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十色の永久光石  作者: みいみ
第1章 集結
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第7話:それでも、正しくいなければならない

 世の中はあまりに不条理だ。真面目な人間ほど損をする。正論を言えば叩かれる。こんな世界は、私にとってあまりに生きづらい。


「この度、生徒会執行委員に立候補いたしました。1年1組、福松瑠璃子です」


 中学校の生徒会選挙で対抗馬が出たところを、3年間で1度も見たことがなかった。執行委員に至っては1度定員割れした。毎回信任投票だけの、張り合いのない演説会だった。


「私が生徒会執行委員になるからには、校則をより明文化し周知を徹底したうえで、身だしなみや授業態度等をより厳しく取り締まります」


 生徒会長候補も、副会長候補も、他の執行委員候補も、皆『生徒たちに自由を』というような公約を掲げた。99%の生徒が自由を望んでいる。

 わざわざルールを厳しくしたところで喜ぶ人間は教師くらいだが、中学1年生の私は当選した。2年生で副会長、3年生で生徒会長まで務め上げた。

 その原因は、生徒会選挙があるごとに担任たちが告げた言葉だ。


「お前ら、不信任にするってことは『私が代わりに立候補して責任を取ります』ってことだからな」


 そんなことを言われては、名前の隣に丸を付けるしかない。全員信任され、新たな生徒会が発足した。

 生徒会に入ったところで、実態は教師たちの手足だった。

 何のためになるのか分からないペットボトルキャップ集めや、本当にしかるべき団体へ送られたのか不明な募金運動、いじめ防止キャンペーンと謳う朝会での原稿読み、そんなことばかりだった。

 恐らく、この生徒会で何かを成し遂げた人はあの中学校が開校して以来0に近いのだろう。


 友達なんていなくていい。

 誰も開かない生徒手帳に書いてある校則がきちんと役目を果たすためなら、誰に言われずとも動いてやる。

 私は毎朝誰よりも早く教室に行き、入ってきた女子生徒のスカート丈や男子生徒の首元のだらしなさを指摘し続けた。


 ただ、進路指導が始まろうとする中でもうすぐ成人になり『社会の仲間入りをする』という事実が立ちはだかった。

 それならあと少しだけ不真面目に、柔軟になる必要を私は感じた。

 自宅に帰ってから、丁寧にクリアファイルへとしまっていた用紙を取り出す。鉛筆削りで尖らせた鉛筆を持った時、正しい持ち方のはずなのに私はとてつもない罪を犯している真っ最中に感じられた。

 第一志望に双葉総合高校の通信制課程の名前を書いて、鉛筆の上からボールペンでその名前を丁寧に書き直し進路調査用紙を提出したとき、とうとう後戻りできなくなった。

 

 今度は、不真面目にならなければならない。

 

 こうして高校1年生になった4月、悪魔のような全日制の女子生徒2人は私を見ると内緒話を始めた。


『珍しい。あの子、もしかして通信制? なのになんで制服みたいな格好してるの?』

『知らない。通信制まで逃げたくせに、それでも制服着ちゃうなんて結局私たちに憧れてるんだ』


 だから、私は2人を睨みつけて立ち去った。倫理的にそのような態度は許されないが、これからはそれでいい。

 背中を向けて、どんなに彼女たちが憎くて1秒でも早く立ち去りたくても決して廊下は走らない。向こうから姿が見えなくなってから、穢れを払うようにリボンタイを整えた。


 義務的なスクーリングですり減った心を癒したのは、学内チャットルームによくいる『かの』さんだった。

 彼女はこの街の本校から離れた分校に登校する通信制の生徒で、その理由は大きな病を患い自由に外出することが難しいからだと打ち明けてくれた。私にとって初めての友達だった。

  

『ルリさん、私、このグループに入りたいです』

『お勧めできません。あなたは医者から絶対安静の注意を受けている立場と教えてくれたではありませんか』

『でも、変わりたいんです。皆と一緒にきらきらした高校生活を送りたい。ここなら、まだ間に合うと信じてるから。これ、見てみてください! 本校の全日制の子たちが最高にきらきらしてるから!』


 私の内緒話をしていた2人が、かのさんから送られてきた動画の中でどうして笑っているのか。本当に世の中は不条理まみれだ。


 -----

 

【ドリームテイル】料理同好会とクッキー作ってみた!


「皆さん、こんにちは! ドリームテイルのゆめみです!」

「まほろです」


 まほろはこの動画で初めてこのチャンネルの被写体として姿を見せた。視線を少し泳がせながらも、ふわりと微笑んでみせる。


「やっとまほろちゃんと一緒になれて嬉しい! 今日は楽しもうね」

「うん」


 カメラは滑らかに料理同好会の面々に向く。朋香の可愛らしい声で、彼らも紹介された。


「その中から代表して、村上(のぞむ)ちゃんに指導していただきます!」

「先生、今日はよろしくお願いします!」


 ゆめみが勢いよくお辞儀をすると、のぞむはにへらっと笑う。


「そんな、先生なんてよしてよ。同じ学年なんだし。にしても至田(しだ)ちゃん、これでみんなはマンネリ解消できるの?」

「ええ。間違いないわ。アイドルとお菓子作り。あまりに王道過ぎるって懸念はあるけれどここでは初めての試み。離れかけていた視聴者を呼び戻すわよ!」

「ふへへ、至田(しだ)ちゃんノリノリだね」

「はぁ!? 私はただ、ゆめみたちがあまりに非効率なやり方をしていたから我慢できないだけよ!」


 -----


 画面の向こうの全日制の生徒たちは、どたばたと、無秩序にはしゃぎながらクッキーを作っている。

 至田と呼ばれた撮影者の気持ちに少しは共感できそうだったが、どうも彼女が目論んでいるのは再生数の増大らしい。それ以前に学校の無許可であろうこの活動自体を認めるわけにはいかない。

 次に、朋香という生徒が目に留まった。全日制の制服ばかりの空間に、彼女だけが違う格好でいる。

 ひらひらとしたミニスカートに、華美な首元のフリル、ヘアアイロンで巻いたであろうハーフツイン。全日制側の規則を乱しているに違いない。さらに胸には青いバッジが付けられている。通信制だ。

 部活動は全日制しか入れないという規則を破って、朋香はアイドル部に入り料理同好会へ押しかけている。もうめちゃくちゃだ。


『動画を見ましたが、ますますお勧めできません。彼らは平気で校則違反をしていますし、あなたもそうするつもりですか? 通信制の生徒は全日制の部活動には入れません』


 しばらくすると、目を疑う返信がかのさんから返ってきた。


『あの子たち、部活動じゃないんです。何かすごく大きな夢を持っている、私たちと全日制の子たちの壁を壊してくれる希望です』


 ずっと裸眼で両目Aを守って来た目は、今まさにベッドの中でブルーライトに焼かれている。こんな生活を続けているとメガネをかけなければいけない日が来てしまうだろう。

 そんな時だというのに、学内チャットへ1つの通知が飛び込んできた。


 ――双葉総合のアイドル(仮) ドリームテイル メンバー募集中! 全日制・通信制どちらも大歓迎、一緒に笑顔を取り戻そう!


 かのさんは、通知を見るや否やそれに応募したという。付き添いとして私の名前も勝手に書いてしまったらしい。

『かのさん、勝手に人の名前を応募フォームに書いてはいけませんよ』


 そうチャットに打ち込みながら、かのさんと顔を合わせられる日を想像して胸を躍らせる自分がいた。

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