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十色の永久光石  作者: みいみ
第1章 集結
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第3話:それでも、前に進みたい

 きっと、小さい頃の私から赤いクレヨンを取り上げて、喧嘩になった子と「半分こ」してみせた後のことをゆめみは覚えていない。


「かなちゃん! ケンカはめっ! 半分こ!」


 ぼきっと折られた赤いクレヨンを目にして、『かなちゃん』こと私、大垣夏菜恵(かなえ)はもう言い争う気が失せた。

 相手の子はその後「ゆめちゃんがクレヨン折った」ってもっと泣き出して、先生にゆめみは「物を大事にしろ」って注意されてたっけ。私たちの関係は、そんなところから始まって今に至る。

 関係……と言っても、クラスは離れてばかりだったから一方的に「高宮ゆめみがまた何かやらかした」という噂を耳にするくらいだった。

 小学生から中学生まで、私はずっとバスケ部だった。先輩も優しくて、後輩とも仲が良かった。あまりにできるからって、途中から外のクラブチームにも入れられちゃったっけ。

 落ち着いて自分の立ち回りを振り返っても、そこそこ頑張っていた。身長にも恵まれ、大会でいい成績も収められた。強豪校から声をかけてもらっていたけれど、私はほんの少しだけ怖かった。

 スポーツ以外取り柄がない状態で高校に行ったとして、もし大けがしたら。何らかの拍子にバスケが嫌になったら。その学校に行くのが嫌になりそうだった。

 

 事実、小学生の頃に1つ上の先輩が引退試合の直前にけがをして試合に出られなくなったことがあった。この日もシュートが入るたびに、あちこちから威勢のいい掛け声が上がる。

 私はベンチにいた子と交代したばかりでその様子を眺めていた。チームメイトが楽しげにコートを駆け回るなか、その先輩は体育館の隅で項垂れていた。

 その様子が、トラウマのように私の心に焼き付いている。そんな理由で私は自力で勉強して、受験をして、双葉総合高校にいる。ここなら万が一の脱出口があったからだ。

 そして、偶然ゆめみもそこにいて同じクラスの1年5組になった。まさに腐れ縁だ。

 

 過去に思いを馳せていると、ガタンと机にゆめみが体重をかけてきて現実に引き戻される。

 ゆめみは『アイドルで学校の笑顔を取り戻す』というまた壮大で訳が分からないことを企んでいた。そこに、会話に参加していたまほろの一声が転がり込んだ。


「私、できるよ」


 詳しいことは知らないけれど、まほろは手芸が得意らしい。まほろの一言で、ゆめみの押したらいけないボタンが押されたようだった。

 

「もちろん、かなちゃんも一緒だからね?」

「え、嫌だよ。それに私……。色々と運動部から勧誘受けてるし」

「ってことは運動神経抜群! ダンスができるってことじゃん! お願い、力貸してよ~。学校のみんなを笑顔にするためだから」

「無理だよ、それ以前に私はやっぱりバスケがしたいし」


 そうやって、アイドルはできないって言ったのに。気づけばゆめみの仲間に私も加えられていた。

 

「そんなの、掛け持ちしちゃえばいいじゃん! 部活にしちゃったら通信制の子たちが入れなくなるみたいだから勝手にやっちゃうつもりだし」

「掛け持ちねぇ……。まあ、ほとんど顔出せないけどそれでよければ乗る」

「じゃあ、決定! 3人でアイドルして、双葉総合に笑顔を取り戻すぞーっ! おーっ!」


 こうして、私はゆめみの作ったアイドルグループとバスケ部の掛け持ちをする学校生活を送り始めた。


 アイドル活動と言っても、何か目標があるわけでもなく大会があるわけでもない。しかも私はバスケ部がメインで向こうには行けない。

 放課後に練習がしたいから練習メニューを考えてくれとゆめみに頼まれて、中学生の頃の体力づくりにしていたことを丸ごと携帯で送信した。それくらいしか、私にできることはなかった。


 私たちのアイドル活動で最初にすることは、有名なアイドルの曲の歌とダンスを真似してそれをネットへ上げることになった。

 それを撮り終わって夏の足音が近づいてきたころ、ゆめみからまた連絡が来た。


『これで私たちアイドルデビューだよ! みんなで頑張ろうね』


 それと一緒に、動画サイトのリンクが貼ってあった。バスケの練習が終わり日も暮れたベンチでそれを開いた。動画の再生数はまだ100にも満たない。

 画面の向こうで、ゆめみと私はマイクに見立てた握りこぶしへ向かって歌い、跳ね回っている。まほろはなぜか頑なにカメラの前に出ることを嫌がってカメラマンに徹した。

 ゆめみのウィンクが大写しになると、思わず顔がほころんでしまう。

 隣に映っているのがさっきまでバスケ部で先輩に弱点を指摘され直そうと必死になっていた自分と同一人物とはとても思えない。

 この武骨な指が、いつかボールではなくマイクを握る日が来る。想像すると頬が熱くなった。

 動画をもう1度再生しながら、学校の鞄とスポーツバッグを持って立ち上がる。空でも大きな水筒の重みが肩にのしかかった。

 

 ゆめみはこういう所が怖いんだ。あの子が言うことは不思議とすべて叶ってしまうような気がしてついていかずにはいられない。

 そういう私も、どんな形であれ体を動かすことは好きだった。音楽に合わせて動くことにはまだ慣れが必要だけど、これもこれでとても楽しかった。


 アカウントの名前は、『ドリームテイル』という。カタカナなのが何とも言えなくてむず痒い。夢のしっぽを追いかけた先で、ゆめみと私たちは何を見ることになるのか見当もつかなかった。

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