よろしく勇者!
白い輝きの爆発と共に、その場に降り立つひとつの影が有った。
その輝きに一瞬視界を奪われた四人の冒険者達の前、“迷宮”へと繋がる”門”のある広間の空間にアキラは降り立った。
再びこの場所へと戻ってきたのだ。
「お!? うわおっ!」
「行って……帰ってきたのかしら?」
「ご無事のお戻りを嬉しく思います。勇者様」
「ほえっ!? おおう……なんですか?! メイドさんですか!? メイドさんですよう!!」
三者三様ならぬ、四者四様の驚きの声を口にする冒険者達に、ただいまです! と元気に返したアキラは、いまだその場に降臨する“調停神”に向けて顔を上げた。
「女神様もありがとうございました! “勇者”アキラ! 只今参上!! です」
《いえ、むしろお礼の言葉を口にしなければならないのは、此方の方でしょう……改めまして“勇者”アキラ殿、この“迷宮世界”そしてそれら全てを含む世界“マナステラ”へようこそ》
燐とした女神の声が、彼女の声に応える。
「マナステラ……それがこの世界全てを現す名前なんですか?」
《そうです。最も名付け親は“最初の勇者”でしたが、『固有名詞が無いとややこしい』と言って、その呼び名をつけました。彼の故郷の言葉から取ったと言っていましたね。歴代の勇者の残した言葉というものも、いくつかこの世界には残っています》
その言葉にどこか懐かしさを覚えたのか、怜悧な女神の表情に微かな笑みのようなものが漏れた。
《話を戻しましょう……では“勇者”アキラ殿、貴方の旅路に幸いあれ、そして再び運命の輪が重なりし時に、またお会いしましょう》
「はい! 女神様もお元気で! がんばってー!!」
彼女の言葉に、今度は先程よりも濃い笑みを残して、調停神の姿が消えていく。
そんな彼女と迷宮世界を統べる女神との、あまりといえばあんまりなやりとりに、目の前の四人の冒険者達は、半ば呆然と見守るのみだ。
「あの? すみません、皆さん大丈夫ですか?」
「あー……なんだね、なんというか、なんていったらいいのか、ええいクソっ! レンカ! 頼んだ!!」
「そこでなぜ私に振りますのっ!?」
そんな感じに未だ混乱から抜けきれない彼女達に、アキラはにっこりと笑って語りかけた。
「あの、それでちょっとお願いがあるんですが」
「ん?」「あら?」「はい?」「ほえ?」四者四様の疑問の声があがる。
「わたしを、皆さんのパーティに加えていただけませんか? 見習いでもなんでもいいですから!」
そんな勇者の申し出に、冒険者達は再度言葉を失った。
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「まあ、なら大体の知識は仕入れた、ということですわね?」
「はい。とりあえず、神様達がわたしの頭の中にこっちで必要っぽい知識は入れてくれたみたいです……でも、まだどういう知識がどのタイミングで出てくるのかが良くわからないんです。例えるなら、頭の中に本棚があって、なにか知りたいことが出てきたら、そこから情報を引っ張ってくるというか」
「あ、それわかりやすいですねえ! なるほど、知識と実感が伴わないわけですね?」
そんな感じです、と応えるアキラに対し、冒険者達も肯きをもって返す。
アキラは、やっぱ最初は先輩プレイヤーのパーティに混ざってプレイヤースキル学ぶのが基本かな? という考えを浮かべていた。
今の自分は、例えるならゲームのルールやシステムは把握しているが、実際のプレイは初めてのいわゆる初心者プレイヤーだ。戦闘の方法や、実際の立ち回り、仲間との連携、一人での限界など、彼女が故郷でプレイしていたMMORPGを例にとっても、覚える事は沢山あるはずだ。アキラもゲームを始めた直後は世話好きな先輩プレイヤーにとても助けられた記憶がある。
だから、アキラは頼ってしまおうと思った。
勇者だからなんて変なプライドは無くして、できないことはちゃんと認めて早くできるようになろうと。
今は恩をもらって、そして早くそれを返せるようになろうと。
素直にそうすることが、神様達に”頼ってもいいですよ”なんてえらそうなことを言ってしまった自分の反省とけじめだと思った。
「まあ、確かに実戦も知らない奴が冒険に出ても碌な目にあいやしないねえ。しかし、あたし等で良いのかい? 言っちゃあなんだが、アンタは仮にも今代の“勇者”様だ、望めばもっと腕利きの連中だって仲間にしてくれと向こうから言ってくるさ」
「同感ですわね。もちろん、わたくし達も腕前に自信が無いわけではありませんが」
「あー……その辺も考えなかったこともないんですが、たぶん勇者って事を知られると大変なことになりますよね?」
彼女の言葉に、冒険者達は顔を見合わせ、
「なるね」「なりますわね」「なってしまいます」「むしろならないわけがないですよう!」
同じように口をそろえて肯定の意を返した。
アキラは予想通りの声に苦笑しつつ、
「正直、こんな初心者が勇者なんてどんな騒ぎに巻き込まれるかと、ぞっとしちゃいますよ……それと、ええと言い辛いんですが、知らない男の人と一緒に行動とかちょっと……」
そう言って年頃の少女らしく恥ずかしそうに言葉を濁すアキラに、全員が苦笑と共に首を縦に振って何度も肯いた。
「あー、確かにそうですよね。それなら確かにウチのパーティならぴったしですね!」
「正直、女性に不埒な真似を及ぶ方もいらっしゃいますから……」
「はは、確かにそりゃ不安だね。うん、あたしはいいんじゃないかと思うけどね。あんたらはどうだい?」
「むしろ光栄に思うくらいですわね」
ローザの問いに、まずレンカが賛成の言葉を返し、残りの二人も異議なしと続いた。
そんな冒険者達の言葉に、アキラの顔に喜びの色が浮かんでいく。
「じゃあ、まずは改めて自己紹介と行くかね。あたしはローザ・シュタインベルガー。クラスはグランドナイト。加護神は大地の女神ハーベ。一応このパーティのまとめ役をやらせてもらってるよ」
小柄なドワーフの騎士が差し出してきた手を、アキラは慌てて握り返す。
「わたくしはレンカ・ザハールカ。クラスはニンジャ。加護神は暴風神スサノオ様です。どうぞよろしくお願いしますわ」
褐色の肌のダークエルフの女性が、その手を上に加えてくる。
「アネット・バロー。クラスはスペルパンチャーで、加護神は天竜皇・バハムート様です。あの、いろいろとお話聞かせてほしいです!」
眼鏡を掛けたエルフの少女もその手を乗せてくる。
「シノ・ジーノウと申します。クラスはセレスティアルシャーマン。加護神は全神・ヤオヨロズです。このご縁に感謝いたします」
軽い祈りの言葉と共に、黒髪の巫女がその手をそっと添えるように置く。
「アキラ・ヒカゲ! クラスはメイドナイトで、加護神は神々の従者・メイディア様で……内緒ですけど、勇者やってます!」
アキラのそんな自己紹介に、他の四人はくすりと微笑むと言葉をそろえた。
「「「「よろしく!勇者!!」」」」
「はいっ!!」
重ねあった五つの手に誓うように、アキラの声が響き渡った。




