相当訓練を積まない限りは無理だ。 しかし、訓練すればするほどこいつは強くなる。 おもしれぇ、おもしれぇよお前っ! お前マジ最高だぜ、俺にこんなおもしれぇアバターをプレゼントしてくれるなんてよっ!」


「き、気に入った頂けたのは有難いんですけれど……い、いいのですか? わ、私が勝手にしたアバターなんですよ? ちゃ、ちゃんとバックアップも取りましたし、元に戻すことだって――」


「俺が気に入ったっつってんだよ。 俺自身の腕がアバターに追いついていねぇだなんて、そんなの楽しすぎるじゃねぇかっ! いいか、絶対に俺はこいつを使いこなしてやるっ!」


大河との試合で、零次は『ゼロ=リターナ』が秘めているポテンシャルに完全に惹かれていた。

以前よりも数倍速度も威力も増した重い一撃に機動性といい、まさにモンスターと表現するに相応しい性能であった。

こんなクセが強いアバターを使いこなした時、自分が一体どこまで強くなっているのかを想像すると、零次の心は熱い闘志によって燃え盛っていた。


「おいお前、俺とパートナーを組めっ!」


「パ、パパパパートナーっ!? れ、零次さんとですかっ!?」


エフィーナは小動物のように髪の毛を逆立てて、大きな目を見開いて驚いた。

零次はニヤリと笑い、両手でエフィーナの両肩をがっしりと掴んだ。


「そうだ、この『ゼロ=リターナ』で大会の優勝を目指すっ! 俺はプログラムの事わかんねぇし、今後こいつをメンテナンスするにはお前が頼りなんだ」


「で、でも私……そ、そんな……その。 や、やっぱりアバターを戻しましょうよっ!」


「おいおい、勝手に俺のアバター改造しといて今更そりゃねぇだろ? それにお前の洞察力も中々だぜ、今回の試合はお前に助けられたってのもあったしな」


「そんなことないです、零次さんなら後からでもきっと気付けたはずですっ!」


「俺だっていつでも万能なわけじゃねぇさ。 時には頭に血が上って冷静さを欠いてボロ負けすることだってある。 てか、実際何回かそれで負けてるしな」


「そ、そんな……でも、私なんて――」


エフィーナは表情を曇らせて、零次から意図的に目を逸らした。

恐らく自身がアバターを勝手に改造してしまった事と、試合中に余計な口出しをしてしまった事を引きずっているのだろう。

エフィーナにとって零次がどんな存在かはわからないが、少なくともサイバーズとしての憧れを持っていたとも取れる。

そんな憧れの人物に勝手なことをしてしまった事を後ろめたく思っているのだろう。

しかし、零次にとってはそんなものは関係ない。


「いいから黙って俺について来い、俺と共に来いよっ! 二人で一緒に優勝を狙うぞっ! どーせ上位の奴らは一人でプログラム組んでる悲しい奴らばかりだ、そいつらに一泡吹かせてやるのも面白そうだと思わねぇか?」


「ほ、本当にいいんですか? わ、私なんかをパートナーにしても……」


「何だよ、もしかして組むのが嫌なのか?」


「い、いえ……その、す、すごく嬉しいです……けれど、も、もっと優秀な人とか探して――」


「お前以上に優秀な奴が何処にいんだよ? いいじゃねぇか、嫌じゃねぇんだろ? お前は嫌じゃねぇし、俺にはお前が必要だ。 だから、頼むっ!」


「……本当に私を、必要としてくれるのですか?」


「ああ、そうだっ! こんなすげープログラム組める奴なんていねぇし、ここまで俺をアバターだけで熱くさせたのもお前ぐらいだぜ? 」


零次はニヤッと笑みを見せながらエフィーナと目線をしっかり合わせると、エフィーナはチラリと目線を逸らそうとするが、少しだけ留まってボーッと零次を見つめていた。


「いいから、俺と共に来いよ。 俺達二人で優勝を目指そうぜ?」


零次は目の前に手を差し出すと、エフィーナはキョロキョロと零次の表情を伺いながら、そっと小さな手で零次の手をギュッと握った。


「わかりました、そこまで言うなら私全力で協力しますっ! 必ず零次さんを優勝させて見せますからっ!」


「おい、ちげぇだろ。 それじゃまるで俺がお前の手柄取ってるみてぇじゃねぇか。 『ゼロ=リターナ』はお前のプログラムがあってこそだろ? 優勝を目指すのは『二人』で、だ。 そこを間違えるんじゃねぇぞっ!」


「は、はいっ! 二人で優勝、ですねっ!」


「ああ、よろしく頼むぜっ! ……っと、なんだっけか?」


「もうっ! 名前ぐらい覚えててくださいよ、エフィーナですっ!」


このタイミングで名前を忘れるかってばかりにエフィーナはため息をついた。


「悪い悪い、エフィーナだな。 よろしくな、エフィーナっ!」


「こちらこそです、零次さんっ!」


「よし、パートナーを組んだ記念だ。 今度こそ俺を呼び捨てにしろ、これから長い付き合いになるだろうし、いつまでも他人行儀なんつーのも嫌だしな」


「わ、わかりました……零次」


この日、零次とエフィーナの出会いによって『ゼロ=リターナ』が生まれた。

天才プログラマー少女エフィーナと学園上位サイバーズ零次がパートナーを結んだ事は学園内に瞬く間に広まっていき波乱を呼んだのだった。


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