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梵珠山に、神は眠らない ―八峰 遥の豪運―  作者: 菜乃花 薫


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3/10

「梵珠山に、神は眠らない」3

気がつけば、日めくりカレンダーはあと数枚で八月。

毎年この時期になると、なぜだか落ち着かない。


暑さだけが理由ではない。

青森市民恒例のねぶたで「じゃわめぐ」わけでもない。

何故だか、何かが私を突き動かすが、それが何かは長年自分でもわかっていない。


そんな中、地元のスーパーの掲示板で「火の玉ツアー」のチラシを見つけた。

梵珠山の山頂で、地元の伝承や火の玉現象を観察するイベントそのものだった。

その場で申込書を書き、受付に提出する。


少し前、あれだけ幸運が続いた時に検索して以来、ずっと見たいと思っていたからか。

偶然の連鎖に何かに導かれている気がした。


ツアー当日、集合場所には十数人の参加者が集まっていた。

年配の人もいれば、家族連れや大学生らしき若者もいる。


漏れ聞こえる会話から、常連さんもいるらしい。

子供が主体かと思っていたから、参加前に想像より年齢層が高くて驚いた。


受付を済ませ、配られた資料を眺めると、

「お釈迦様の墓」「弟子の霊」「御灯明」といったキーワードが並んでいた。

地元民なら一度は聞いたことがあるし、

私も小学生の頃、梵珠少年自然の家に1泊2日の林間学校で宿泊し、

その時にその伝承は聞かされた記憶がある。


山道を登る間、ガイドが梵珠山の伝説を語る。


この山の頂上には御灯明と言ってお釈迦様の墓に高僧の弟子の魂が戻る、とかなんとか。


―お釈迦様本人じゃないんかい


そう心の中で呟きつつ、山道を参加者全員でのんびりと登る。


八合目に着く頃、日が傾き始める。

空には淡い夕焼け、山の向こうに薄い霧が立ち込めている。

景色を見ていると、夢で見た光景と重なったように見えた気がした。


日が沈んだ八合目付近は少し冷たい風が吹き、木々がざわめく。

その音にまぎれて、どこからか声が聞こえた気がする。


振り返るが、自分も含め一列に並んだ参加者。

後には当然誰もいない。


「……そりゃ誰も居ないよね」


つぶやきながらも、鼓動が少し早くなる。



真夜中までの観察待機中、ガイドが追加で語る。


「言い伝えではお釈迦様の墓はこの盛り土、だと言われていますね。

この柱は大分後世になってから建てられたらしく、

その際に建てたお坊さんによって、地・水・火・風・空と梵字で書かれているそうです。


青森ってキリストの墓も今は十字架ありますが、あちらも元は盛り土だけだったそうですし、盛り土好きなんですかね?」


参加者から笑い声が聞こえる。


「昔、山中で迷子になった子どもが、火の玉に導かれて無事に帰ってきた

なんて話もありますよ

だから火の玉が怖いとか、この辺じゃ思ってない人が多いですね」


地域差もあるだろうが、火の玉の原因がメタンガスなんて科学的に言われると、

その原因が死体だとかに限定されて気味が悪いってのが一般的だろう。


観察会も時間が経ち、参加者もてんでばらばらになっていった。

そういう自分もみんなが見える範囲で少し散策をする。


お釈迦様の墓。

なんでも分骨されて埋葬してるらしいが、一応手を合わせ目を閉じる。

次に目を開けた私には、空中に浮かぶ白い光が見えた。


火の玉、か?

位置的にはお釈迦様の墓の上にあるから、もしかしたら人魂?


そう思い、他の参加者に声をかけようとしたが、声が出ない。

振り返りも出来ない。


そうして意識が遠のいた。



記憶が繋がったのは、ガイドの帰りを促す声からだった。


―さっき見たはずの火の玉は?

スマホを見るとあれから2時間近く経っているが、

その間の記憶が全くない。


山を下りる最中、周りの人の興奮を聞いても言葉が出なかった。


同じ火の玉を見たのだろうか?

何故私だけ記憶がなくなったのだろうか?


夢心地の不安定な気持ちのまま、もうすぐ登山口というところまで降りてきて気が付いた。


―あの火の玉、夢に出てきた光の玉そっくりだ

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