表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梵珠山に、神は眠らない ―八峰 遥の豪運―  作者: 菜乃花 薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

「梵珠山に、神は眠らない」8

記憶が途切れるのはなんとか阻止できたものの、

強い眠気を全て払うまでには至っていなかった。


―明日の胃が心配だけど、やるしかないわ


腹を決めて、もう1本の瓶を取り出して今度は少しずつ飲んでいく。

冷たければ目覚めが良くなるだろうが、

残念ながら2時間近くポケットに入れていたので結構人肌に近く、

温かいブラックミント味は非常に飲みづらかった。


代わりにあまりのまずさで少し目が覚めた気はするが。


―聞こえているなら、君の知りたいことを見せよう


そう言った声が、穴の方から聞こえてくる。


「落とし穴だったりしないわよね?」


怪異か夢かわからない相手に訊いてみる。

騙そうとしてたら律儀に事実を言うはずがないのに、

やっぱり思考が鈍くなってるのだろうか。


―先日、写真を撮っていった人は無事に帰れただろう?


「あなた、わざと撮らせたの?」


―それが君を呼び寄せるために必要だったからね


「ふぅ~ん。じゃあ火の玉もあなたなのかしら?」


―それ以前から、私は君を知っていたんだ


「え?ストーカーなの?」


―きちんと説明をしよう。穴の中に飛び降りてもらえるかな


「はぁ?

それこそ怪談で人を罠に落として殺す、悪い妖怪とか物の怪の使う手口じゃないの?

それだったらノーサンキューだわ。

眠気で判断も鈍ってるし。職場のみんなと出直してくるわ」


―だったら、こうしよう


除雪車が雪かきをするような振動が地面から伝わり、

見えていた穴が見る見るうちに崩れて広がっていく。


―通路を広げたから、中まで見えるはずだ。

 そこにある石を投げこんでみてご覧。


穴のふちに近づき覗き込むと、穴の底には金属とも石ともつかない

不思議な見た目の構造物が見える。


言われた通り石を投げこんでみた。


―君、確かに石だけど、随分と大きいのを投げ込んだね。


投げ込んだ一抱えもある石は、まるで重力を無視したように

機材搬入用の昇降機で降りていくような速度でゆっくりと下降していった。


「つまり、重力制御してるから飛び降りても安全、っていうことかしら?」


訊いておいてなんだが、重力制御?

一応学者の端っこにいるのに、この馬鹿っぽい返しはどうなのよ?

そもそも深い穴に飛び降りたら、重力制御だけじゃカバーできないじゃないの


どうやっても醒め切らない眠気のせいか、論理的思考もまともに出来やしない。


しかし、返ってきたのは予想外の内容だった。


―重力制御だけでなく、慣性制御も当然できている。

投げ込んだ石を、もう一度見てごらん


眠気がまだ醒めてないのか?

そう思う光景に、瞼を何度も擦ってからもう一度見直した。


……さっきの石、まだ落ちきってないのね


重力だけ制御したって落下の慣性は残る。

まだ浮いているということは慣性制御は嘘じゃないということ。


「安全だから、降りて来いってわけ?

あなたが姿を見せるほうが安心なんだけど、恥ずかしがり屋さんなのかしら?」


―私の身体は大きすぎてね、問題になりそうだから今は我慢してもらえるかな


「じゃあ、そのうち見せてもらえるかも、ってことね。

代わりに一つ、約束してもらえる?」


―なにを約束すればいいんだい?


「下に降りたら、あなたの正体と目的を包み隠さず教えること。

これができないなら、飛び降りるリスクなんて冒せないわ」


―どのみち君には知ってもらう必要があるからね、約束しよう


「じゃあ」


そう言って右手に観測機器を抱え、左手のデジカメを構え直す。

……一応画面には映ってるわね


「降りるから、途中で重力制御とか切らないでよ!」


穴のふちからぴょんと飛ぶ。


空けた目には、地面に立ったままの自分と変わらない目線で視界が開けていた。


足元を見ると、遠くに床らしきものと、先程投げ入れた石があった。


「さすがに遅すぎないかしら?」


―安全と精神的ショックに配慮しすぎたようだ。降下速度を上げよう


それでもエレベーター程度の速度で、ゆっくりと地上から立坑へと視界が変わっていく。

足元に目をやると、徐々に床が大きくなっていった。


まっすぐ降ろされすぎて、先に落とした石をまたいで立つしかなかった。


「落とした石くらい、避けておいて欲しかったわ」

仁王立ちのまま、文句を言っておく。


―配慮が足りなかったようだ。すまない


「まあ、こちらも大きな石を投げこんだから、おあいこかしら」


そう言いながら観測機器を下ろし、デジカメで周囲を撮る。


明らかに現代文明とは違う、

そして古代史に出てくるような石造りなどとも違う構造体、

その中にいることを改めて認識する。


結構広い部屋に見えるのに、継ぎ目がひとつもない上に電灯のような光源もない。

なのに、この深い穴の底に降りて来たのに、まるで快晴の空の下のような明るさ。


重力や慣性を操る文明なら、この程度当たり前か。


「さて、降りて来たわよ。

さあ、約束を果たしてもらえるかしら?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ