「梵珠山に、神は眠らない」5
翌朝、ツアー最後のイベントとして今度は早朝の迷ヶ平を訪れる。
なんでも今度は「エデンの園」だとか。
キリストの墓、ピラミッドにエデンの園?
そう言えばお釈迦様の墓にも行ってる。
あとアブラハムの墓に行けば三大宗教制覇。
……まさか青森にないよね?
そう独り言ちる。
朝もやに覆われた原野は、幻想的に見えた。
来る途中にあった牧場の牛たちの声が遠くに聞こえる位で、
まだ淡い朝日が現実味がない光景に拍車をかける。
次の瞬間、私は息をのんだ。
朝もやの中、火の玉が見えた。
梵珠山で夜に見たあの火の玉だ。
あの時は夜中だったが、今度は朝早く。
なのにこんなにくっきりと見えるのは異常としか思えない。
だけど、一緒に居た参加者は誰も気が付いていない。
声をかけようにも、前と同じく声が出ない。
しかし、徐々に記憶が蘇ってきた。
―子供の頃、私は梵珠山に一度行っているはず。
なのに今の今まで忘れていたのは何故?
先日と同じ夜の火の玉ツアー
子供の私は同じようにに火の玉を見て、その後なにかを見ている。
しかし、それがなんだかはっきりとは思い出せない。
そして先日。
大人の私ははっきりと見た。
明らかに人工的な入口が開き、中に歩み入るところまでを。
しかし、その先はまるっきりの闇で思い出すことはできなかった。
思い出し終わっても今度は記憶は途切れず、
導かれるように勝手に体がツアーバスに戻っていった。
まるで自分の身体ではないように、意識と身体が分かれてしまっていた。
戻ったキャンプ場での朝食会は賑やかだったが、どこか舞台芝居のように感じられた。
参加者の会話やスタッフの動きまでもが、ドラマの演出のようにも思える。
私はようやく戻ってきた体の感覚を確かめながらコーヒーカップを手にし、
テーブルの端をぼんやりと見つめた。
「あっという間に終わりですね」
隣の年配女性が声をかける。
その声さえも、誰かに与えられた台詞に聞こえてしまう。
バスで八戸駅へ向かう道すがら、何度も窓の外の景色を眺めた。
田畑や林の配置、遠くの山の形、すべてに強い既視感を覚える。
昨日初めて見たはずの景色なのに、何故?
”色欲対象が条件を満たしました。レベル1をアンロックします”
スマートフォンから聞こえたような気がして確認する。
特に着信履歴もないし、画面はいつものホーム画面だ。
――しかし、誰かに見られている感じが強く、はっきり認識される。
これまでの“偶然”がすべて仕組まれていたのではないか
そんな疑問まで覚え始めていた。
空を見上げ、静かに自問自答する。
梵珠山に、そして新郷村に”呼ばれたのではないか”
答えは返ってこなかった。




