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十色の永久光石  作者: みいみ
第2章 結束
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第19話:だからこそ、手を取りたい

 -合宿3日目 朝-


 合宿最終日の朝、外は快晴で一面きらめく雪景色が広がっていた。

 3日目も予定通り、まほろの衣装制作を手伝うため全員がチームCの3人がいるペンションへ合流しようと移動する道すがら、瑠璃子はふと足を止めた。


「ところで高宮さん」

「何? 瑠璃子ちゃん」

「冬休みの課題、終えられていますよね?」

 

「あ、やってない。えへへ。帰ったらやろうと思って」


 あっけらかんとしたゆめみの声に、瑠璃子は額に青筋を浮かべる。


「何をしているのですか! 学校中の手本となろうとしている人間が勉強を疎かにしてアイドルですって? あり得ません! どうせオンライン提出でしょう。すぐにやりなさい!」

「そ、そんな~! みんなと衣装づくりしたかった~~!!」

「終わるまで逃がしませんからね!」


 瑠璃子に引きずられ、ゆめみがチームAのペンションへと連れ戻されていく。2日目の失敗を取り戻そうと配信の時間が増やされる中で、2人が繰り広げた青春の1コマはファンの心を癒した。


 -合宿3日目 昼 チームA-


「うっうっ、もう分からないよ……。作者の意図を述べなさいなんて知るわけないじゃん、私はこれ書いた人じゃないんだし~!」

「そんなものは授業で言われた通りの要点を組み立てて書けばいいんです! 1から考察しろという意味ではありません」

「言われた記憶ないよ~……」

「全く。今度は授業中の居眠りですか」


 山積みの課題を前に、ゆめみは頭を抱えながら唸り続ける。配信モニターの向こうでは、まほろたちが8人で衣装づくりに励む声が聞こえてくる中、瑠璃子はゆめみの課題が終わるまで見守っていた。


「ねえ。瑠璃子ちゃん」

「……何ですか。現代文が終わったら次は数学ですよ」

「まあまあ。瑠璃子ちゃんたちがドリームテイルに入ってくれたあの日、聞きそびれちゃったことを聞いておきたくて。どうして瑠璃子ちゃんは真面目そうなのに通信制なのかの理由」


 瑠璃子はあの日サラが緊迫した中庭へ乱入してきたせいで言えずじまいだった、自分が通信制を選んだ理由を語り始めた。


「不真面目になりたかったんです。校則を破っても、課題を忘れてもへらへらしていられる、ごく普通の10代になりたかった」


 瑠璃子は、自分が『普通』の域を逸していることに気づいていた。


「通信制の学校に入れば朝6時に起きなくてもとやかく言われない。私服で、どんな格好で来ようが文句を言われない。社会へ出る前に、そういう所から柔軟になっておきたかったんです」


 実際、瑠璃子は結局毎日6時には目が覚めてしまいスクーリングの際にも本人曰く制服に準ずる服装をしてきてしまうという。


「ごめん瑠璃子ちゃん。さっきから出てくる『制服に準ずる服装』って何?」

「分かりやすい所で言うならば、全日制の校則に則り過度な露出を避けるという意味です」

「ええー? というか、全日制も髪染めていいくらい身だしなみは緩いよ? せっかく好きな恰好できるのに、脚がくすぐったいあの長さのスカートなの?」

「何か問題でも?」

「だって、だって……。その」


 制服をついミニスカートにしたくなる理由を言おうとして、ゆめみは口を閉ざしてしまう。


「ほら、誰も説明できない。なのに全員スカートを短くしようとする。こういう所が私の癇に障るんです。理由がなければ普通にしていればいいのに」


 瑠璃子の問いは、ゆめみの耳には『自分をこの檻から出してほしい』というSOSに聞こえた。彼女は瑠璃子が檻の中から伸ばした手を掴んでみせた。


「でもさ。瑠璃子ちゃんの三つ編みだってすごいこだわりだよ。昨日の朝、変な時間に目が覚めちゃって。洗面所で瑠璃子ちゃんが自分で三つ編み作ってる所見ちゃったんだ」

「それは、そうですが。誰も代わりにやってはくれませんからね」

「じゃあ、それが瑠璃子ちゃんらしさだよ! ついついすごく真面目になっちゃう、周りに厳しくしちゃう、その理由は『瑠璃子だから』でいいんじゃない?」

「私らしさ、ですか?」

「うん!」


 瑠璃子はそっと自分の三つ編みに結った髪を指で持ち上げた。真一文字に結ばれ続けていた口元から笑みがこぼれる。ゆめみの目も瑠璃子の三つ編みの規則正しさへ改めて釘付けになる。


「しかし。課題から逃げ出そうと言ったってそうはいきませんからね」

「え――んっ。そんなつもりで言ったんじゃないのに~っ!」

「すぐ終わらせれば、ちゃんと林さんたちの元へ連れて行きますから!」


 ゆめみの悲鳴とは裏腹に、ペンションの窓からは柔らかな光が降り注いでいた。 


 -合宿3日目 昼 チームC-


 ゆめみが課題に悲鳴を上げている頃、まほろを中心に8人は衣装制作を進めていた。


「まさか、まほろが衣装づくりにゲームを参考にしていたなんてね。乙女ゲームの衣装が作りたいあまりこれだけの技術を身に着けるなんてただものじゃないわ」

「だって、ある程度形がないと思いつかなくて……。それに、アニメやゲームに出てくる服ってすごく可愛いから」

「1日目にせっかく切った布を、今日いきなり斜めにし始めたから心臓が止まるかと思ったわ。ここ数日で何があったの?」

「それは、お姉ちゃんから赤と青のバッジの話を聞いたからなんです」


 まほろは昨晩姉のあすみから聞いた2色のバッジの秘密を話した。配信を見ていたファン以上に、生徒たちの心に衝撃が走る。

 衣装のスカートを左右非対称、さらに全員違う角度になるように彼女が手を入れた理由は10人が全く違う理由でドリームテイルや双葉総合にいることを表すためらしい。


「単なる区別ねぇ。そんな気はしてたけど、その理由がほとんど消えてただのレッテルの貼り合いになってたってこと?」

「そうみたいです。お姉ちゃんはちょうどバッジができた頃双葉総合にいたみたいだから」


 紗矢は心の中で自分に毒づいた。


 (私も、その馬鹿げた噂に踊らされた愚か者ってわけか。そうよね。少なくともここにいる通信制の子は自らに誇りを持っているか、ゆめみが手を差し伸べなければどうなっていたか分からない子ばかり)


 そんな紗矢の視界は鮮やかすぎるほどのゴールドこと黄色に2時間以上支配されている。

 

「はぁ。目がチカチカしてきた。少し休憩入れましょ」

 

 紗矢の提案に、7人が思わず布から顔を上げた。


「何よその顔。私が休憩も知らない非効率人間に見えるの?」

「あははっ、至田(しだ)ちゃんもそんなこと言うようになったんだね~。じゃあ私がジュースもらってきてあげる。城ヶ崎ちゃん、何があったっけ?」

「何でもござれよ。コーヒーに紅茶、あとはオレンジジュースとアップルジュース……。まだ他にもあったはず。どれも最高級を用意させてるわ」


 サラと(のぞむ)は立ち上がり、厨房の方へ歩き出す。ふと、(のぞむ)が皆の方へ振り返った。


佐谷(さたに)ちゃんはブラックコーヒーか無糖の紅茶でしょ? どーせ。それかただの水?」

「……ココア。もう頭が回らないんです!」

「そっか~。ふーん。みんなは?」


 身体が欲するものに対して正直になった朋香の一言に、皆はくすくすと笑いだす。2人が全員分の飲み物を持って戻ってきたころ、宿題をすべて終わらせたゆめみが息も絶え絶えに姿を現した。


「はぁ、はぁ……。私の衣装、取っておいてくれた!?」

「あははっ。大丈夫だよ。休憩済ませても戻ってこなかったら諦めて私が作るつもりだったけど。ギリギリセーフだったね」

「かなちゃん~~っ……」


 外では夕焼けとともにペンションの影が雪原に延びる。10人分の衣装は完成し、トルソーに着せられた姿がお披露目された。10色の、お揃いのようで大きく違う王道なアイドル衣装だ。

 紗矢はわざとらしく画面の向こうへ語り掛ける。


「さて。中庭ライブが実現すればこの衣装を着てライブをするから、実物が見たければ署名よろしくね」


 ドリームテイルのすべてをあらゆる意味で鮮烈に映し出してしまった合宿は最大の同時接続者5000人、投げ銭は過去最高額で幕を下ろした。

 肝心の署名は、衣装の完成を引き金にして一気に1000筆を超えた。


 帰り道も皆は城ヶ崎グループの車で送られる。全員分の荷物を積み込んで、ゆめみは雪を被った3棟のペンションの方へ振り返った。

 恐らくゆめみが次にここを訪れることは一生ない。普通に泊まろうと思えば1泊で高宮家数日分の生活費が吹き飛んでしまう超高級ペンションだ。


「ゆめみー。早く乗りなよ。みんな待ってるよ」

「あ、うん!」


 夏菜恵(かなえ)に呼びかけられ、ゆめみは車に飛び乗った。

 

 (みんな、ありがとう。私、この3日で人と分かり合うのがどれだけ大変か、分かった気がするよ)

 


 (中庭ライブ、絶対成功させるからね)

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