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第5話 絆 ①



体育館裏へ辿り着くと、何故か開かずの間は開かれたままだった。

メティスが開けたとしたら、この前のように勝手に扉は閉まるはず。

なら、誰かがこじ開けた? 零次は額に汗を垂らし、ダッシュで階段を駆け下りる。

カンカンカンカン、と足音を響かせながらあっという間に地下室へ出ると、そこで零次は絶句した。


「――どういう、ことだ?」


零次は声を震わせながら、呟いた。 そこには不敵な笑みを浮かべていたメティスと、目を見開いて両手で口を覆っているエフィーナの姿、その目線の先には、ぐったりと横たわっているアクアブルーの長い髪の少女――サヤの姿があった。


「やあ、また君かい? どうしたの、もしかしてお仲間さんを連れ戻しに来てくれた?」


「サヤ……おい、サヤッ!?」


零次はサヤの元へ駆けつける。

上半身を抱え、意識があるかどうか顔を軽くペシンッと叩くと、僅かにだが眉と口元を動かすとうっすらと目を開けた。


「――アンタ、何してるのよ……」


「お前こそ何やってんだよ……こんなところで、何してんだっ!?」


「……バカ。 アンタ、どうして一人で背負おうとしてたのよ……」


「――知ったのか、全てっ!?」


「隠すんだったら……徹底的にやりなさい。 あの後私、アンタが使ってた端末を調べさせてもらったの……インスタントメッセージのログ、全部読んだわ」


その言葉を聞き、零次は思わずハッとする。

零次はうっかりPCからログを消すのを忘れていたのだ。

零次がエフィーナを探していた時のように、サヤも全く同じことをしていたのだ。

当時は半信半疑で悪戯だと思っていた事もあり、その先に待ち受けているとんでもない事件を予想だにしていなかったからそこまで頭が回らなかったのだ。

エフィーナが何か事件に巻き込まれている事はわかったはずだ、何故ログを消さなかったのかと後悔するが、今はその失敗を悔やんでる時ではない。


「お前……あいつと、デュエルしたのか?」


「――だって、悔しいじゃない。 アンタが、あんな奴に……エフィーナちゃんを取られて……しかも不正ツールを使われて負けただなんて……だから、私が代わりに……アンタの代わりに戦って、エフィーナちゃんを取り戻そうと……したの――」


「お前――」


「情けないわね……私、何もできなかった。 アンタの抱えているモノ、何も解決して……あげれなかった――」


「サヤ……おい、サヤッ!?」


それだけ告げると、サヤはガクンッと意識を失い倒れてしまう。

零次はただ、目を閉じてギュッとサヤを強く抱きしめて、身体を小刻みに震わせていた。


「――先輩、如月先輩っ!?」


零次の足について来れなかったのか、ようやく遅れて夏樹(なつき)が地下室へとやってくる。

駆け足でサヤの元へと近づいてくるが、ふと足を止めて代行者メティスと目線を合わせた。


「……貴方ですか、零次さんと如月先輩をこんな目に逢わせたのはっ!?」


「ん、勘違いしないでほしいな。 桜庭 零次君ならともかく、そこの如月 サヤは別さ。

一方的に僕にデュエルを仕掛けてきたから、返り討ちにしただけさ」


「よくも、先輩を――」


「なら、貴方も僕とデュエルしますか? ま、僕に絶対勝てるはずないんだけどね」


「クッ――」


夏樹(なつき)は悔しそうに歯を食いしばり拳を握りしめるが、何も言い返す事ができなかった。


「フフッ、そうだよね。 誰でも死にかけたりはしたくないさ、たかがゲームの為にね。

如月 サヤは中々面白かったよ。 開かずの間へ入るのも相当リスクを冒したみたいだね、学園の開かずの間の警報装置を解除して、後は力づくで壁をこじ開けたりね。

そして僕と目を合わせたら、キッと睨み付けるもんだからね、最初はビックリしたよ。

その後僕にデュエルを持ちかけて、『私が勝ったらエフィーナを返しなさい』って言ったのさっ!

ハハッ! 僕にデュエルを挑むなんてどんな対策を用意してきたのかと思ったら――実に愚かしいと思ったよ。

彼女は何も用意せずに、真正面から堂々と戦って、僕に何もできずにやられていったのさっ! ハハッ! 笑っちゃうだろっ!? 」


メティスが甲高い笑い声を響かせた。 夏樹(なつき)は体を震わせ、メティスの事を睨み付けているが、零次はひたすら目を閉じて、ジッとサヤの事を抱えたままだった。


「ほら、お友達を回収しに来たんだろう? 用事がないなら、さっさとそのゴミクズを持ち帰ってくれ、邪魔だしね。

ああ、壊された扉は僕の方で直しておくさ、ククッ」


メティスがそう口にした途端、零次はサヤを静かに床に寝かせて、スッと立ち上がった。


夏樹(なつき)、サヤを頼む」


「……零次、さん?」


夏樹(なつき)にサヤの事を任せると、零次は拳を強く握りしめ、体を小刻みに震わせながら、一歩ずつメティスの元へ近づいていく。

一瞬だけエフィーナと目が合うが、エフィーナは慌てて目線を逸らし、俯いた。 構わずに、零次は突き進んだ。

夏樹(なつき)はその様子を後ろめたそうに見送り、気絶したサヤを抱えて、地下室の階段を上っていった。


「おや、まだ僕に用事があるとでも?」


「……」


零次は何も語らないまま一歩ずつ踏み出していき、メティスの目の前でピタリと足を止めた。


「代行者メティス、つったっけか? テメェだけは、絶対に許さねぇっ!」


「ほう、僕を許さない? なら、一体僕をどうしようというんだい?

もしかして、このまま僕に暴力を振るおうとでも? ふふ、そうしたいなら好きにするといいさ」


「ああ、だが殴るのは……デュエルでなっ!」


零次はニヤリと笑みを浮かべて、メティスにそう告げた。


「デュエル、だって? フフッ、君はおかしなことを言うね。 前回僕と戦った時の事を覚えていないのかい?

君は、僕に何もできずに……圧倒的な敗北を味わったはずだけど?」


「さあな、俺は物忘れ激しいんでな。 そんな昔の事、覚えちゃいねぇよ。

しかし、ただのデュエルじゃねぇ。 もし、俺が勝ったら……エフィーナを俺によこしな」


「エフィーナをよこす? フフッ、中々興味深い言い回しだね。 君は取り返すと言わないの?」


「ケッ、俺は取り返すってより奪う方が好みだからな。 どうだ、乗るのかよ?」


「ふぅん、まぁデュエルは構わないんだけど。 ただ僕も暇人じゃないからね、そう何回もデュエルを挑まれても困るんだよね。

だからね、ついつい手加減できずに……勢い余って殺してしまうかもしれないけど、その時は僕を恨まないでおくれよ」


「面白れぇ、やれるもんならやってみろよ」


零次はギロリとメティスを睨み付けてそう告げると、メティスは眉をピクッと動かした。


「れ、零次っ! ダメなのですっ! ただでさえ零次の身体は――」


「心配すんなよ、俺が負けると思ってんのか?」


「ダメなのです、そんなの私が認めませんっ! お願いです零次……これ以上私に関わるのはやめてください、じゃないと、本当に零次が――」


「……悪いな、エフィーナ。 そいつはできねぇ相談だ」


「零次っ!?」


「お前は俺のパートナーだ。 テメェの都合で勝手に俺から離れるんじゃねぇよ。

何度も言っただろ、俺達は二人で一人なんだ。 どちらたりとも、欠けちゃいけねぇってよ」


零次は真っ直ぐとエフィーナの目を見て告げると、エフィーナは目を逸らして俯いた。


「やれやれ、大人しく彼女の言う事を聞いていればいいのに……いいよ、すぐにでもデュエルを始めよう。

どうやら君はまだわかっていないようだからね、僕のアバターにはどうやっても勝てるはずがないと」


「テメェこそわかってねぇみたいだな、完璧なアバターなんて存在しないってことをよ」


零次はそれだけ言い残すと、真っ先にVR装置へ入り込み、ログインをする。

この戦いに勝ち、エフィーナを取り戻すんだ。 代行者メティスの事は、その後二人で一緒に考えればいい。

この戦いに負ける訳にはいかない、零次の為に戦ってくれたサヤの為にも――







VR空間へログインした零次の目の前に広がっていた光景は、現実世界ではありえない世界だった。

緑と黒で埋め尽くされた電子的な空間が延々と広がっている。

デュエルサイバーズではこのように、現実世界とはかけ離れたステージが生成されるのも珍しくはない。

メティスは既にログインを終えて零次を待ち構えていた。


「随分と目が痛くなるステージだね。 フフ、負けの言い訳にでもするかい?」


「何処だろうが関係あっかよ、さっさと始めようぜ」


「ふぅん……本気で僕に勝つつもりなんだ? でも絶対無理だと思うんだけどなぁ……ほら、彼女の顔を見てごらんよ」


メティスは空中に出現したモニターを指さすと、そこにはエフィーナが心配な表情を見せていた。

前回と違いVR装置のデスマッチ仕様を隠す必要もなくなったのか、中継の映像は繋がったままだ。

再び敗北する姿を見せてやろうとするメティスの意図が見えてくると零次は腹を立てるが、この怒りは全て戦いにぶつけようと堪える。


「さあ、楽しませておくれよ。 君の大切な『元』パートナーも見ているんだしね」


「ああ、存分に楽しませてやろうじゃねぇかっ!」


二人はほぼ同時にローダーを天に掲げると、零次の『ゼロ=リターナ』とメティスの『ロプト=マキーナ』がほぼ同時にインスタンス化される。

メティスは片手に巨大なビームソードを持ち、零次へと向けた。


「さあ、ショーの始まりだよ」


メティスがそう告げた途端、ビームソードが一瞬にして真っ赤な光へ変色し始める。

光が最高潮に達した瞬間――ブォンッと勢いよく横一閃を描くと、凄まじい大爆発が引き起こされた。


「うおおぉぉっ!?」


初っ端からの大爆発を予測できずに、思わず零次は声を上げてしまったが咄嗟に後ろへと高く飛び込む事でなんとか爆発を回避する。

着地した途端、背後から殺気を感じ取るとメティスが巨大なビームソードを振り下ろす。

ガァンッ! 地面を抉るほどの凄まじい一撃が炸裂するが、間一髪で零次はステップで一撃を避けて懐へと飛び込んだ。

しかし、メティスは一瞬にして姿を消してしまった。

零次は一旦体制を整えて周囲を警戒すると、背後からカッと強烈な白い光が襲い掛かる。

瞬時に反応して全力で左へ飛び込むと、零次の背後が真っ白な光に包まれ、爆発音が鳴り響くと零次は勢いよく吹き飛ばされてしまった。


「チッ、やっぱり飛ばねぇと完全回避は無理かっ!?」


前回の試合では空中で無防備になった隙をもう一度ビーム砲で狙われている、迂闊に空には逃げまいと思ったが地上であのビーム砲を避けきるのは、やはり無理があるようだ。

一度攻撃が止んだ隙に反撃の隙を伺おうとするが、不意にガシッと右肩を掴まれた。


「ふふ、どうしたんだい? やはり君も、口だけだったのかな?」


「おいおい、勝負はまだ始まったばかりだぜっ!」


零次は掴まれた肩を振り払い、メティスに殴りかかろうとすると背後には既にメティスの姿はなかった。

辺りを見渡すと、メティスは離れた位置に腕を組んで立ち尽くしていた。


「やれやれ、お話にならないな。 もうやめた方がいいんじゃない? きっと君の『元』パートナーも同じことを思っているはずさ。 今日の僕なら、きっと君の無礼を許してあげるよ。 ま、どっちにしろ死なない程度には痛めつけてあげるんだけどね」


「よく言うぜ、俺はまだお前から一発も貰ってねぇぜ」


「……はぁ、仕方ない。 君がそこまで言うなら、ちょっとだけ本気を出してあげようか」


零次はニヤリと笑みを浮かべた。 ここまでメティスの様子を伺い続けたが、やはり瞬間移動(テレポート)には『背後』を取るという零次の推測に間違いはないようだ。

ならば、次に仕掛けてくる位置は大方予想がつく。 今までメティスが見せた動きは2パターンだ。

零次に真後ろに来る場合もあるし、遠距離でビーム砲を狙う事もあるが……それらが全て背後から来ると考えればある程度敵の行動範囲を狭めることが出来る。

瞬間移動(テレポート)は目で追っても無駄だ、文字通り一瞬で座標の位置を変えているのだから、物理的に追うことが出来ない。

そうであれば、対策はただ一つ。 相手の動きを『勘』で先読みするしかない、という事だ。

常識的に考えれば、そんな事できるはずがないしそもそも対策になっていない。

更に言えば、相手はほぼ前兆もなく瞬間移動(テレポート)をするのだから。

だが、メティスは常に背後を狙っていると考えれば……逆にメティスが消える瞬間、もしくは瞬間移動(テレポート)を使うタイミングを見切ることが出来れば、それが『反撃』のチャンスに繋がる、と考えたのだ。


零次は深呼吸をして、身構えた。 メティスはビームソードを握りしめ、仮面越しで零次の事を睨み付けている。

零次は一歩前へ踏み出し、ブーツを青白く輝かせると同時にメティスはビームソードを赤色へと変色させた。

爆発を察した零次はそうはさせまいと、一気に距離を詰めようとしゃがみ込んだ。

が、その瞬間メティスに僅かな動きが見えた。

それを確認すると、零次は体勢を整えてクルリと後ろへ振り返る。

すると、そこには巨大なビームソードを振り上げたロプト=マキーナの姿があった――


「もらったぁぁぁっ!!」


流石のメティスも不意の一撃を交わす事は出来まい。

ようやく、あのキザッたらしいメティスを殴ることが出来ると、零次は渾身の力を込めた一撃を、ロプト=マキーナの頭部に目掛けて放つ。

その瞬間――不意に拳の勢いが止められて、ガァァァンッ! と激しい音が響き割った。

零次は思わず目を疑い、体を震わせた。


「――嘘、だろ?」


信じられない事に、零次の右手はロプト=マキーナを直前にして止められていたのだ。

そう、まるで見えない壁に拳が行く手を阻められているかのように。


「……ふぅん、惜しかったね。 まぐれだとは思うけど、よく僕の位置を先読みすることが出来たね。

だけどね、無駄なんだよ。 例え僕の瞬間移動(テレポート)を攻略できたとしても……この絶対領域だけは突破する事は出来ない。

僕は何度も言ったはずだよ。 君は絶対に僕に勝つことはできないってね」


「――まさか、バリアなのか?」


「そうさ、僕が誇る究極のバリアさ。 誰だって破る事はできやしないよ、何せこのバリアには耐久度が存在しないのさ。

わかりやすく言えば、VR空間の限界領域を示す壁、あれはいくら攻撃しても破壊することが出来ないだろう?

何故なら、システム上そういう仕様になっているからさ。 プレイヤーが絶対に破壊する事が出来ない、いや破壊しちゃいけない壁だからね」


「……チッ!」


零次はあまりの衝撃に一瞬だけ戦意を失いかけたが、ここで引き下がるわけには行かない。

あのバリアにも絶対に攻略法があるはずだ。 考えろ、あのバリアをどうにかする方法を。

どうすればバリアを破ることが出来る、どうすれば――


「おや、どうしたんだい? もしかして、もう終わりかな?

まさか君は、僕の瞬間移動(テレポート)を何とかできれば勝てるとでも思っていたのかい?

そいつは悪い事をしちゃったな、まぁ当然だよね。 今の今までこのアバターを使ってて、絶対領域を使わせた奴なんていないよ。

君が初めてだったのさ、そりゃ知らなくて当然だよ……フフッ」


「テメェェッ!」


零次は怒りに身を任せて、力任せに拳を振るうが――メティスに攻撃が届く事はない。

何度も、何度も拳を打ちこむがそれでもバリアはビクともせずに、虚しくも零次の拳を痛め続けるだけだった。

同時に零次に激しい頭痛が襲い掛かり、思わず膝をついて倒れかける。

やはり体の負荷は想像以上にかかっているようだが、それでも零次は立ち上がろうと歯を食いしばる。


「ククッ、実に無様だな君は。 一度この僕に逆らっておきながらも、まだ学習していなかったとはね。

いいかい、君のような人を世間ではバカ野郎って言うんだよ」


「俺は、俺はまだ負けていねぇっ!」


零次は怒鳴り散らしながら、気合と根性で立ち上がった。

だが、既に息も上がっていてとてもじゃないが戦闘を継続できるようには見えない。


「やれやれ、どうやら一撃でも受けないと気が済まないようだね……それじゃ、遠慮なくやらせてもらおうかな」


メティスはビームソードを片手に握りしめて、ゆっくりと振り上げる。

その瞬間、零次はブーツを青白く光らせて懐へ向けて飛び込んだ。

ガァァンッ! 激しい金属音と共に、零次はビームソードで激しく地面へと叩き付けられる。

ミシミシッとボディパーツにヒビが入るが、零次は片膝で立ち、必死で起き上がろうとする。

すると不意に頭がグイッと持ち上げられた。


「どうだい、君は今の一撃でこのザマさ。 まだ抵抗するっていうなら、相手してあげるけど?」


「ケッ……テメェこそ、もう勝った気でいやがんのか――」


零次がそう吐き捨てると、不意に視点が反転し、ダァンッ! と激しく地面に叩き付けられる。

だが、まだ立ち上がろうと零次はフラつきながらも、上半身を起こしていた。


『やめてください……もう、やめてくださいっ!』


突如、頭上からエフィーナの悲鳴に近い声が響き渡る。

零次は頭上を見上げて、モニターに映るエフィーナと目を合わせる。

エフィーナは目尻に涙を浮かべて、目を真っ赤にさせていた。


『もう、頑張らないでください。 これ以上、零次が傷つく必要は……ないですよ』


「バカ言うんじゃねぇよ……俺が何の為にここに来たのか、わかってんのか?」


『私なら平気です、一人で大丈夫です。 私は今までずっと、一人でいましたから。

だから、零次が無理する必要はないんです、傷つく必要は……ないのですよ』


「一人で平気だぁ? 嘘つくんじゃねぇよっ! だったら今すぐここで笑って見せろよ、お前のいつもの笑顔を俺に見せろっ!」


零次が力の限り声を絞り出すと、エフィーナは困惑の表情を浮かべながら、無理やり笑顔を作って見せる。

しかし、目からはボロボロと涙が零れ続け、笑顔は数秒と持たずにエフィーナは顔をクシャクシャにしていった。


「ほら見ろ、笑えねぇじゃねぇか。 強がってんじゃねぇよ……俺とお前はパートナーだろうが。

パートナーはな、お互いに助け合っていかなきゃならねぇんだよ。

お互いの足りない部分をカバーし合って、どちらかが苦しければ手を差し伸べてやるもんなんだよ」


零次は必死で立ち上がりながら、エフィーナに訴え続ける。

何もかもを一人で背負いこみ、一人で解決して消え去ろうとしたエフィーナに、伝えなければならない。


「答えてくれ、エフィーナ。 お前は俺を必要としているか? 俺は、お前を必要としている。

お前がいなきゃ、大会で優勝する意味なんてねぇんだっ! お前が作り上げた『ゼロ=リターナ』は、本当に最高だぜ。

俺はこいつのおかげで、もっと高みを目指す事が出来ると確信したんだ。

たった一か月近くだけど、お前と一緒にいた日々は楽しかったぜ。 お前は、どうだったんだ?」


『……私、は――』


ガァンッ! 突如、零次の腹部に激しい激痛が走る。

メティスが、拳で零次の腹部を思いっきり殴った瞬間だった。


「くだらない、実にくだらないよ君達は。 友情だとかパートナーだとか、そんなものを本気で信じちゃってるわけ?

ククッ、なら僕が教えてあげるよ。 いいかい、世の中は全て『力』なのさっ! 圧倒的な力は世界を動かす事でさえできる。

そう、僕にはそれだけの『力』があるんだよ……弱者同士が傷を舐め合って何が生まれるのさ? それで、君は一体何が出来る?」


「……ヘッ、テメェがみたいな陰険野郎にわかってたまるかよっ!」


ガンッ! 不意に零次はメティスから頬を強く殴られると、ガタンとその場で倒れる。


『零次、やめてください……私の為に、そこまでしなくてもいいんです。

これ以上、零次が傷つく姿は見たくないんです……だから、もう戦わないでくださいっ!』


「ここで諦めたら、お前はどうする気なんだよっ!?」


零次は必死で上半身を起こしながら、天に向かって吠えるかのように叫んだ。


「やれやれ、君も頑固だね。 せっかく彼女が君の命を助けようと必死なのにさ。

もういいよ、こんなくだらないデュエルいい加減終わらせたいしね」


「テメェは引っ込んでろっ!」


懲りずに零次はメティスに拳を打ちこむが、何度やっても結果は変わらない。

目に見えない壁がどうしても拳の行く手を阻み、止まってしまう。

すると、不意に腹部に激しい衝撃が走る。 メティスが勢いよく零次の腹部を蹴り飛ばすと、激しい嘔吐感に襲われて零次はその場で膝をつき、倒れた。


『零次……零次っ!』


「……エフィーナ」


『……やっぱり、ダメです。 とにかく今は、戦いを――』


「聞けっ!!」


零次が再び立ち上がり叫ぶと、エフィーナは思わず体をビクッとさせて黙り込んだ。


「来いよ……」


『え?』


「俺と共に、来いっ!」


零次は上空のエフィーナが映されたモニターに向けて、力いっぱい手を伸ばしてそう叫んだ。


「俺にはお前が必要だ、またお前にちょっかい出しながらデュエルサイバーズの試合を見たり、お前の小難しいプログラムの話を聞いたり、一緒に喫茶店行ったりしてぇんだよっ! だから来いよ、俺の元へ戻って来いよっ!」


零次が力強くエフィーナに向かって叫んだ瞬間、ロプト=マキーナの真っ赤に変色しきったビームソードが襲い掛かる。

零次は瞬時に右へと飛び込むと、周囲一帯は凄まじい爆発に飲み込まれ、視界が一気に煙に包まれて何も見えなくなった。


『……零次は、本当に私を必要と、してくれるのですか?』


爆音が鳴り響き、煙で視界が奪われる中でもエフィーナの声だけは鮮明に聞こえてくる。

メティスがすぐに仕掛けてくるかもしれない。 だが、それでも零次は叫んだ。


「そうだ、だからお前も俺を必要としてくれ、信じてくれっ!

俺が絶対に、あのキザッたらしいクソ野郎をぶちのめしてやるからよぉぉっ!」


その直後、メティスは背後から零次の頭を掴むと、鉄仮面から素顔を見せてニヤついた。


「やれやれ、くだらない茶番劇もそこまでにしなよ。 君が何をしようが、この僕に敵うはずないだろう? お遊びも、ここまでだよ」

「ヘッ、好きなだけやってみろよ。 後で倍以上にして返してやっからよ――」


零次がそう吐き捨てた直後、零次は凄まじい勢いで顔面を地面に叩き付けられる。 メティスは零次の後頭部を踏み付けて、奇妙な笑い声を上げ始める。


「イヒヒッ! 雑魚が、ゴミ虫がっ! 弱い癖にこの僕に逆らうなっ! 死ね、死ねよっ! ハハハッ、死んでしまえっ!

僕は君みたいなゴミクズが一番大嫌いなんだっ!!」


メティスは何度も、何度も零次の顔を踏み付け続ける。

映像越しでその光景を見ていたエフィーナは、とてもじゃないが直視できなかった。

だが、零次は例え蹴られようが、踏み付けられようが何をしようが、両手を震わせて上半身を力いっぱい起こした。

零次は戦う事を、やめなかった。 例え打つ手がないとわかっていても、何処かに反撃のチャンスがあるはずだと信じて。

ボディーパーツもボロボロで今にも崩れそうだが、まだ崩壊にまでは至っていない。

身体はボロボロであっても、零次はまだ戦える状況にあるのだ。

だから、この体が動く限り……一片たりとも諦めようとは、考えなかった。


『――零次っ!』


その時、エフィーナが今までにない力強い声で零次の名を叫んだ。

零次は顔を見上げると、そこにはボロボロと涙を流したエフィーナが映し出されていた。

クシャクシャになった顔を白衣の袖で拭い去り、大きく息を吸う。 すると、キッと力強い目で零次と目を合わせた。


『―――私も、私も零次とずっと一緒にいたいですっ!』


ようやく待ち望んだ言葉を聞くことが出来て、零次は思わず顔をにやけさせる。

すると立ち上がって、メティスから距離を取った。


「なら、二人でこいつを……ぶちのめしてやろうぜっ!!」


『……わかりました。 私、もう迷いませんっ!』


煙でモニターは既に見えないが、エフィーナが今、固い決意を示している事だけは伝わった。

これまで俯いたまま、何処か迷った様子を見せていたエフィーナではあるが、もう迷いを断ち切ったのだろう。

プログラムに疎い零次には、もはや『ロプト=マキーナ』の持つ絶対領域を突破する術は何も思いつかなかった。

しかし、エフィーナならどうだろうか? 天才プログラマーである彼女なら、絶対領域の仕組みを理解できるのでは?

エフィーナなら、『ロプト=マキーナ』を攻略できる術を、きっと導いてくれるはずだ、と零次は確信していた。


「無駄だよ、何度やっても結果は同じさ。 だから、すぐに終わらせてあげるよっ!」


メティスは巨大なビームソードを真っ赤に光らせ、天高く掲げ始める。

零次は身構えたまま、背後をしきりに警戒しつつメティスの様子を伺った。


『零次、あの絶対領域は恐らくありとあらゆるダメージを無効化にしています、なので普通の方法ではどうやっても破壊する事は出来ないと思います』


「なら、どうすりゃいい?」


『零次……3分、いえ1分でいいですっ! 何とかメティスの攻撃を凌いでくださいっ!』


「なんだ、何か策でも思いついたのかっ!?」


『とにかく、今は言う通りにしてくださいっ!』


「ああ、わかった。 とりあえず、避けてりゃいいんだなっ!?」


零次がエフィーナにそう返すと、メティスがふと目の前から姿を消す。

今までのパターンから察するに、背後へ回っているはずだと零次は即座に振り返ると、メティスは既にビームソードを振り下ろそうとする寸前だった。

光が最高潮に達していることを確認すると、零次は全力で左へと飛び込み、間一髪で爆発を逃れる。

しかし、メティスはそこで留まらず、零次が飛び込んだ隙を狙って背後へと瞬間移動(テレポート)していた。

咄嗟に零次はステップを踏みつつ、メティスの振り上げたビームソードの下へ潜り込むように、ヘッドスライディングで突っ込んだ。

その瞬間、メティスが再度姿を消すと、次は頭上からビームソードを下に向け、凄まじい速度で降下して来る。

何とか体を転がし、間一髪のタイミングで一撃を避けると、ガァァンッ! と激しい音共に地形オブジェクトには亀裂が走り、地面が砕けた。


「どうしたんだい、この僕を倒すんだろう? 逃げてばかりでは、何も始まらないよ?」


「テメェこそどうした? 瀕死の俺に手こずってるようじゃ最強には程遠いなっ!」


「なら、次で決めてあげるよ」


「ああ、来いよっ!」


零次が構えると同時に、メティスがビームソードを天に掲げると再び刃は真っ赤に変色していく。

恐らく再び爆発を仕掛けてくるのだろうと警戒をするが、その時ふと……メティスの周囲が一瞬だけ歪んだように見えた。

何だ? と一瞬だけ気を取られた零次は、その僅かな隙を突かれて、瞬間移動(テレポート)をされてしまう。

その瞬間、背後から凄まじい爆発が引き起こされた。

零次は何とか瞬間加速で飛び込むが、爆発から完全に逃れる事が出来ずに爆風で吹き飛ばされてしまった。


『今です、零次っ!』


突如、エフィーナの力強い声を耳にすると、零次は即座に起き上がって身構える。

爆風で姿が見えないが、メティスはもう一撃仕掛けてくるはずだ。 零次もほぼ同時に悟った反撃チャンスにエフィーナも気づいたようだが、今更それを告げて何になるというのか?

だが、零次はただエフィーナの言葉を信じ、背後へ振り返って拳を力任せに振るう。

背後ではメティスがビームソードを振り下ろす直前だった。


「うおおぉぉぉっ!」


獣のように吠え、零次の拳は一直線に勢いよく突き進む。

何度も何度も届かなかった拳を、メティスの鉄仮面に目掛けて全力で放った。

ガキィィィンッ! 凄まじい金属音と共に、メティスの鉄仮面が吹き飛ばされ、砕け散った。

メティスは2秒ほど宙を舞い、やがてその黒い巨体はガシャンッと地上へ叩き付けられた。


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