第1話 誕生、「ゼロ=リターナ」 ①
巨大な木々に囲まれた森の中、赤髪の少年が一本の木に身を隠していた。
少しだけ逆立っている短髪に額から後頭部に装着された黒いヘッドギア、真っ赤な鎧のような防具に両手には黒いナックルを装着している。
少年は木に身を隠したまま、しきりに背後を気にしていた。
ババババッ! 突如、銃声が鳴り響くと少年は地を強く踏みつける。
すると真っ赤な機械仕掛けのブーツが青白く輝き始める。
光が最高潮に達したその瞬間、勢いよく地面を蹴飛ばすと、周囲から激しい風圧が発生し、
少年は目にも留まらぬ速度で一直線に飛んで行った。
「チッ、こんな場所じゃ戦いにくいったらありゃしねぇっ!」
長い跳躍を終えてようやく着地したところ、少年は誰も聞いていない文句を吐き捨てた。
「逃がさないわっ!」
バギィンッ! と鈍い音と共にいくつもの木々が真っ二つにされると、二本のサーベルを持った少女が姿を現した。
少年と似たような恰好をしているが、その姿は所々異なる。
しなやかな身体のラインがはっきりと見える程密着した白いスーツに青い防具を身に纏っている。
頭には少年と同じ形式のヘッドギアを装着しており、腰まで届くアクアブルーの長い髪をゴムで纏めていた。
両手には刀身が長いサーベルを持っており、青い柄には銃のトリガーのようなものが取り付けられている。
先程の一撃はそのサーベルによるものだろう。
相変わらずの切れ味に驚かされていると、少女は剣を握りしめたまま、少年へ向かって飛び込んできた。
「へぇ、わざわざ俺の距離で戦ってくれるのか?」
ニヤリと笑みを浮かべ、少年は地を強く踏みしめて身構えた。
すると少女のサーベル先から妙な青白い光が発せられている事に気づく。
その瞬間、バァンッ! と銃声が鳴り響き、少女のサーベル先から青き一閃が解き放たれた。
「うおぁっ!?」
間一髪でステップを踏んだ少年は、放たれた青いレーザーを辛うじて避けきった。
しかし、少女の攻撃はそれだけに留まらず、少年の回避動作の隙に目の前まで間合いを詰めてくる。
「追いかけっこは終わりよ」
「俺がいつまでも逃げてばかりいるかっつーのっ!」
少年は地を強く踏みしめると、再びブーツが青白く輝き始める。
その間、少女はサーベルで横一線を描く。
少年は咄嗟にしゃがみこんで、間一髪でサーベルを交わした。
少年の狙い通り、モーションを出し切った少女には僅かな隙が生じた。
その機を逃すまいと少年は飛び込んで、アッパーを決めようとする。
だが、それを悟っていた少女は身を引き、サーベルをクロスに構えた。
「うお、ヤッベ――」
「遅いのよっ!」
ガァンッ! 少女が繰り出してきたサーベルの一撃を、少年は両手で受け止めた。
ミシッと両手のナックルにヒビが入るが、まだ辛うじて形を留めている。
次こそはともう一度地を強く踏みしめたが、少女は下がって少年にサーベルを向ける。
この間合いでは不利だと瞬時に判断し、少年はステップを踏みながら、一気に少女との間合いを詰めていく。
すると少女は更に後ろへ下がり、トリガーを引くと剣先から機関銃のように青い光の弾が乱射された。
「どうした、そんなもんで俺は止まらねぇぞっ!」
刹那、少年はサイドステップで銃弾を回避し、あっという間に距離を詰めていく。
右手を強く握りしめ、殴りかかろうとすると、少女はサーベルを振り下ろす。
直前に左腕で一撃を受け止めると、少年の左腕の防具が一瞬にして砕け散った。
だが、少年は怯むことなく、地を強く踏みつけ機械仕掛けのブーツを光らせる。
少女も両手のサーベルをクロスさせると、刃から青白い輝きを放ち始めた。
「「もらったぁっ!」」
二人の声がほぼ同時にあげられ、少年は右手を突き出し、少女の懐へと飛び込んだ。
だが、少女の一撃は少年よりも僅かに早く、二本のサーベルは少年の右手ナックルを捉え、激しく衝突する。
鈍い音が響き渡ると、少年のナックルは一瞬にして砕け散ってしまった。
まだ左手が残されていると、今度は左拳を強く握りしめると白い輝きが放たれ、力いっぱい振りかぶった。
しかし、少女は既にサーベルをクロスに構えて、少年の懐へと飛び込んでいた。
「マジかよっ!?」
バギィィィンッ!サーベルが華麗なX字を描くと、少年の体は吹き飛ばされた。
宙に浮いたまま自由を奪われた状態に、少女は更なる追撃をしようと両手のサーベルを合わせて、少年へと向ける。
直後、サーベルの先端から青い光が集い始めた。
少年は吹き飛ばされながらもそれを受け止めようと両手で胸の辺りを防御した直後――
ガァンッ! と、大木に背中を打ちつけ、衝撃で構えが崩れてしまった。
刹那、少女の持つサーベルの先端から、容赦なく青き閃光が少年に向けて発射される。
光は少年のボロボロになった防具を貫き、その下に隠されていた赤い宝石のようなものに直撃した。
バリィィンと、赤い宝石が砕け散ると、少年は力なく倒れた。
突如少年の視界は真っ青になり、目の前に「YOU LOSE……」という文字が浮かび上がった。
やがて、周囲の森の景色は姿を消していき、視界に広がる光景がフェードアウトしていった。
「おいおいおいおい、マジかよっ!?」
ガバッと頭部に身に着けていた装置を外し、先程の赤髪の少年は頭を掻きむしった。
少年の周りは先程の森ではなく、コックピットのような装置の中に変わっていた。
目の前の端末を操作し、装置のセーフティーを解除するとカチッと鍵が開く音がした
それを確認すると少年は飛び出すかのように外へと出ていく。
そこには不敵な笑みを浮かべたアクアブルーの長い髪の少女が待ち構えていた。
「勝負は私の勝ちね。 ま、当然の結果かしら?」
「クッソ、後ちょっとでデケェ一撃をかませたってのによ」
二人は今、世間で注目を浴びているVR装置を利用した『デュエルサイバーズ』というゲームをプレイしていた。
ここ数十年間でVR技術が急遽発展していく中、十年前にVR史上初の対戦型ゲームをC.R.S社が開発し、
世界中で爆発的な大ヒットを叩き出した。
C.R.S社とは世界で初めてVR技術を実現させ、新たな技術革新を引き起こした会社である。
正式名称はCyberRevolutionSystemsという。
デュエルサイバーズは単なるゲームという一言では片づけられない仕様となっていた。
VR上ではプレイヤー自身の身体能力や健康状態とありとあらゆる要素がリアルに反映される為、
単なるゲームの領域を超えて一種のスポーツとして認められている。
今ではオリンピックの正式種目になるほどの人気だ。
少年の名は『桜庭零次』。
都立新宿VR技術専門高等学校の二学年生であり、都内でも有数のデュエルサイバーズの専門コースを取り扱う高校に入学した。
昔からケンカばかりをしていた問題児であったが、デュエルサイバーズが世に出回ってからはゲーム内で堂々とケンカが行えると知り、今ではすっかり選手として活躍していた。
元々運動神経が良かった事もあり、今ではハイレベルなサイバーズが集まる学園内でも名高い一人としてあげられるほどだ。
ちなみにサイバーズとはデュエルサイバーズのプレイヤーを指す言葉である。
デュエルサイバーズの特徴は、VR技術を生かしたリアリティの高い戦闘だけではない。
逆にVRという仮想空間を利用した現実的にはあり得ない戦いを行えることが最大の特徴とも言える。
それを可能としたシステムが『アバターリンク』と呼ばれる仕組みだ。
通常VR空間では、現実の自分を装置により電子化させ、VR上に自分の分身『アバター』を作り上げて、
そのアバターの五感をリアルに認識させることにより、あたかも仮想の世界に入り込んだかのような感覚を得られることが出来る。
しかし、それだけだと現実世界の自分をリアルに再現しているだけに過ぎず、このまま格闘ゲームを行ったとしても、一般人はどうやってもプロの格闘家に勝つことが出来ない。
そこで身体的差を埋める為に編み出された仕組みが『アバターリンク』である。
それはアバターに専用のパーツを装着させ、自分自身を強化させる仕組みの事である。
例えば自分の体を保護する為に強靭な防具を身に着けたり、非力な人でも扱えるような剣を持たせたりと、武器から防具まで自分の好きなように組み合わせることが出来る。
こうして自分好みに作り上げたアバターを、VR空間で意のままに操る事が可能なのだ。
更に、この『アバターリンク』にて設定したパーツは全て、ユーザによって独自のカスタマイズを加えることが可能になっている。
専用のプログラミング言語を用いて、決められた制約内で自分が好きなようにアバターパーツを改修する事ができるのだ。
おまけに外観までも自分が好きなように設定する事が可能であり、自身の見た目は勿論の事、性能から何までサイバーズの個性が一番現れる要素となっている。
アバターパーツは数百を超える種類が市販されており、サイバーズはその中から自分の使いたいパーツを取捨選択できる。
これにより中世の騎士から侍や忍者、近未来の武装から何までと、組み合わせ次第でさまざまな味を出せる事が、世界中に注目を浴びて爆発的なヒットを遂げた理由となるだろう。 中にはアバターのカスタマイズだけを楽しむ者も決して少なくはない。
だが、零次は純粋なケンカを楽しむ為に豊富な武器の選択肢をあえて『拳』だけに絞り込んだデュエルサイバーズでは珍しい純粋な格闘型タイプを使用していた。
純粋が格闘型な故に不得意な相手は多いが、それを補えるほどの機動性とパワーを誇っている。
そして今、零次の目の前にいる少女の名は『如月 サヤ』、一言で表せば零次とはライバル関係にあたる。
今日も放課後を利用して二人は、デュエルサイバーズで対戦を楽しんでいたところだった。
「大体アンタおかしいのよ、どうしてあんな滅茶苦茶なプログラムで私と対等に戦えるのよ?」
「うるせーな、プログラムがどうとか関係ねぇだろ。 男ならハンデ背負って戦うってもんだ」
「関係あるわよっ! 全くもう……そんなの私に勝ってから言いなさいよね。 少しはプログラムを勉強してインスタンス化の時間を短縮しようだとか思わないわけ? 今日だってそのせいで私が有利に戦闘を進められたじゃない」
「いいんだよ、プログラムを覚えるぐらいだったら俺は俺自身の腕を磨くっ! 今のところ五分五分だったけど負け越しちまったなぁ、次回は絶対勝たせてもらうぜ」
「うー悔しいっ! どうしてアンタと私が互角なのよっ! 納得がいかないわっ!」
サヤの言う通り、零次はプログラムについては全くと言っていいほど知識がなく、デュエルサイバーズを始めたばかりの頃に適当に組んだプログラムを今でもほとんど手を加えずに使用していた。
ある程度までなら、プレイヤースキルで性能差を埋められるというのが彼の持論であり、事実サヤとの戦いにおいてそれは証明されていると言えるだろう。
しかしサヤはそんな零次と自分の実力が対等なのが気に入らないらしく、毎度口癖のように零次に言い聞かせるが無駄に終わっていた。
「そうだ零次、ちょっと付き合いなさいよ」
「ん? 何だよ」
「駅前の喫茶店に新しいスイーツメニューが出たみたいなのよ。 本当は友達と行く予定だったんだけど、用事が出来ちゃったみたいでさ。 どーせアンタ暇でしょ、私が誘ってあげたんだから断るはずないわよね?」
「悪いがパスだ、今日は猛特訓だ! お前に負けっぱなしってのも悔しいしな、んじゃなっ!」
「あ、ちょっと零次っ!?」
素っ頓狂な声を上げたサヤを素通りし、零次はVR室を飛び出していく。
「待ちなさいよ、敗者は勝者の言う事を聞くものよっ!?」
「うるせーな、行きたきゃ一人で行ってろっ!」
サヤの怒鳴り声に耳を塞ぎながら、零次は逃げるようにその場を走り去った。
しばらく廊下を走り終えた後、背後からサヤが追って来ない事を確認すると零次はふぅ、と一息ついた。
今日の戦いを振り返ると、確かにサヤの言う事は一理あった。
現状の零次のアバターではありとあらゆる動作にどうしても処理遅延が生じてしまう。
特に零次の生命線とも言える『瞬間加速』は、ブーツにエネルギーを蓄積させ一気に移動するという能力であるが、
先程のサヤとの戦いではその隙を突かれたことが敗因となった。
アバターに備えられたプログラムをVR空間に実体化する事を『インスタンス化』と言うのだが、このインスタンス化の遅延が発生してしまうのである。
そのため、以前から似たようなケースで負ける事は多かった。
今までは零次自身の腕でカバーは出来ていたが、最近のサヤのアバターはプログラムの改良に成功したのか、
以前に比べて明らかに隙がなくなってきていたし、そろそろ限界が近いというのは感じ取っていた。
やはり上を目指すのであればアバターのプログラミングは必須。
その事を考えると零次は思わずため息をついた。
「こりゃ真面目にプログラムを勉強しなきゃならねぇ時が来ちまったかなぁ」
頭をボリボリとかきむしりながら、零次はため息を交えて呟いた。
一旦家に帰ってプログラムの勉強でもするかと覚悟を決めたところ、ふと昇降口付近で複数人の男子生徒が群がっているのが目に留まる。
一人一人学校指定のブレザーの前ボタンを全部外し、Yシャツも第2ボタンまで全開、おまけにシャツも丸出しときた。
明らかに柄の悪そうな奴らが何をしているんだろうと、零次は興味本位に様子を伺った。
「おいテメェ、今自分が口にした事わかってんのか? あぁん?」
「え、え? あ、あの……」
「いくらテメェが女だっつっても容赦するつもりはねぇぞコラ」
「わ、私はその……えっと」
「オラ、何とか言ったらどうだコラァッ!」
「ひっ……ご、ごごごごごめんなさい、その、えっと――」
覗いてみたら、男子生徒が取り囲んでいたのは小学生かと思えるほどの小柄な女の子だった。
しかし、一応学校指定のブレザーを着ている事から少なくとも同じ学園の生徒らしい。
深緑のセミロングに猫のような金色の瞳。 目尻に涙を浮かべながら、小動物のように体を縮めてビクビクしている。
相手の人数は三人。ケンカ慣れした零次にとってはハンデにすらならないが、こんな小さな女の子だ。
複数の男子生徒に囲まれれば当然、怖いに決まっているだろう。
デュエルサイバーズを始めてからは暴力沙汰は自重していたのだが、こればかりは見過ごせないだろうと零次は迷うことなく不良の元へ向かう。
「よお、男が女の子に寄ってたかって何してんだぁ? もしかして、この子のファンかい?」
零次は男子生徒の間に割り込むように、わざとらしく肩を組んで語りかけた。
「ああん? 何だテメェは……やんのかコラ?」
「おいちょっと待て、こいつ2学年の桜庭じゃねぇか?」
「桜庭だぁ? ああ、デュエルなんちゃらってゲームではそこそこ有名らしいな」
「へぇ、俺を知ってるの? さっすが俺だぜ、学園内では有名人ってか?」
「気をつけろよ、こいつゲーム内じゃ無茶苦茶強いって評判で――」
「所詮ゲームだけの話だろ? ヘヘッ、リアルファイトはどうなんだろうな桜庭君よぉっ!」
「お、おい待て――」
不良の一人が右拳を振りかぶってくるが、零次はあっさりと片手でそれを受け止める。
「先に手を出したのは、テメェだからな? 覚悟は出来てんだろうな?」
「ちょ、調子に乗るんじゃねぇっ!」
不良は懲りていないのか、もう一度、今度は左の拳で殴り掛かってくるが、零次はこれも難なくかわし、スキだらけの脇腹目掛けて自らの拳を叩き込む。
ドスッと鈍い音が響くと、不良はたまらず意識を失い零次に倒れこんできた。
「どうすんだ、テメェらも俺と戦るか?」
「ほ、ほら見ろ言わんこっちゃねぇっ!」
「チッ、テメェ覚えてろよっ!」
不良達はそれぞれ捨て台詞を吐き、情けない走り方で逃げるように去っていった。
仲間を置いて逃げるなよ、と呆れつつ、気絶した不良をその辺りに放り出す。
するとその様子を先程の女の子がポカーンと口を開けて眺めていた。
「おい、大丈夫か? 変な奴らに絡まれて災難だったな」
「え? は、はい」
大きな瞳をパチクリさせながら、少女は小声で返事を返した。
「どうした、歩けるか?」
「は、ははははいっ! あ、あああ歩けますっ!」
どうも少女の様子がぎこちない。 目を合わせようとすると意図的に避けられ、心配になって手を差し伸べようとすると小さな体を仰け反らせて後退りする。
一歩踏み込んでみたら体をビクッとさせて目を瞑った。 ……もしかしなくても、怖がられているようだ。
「ま、俺はもう行くわ。 お前もあんまり長居すんじゃねぇぞ、こんなところで生徒がのびてたら間違いなく騒がられるからな。 ったく、あいつらも片づけてくれりゃいいのによぉ」
零次はそれだけ告げると、スタスタと昇降口へと向かって歩き出す。
すると不意に、ギュッと後ろから制服を引っ張られた。
「うおぁっ!? な、なんだ?」
素っ頓狂な声を上げて振り返ると、先程の少女が顔を俯かせたまま小さな手で零次の服を引っ張っていた。
一体何だというのだろうかと、零次は頭をボリボリとかいた。
「あ、あの……あ、ありがとう……ございました」
「あ、ああ。 いいってことよ、そんな大したことはしてねぇし」
単純に人見知りが激しいのか、少女は目を逸らして顔を真っ赤にしながらお礼を告げた。
たかがお礼一つ告げる為に引き止めたというのか、健気な少女だなーと零次は感心する。
「んじゃ、気をつけろよ」
もうこれ以上用事はないだろうと、零次は再び昇降口へ足を進もうとすると、先程よりも強い力で制服が引っ張られた。
「うおぉっ!?」
完全に不意をつかれ、危うくバランスを崩し転びそうになるが、そこはサイバーズとして確かな力量のある零次だ。
持ち前の運動神経を活かし、醜態を晒す事態は避けられた。
少女は申し訳なさそうな表情で零次を見つめていた。
「何だよ、まだ俺に用事があるのか?」
思わず力んで叫びたくなるほどだったが、あんな気の弱い少女に怒鳴ってしまっては先程の不良と大差はない。
怒鳴りたい気持ちを抑えつつも、零次は少女に向かって尋ねた。
「あの……私、好きなんです」
「ハァッ!?」
突如少女から飛び出た単語に、零次はまたも素っ頓狂な声を上げた。
いきなり何を言い出すのだろうかこの少女は、もしやこのタイミングでいきなり愛の告白をされたというのか?
流石の零次も混乱して思わず言葉を失ってしまった。
「ご、ごめんなさい……でも、ずっと見てました」
「み、見ていたぁ?」
一体何処から見られていたというのか、少なくともこの少女とは同じ学年ではないし、外見だけ見れば恐らく1学年のはずだ。
とは言えどこんな小さな女の子と一緒に並んでいたらサヤから何と言われるのやら、下手すればロリコン扱いされてもおかしくはない。
しかし相手も勇気を振り絞ったはずだと思考をフル回転させていると……
「は、はいっ! 私、桜庭さんの大ファンなんですっ! 今日の中継も見ましたよ、惜しくも負けちゃいましたけど今日の戦い方も凄く素敵でしたっ!」
「た、戦い? あ、ああっ! なるほどなるほど、そう言う事かっ!」
「ど、どうしたんですか?」
「い、いや何でもねぇ。 お前サイバーズなのか?」
自分がしてしまった恥ずかしい勘違いを悟られまいと、零次は何とか誤魔化した。
それにしても、あまりにも紛らわしい言い方すぎる。
男なら誰でも勘違いするはずだと自分の失態を正当化した。
もしこの場にサヤがいたら、当分の間はネタにされていただろう。
「い、いえ。 私はその、運動が苦手なので……」
「へぇー、いつも試合とか見てんの?」
「はいっ! デュエルサイバーズの試合って見てるだけでも凄く楽しめるから大好きなんです。 特に桜庭さんって純粋な格闘タイプですよね?
それなのに多彩な手段で相手との距離を詰めたり、不利な相手でも自分の有利な場を作り上げて戦っていく姿とか見て思わず大ファンになっちゃったんですっ!
いつか桜庭さんに挨拶したいって思ってたんですけれど、私って知らない人と話すのが苦手で……
そこで今日偶然桜庭さんに助けてもらったからえっと、その……」
まさか本当にファンの類と出会うとは想像もしていなかった。
あんなに大人しかった少女がここまで熱心に語るというのは、よほどデュエルサイバーズが好きなのだろう。
それなのにデュエルをしないとは少し勿体なくは感じるが、その小さな体では仕方ないのだろうと納得する。
「ヘヘッ、そこまで言われちまうと照れちまうな」
「でも事実しか言ってませんよ。 あ、そうだっ! よ、よかったらその……桜庭さんのアバターソース見せてもらっていいですか? わ、ワガママ言ってすみません……で、でも桜庭さんがどんなプログラムを組んでるか前からずっと気になってたんです」
「あ、ああ。 ま、まぁいいけどよ」
プログラムと言う単語を耳にして、零次は思わず苦笑いをした。
プログラムのソースなんて最初に始めて以来全く目にしていないし、自分でもどんなのを組んだのか全く覚えていない程だ。
少女が目をキラキラと輝かせているのを見ると、零次は何だか申し訳ない気持ちで溢れてきた。
「あ、ありがとうございますっ! 早速デバッグルームに行きましょうっ!」
「ああ。 そうだ、お前の名前は?」
「は、はい。1学年の エフィーナ・F・リターニャですっ!」
「エフィーナ? もしかして留学生か?」
「そうです、でも日本語バッチリなので大丈夫ですよ」
普通に日本語をペラペラと喋るので思わず同じ日本人と思っていたが、違ったようだ。
「私の事はエフィーナって呼んで頂いていいですよ」
「んじゃそうさせてもらうわ。 お前も俺の事は零次で構わねぇからな」
「わ、わかりました零次さんっ!」
「後、呼び捨てでかまわねぇぞ」
「は、はいっ! わかりました……え、えっと、零次さんっ!」
「わかってねぇじゃねぇかっ!」
「ご、ごめんなさい零次、さん……」
「……ま、まぁそのままでいいや。 気にするなよ」
零次はエフィーナが自分のアバタープログラムを見た瞬間どんな反応をするだろうかと想像してみた。
きっとサヤのような反応をするんだろうなと想像をしながら、零次はエフィーナと一緒にデバッグルームへと向かって歩き出した。