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十色の永久光石  作者: みいみ
第2章 結束
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第17話:だからこそ、前を向こう

 -合宿2日目 昼 チームB-


 花乃(かの)は別棟で休養中、朋香は雪遊び配信へ参加してしまいチームBのペンションは夏菜恵(かなえ)(のぞむ)の2人きりになった。

 (のぞむ)が閉じこもった部屋の前で夏菜恵(かなえ)は言葉をかけ続けた。


(のぞむ)夏菜恵(かなえ)だよ、ドア開けなくていいから話だけでも聞いてほしい」

「大垣……ちゃん。私、もう帰りたい」

「まぁ、あれだけはっきり言われちゃうとね。でも(のぞむ)が頑張ってる所、私はずっと見てたよ。実は私、(のぞむ)のことすごく尊敬してるんだ」

 

 夏菜恵(かなえ)は廊下に腰を下ろし、扉に背を預けた。

 彼女が見た(のぞむ)の姿と言えば、バスケ部の練習でくたくたになった自分をゆめみやまほろたちと一緒にお菓子を振舞いながらその日のドリームテイルについて話してくれた姿だ。

 その優しい味や食感、気心知れた友達との会話にバスケ部での失敗や悔し涙を包み込んでもらい、その時間がどれほど夏菜恵(かなえ)の支えとなっていたことか。

 (のぞむ)がお菓子にかける気持ちを軽視しているつもりこそなかったが、体型以上に(のぞむ)を激昂させる引き金になっていたとは夏菜恵(かなえ)には想像もつかなかった。


「あの朋香にあそこまで啖呵切るなんて。喧嘩は止めなきゃって私も慌てちゃったけど、正直かっこよかった」

「……なんで?」

「私、バスケ部でずっと空気っていうか。今まできっと調子に乗ってたんだよね。外部のクラブなんか入っちゃってさ」


 夏菜恵(かなえ)は座り込んだまま深く俯く。


「高校生になった途端、先輩たちだけじゃなくて同じ1年生にも全然歯が立たなくなった。私、井の中の蛙ってやつだった。そのせいで、続けてる意味あるのかなって」


 夏菜恵(かなえ)の声色はドリームテイルの面々の前では決して見せない弱々しさを含んでいた。


「自分がどんな状況になっても、好きなものを『好き』って言い続けられる理由、ずっと聞きたかったんだ。こんな形になっちゃったけどさ」


 重い沈黙の末、扉の向こうで(のぞむ)は答えた。


「スイーツはみんなを笑顔にする魔法だから。どんなに心がチクチクした人も、ふわふわのスポンジととろけるクリーム、きらきらのフルーツの前では笑顔になっちゃうから」

「……それが、理由?」

「そう、かも。私がお菓子作りを趣味にしてお菓子を毎日食べてる理由。小さい頃見てた、パティシエの女の子が出てくるアニメで毎週言ってたの。大垣ちゃんは、なんでバスケを始めたの?」


「それが自分でもよく分からないんだ。身体を動かすことが好きなだけ。小学校には野球部とサッカー部もあったけど、そこは男子ばかりでいづらかったから。唯一入れそうなのがバスケ部だったんだ」

「それって、運命の出会いじゃん」


 その言葉と同時に、(のぞむ)はゆっくりと扉を開けた。


「もし試合に出るときは言ってね。至田(しだ)ちゃんたちと応援しに行くから。さて、どうせ今から向こう行っても気まずいし気晴らしにお菓子作ろうかな。キッチンに押しかけちゃってさ」


 -合宿2日目 夕方 Bチーム-


「うん、うん。分かった。(のぞむ)とケーキ作って待ってるけど、サプライズだから他のメンバーには内緒でね。……花乃(かの)、落ち着いてきたって」 

「よかった。快復祝いのケーキだね」


 夏菜恵(かなえ)(のぞむ)は城ヶ崎グループの使用人たちが顔を見合わせる中、夕食の準備が始まろうとしていた厨房でケーキ作りに励んでいた。泡だて器の規則的な音が響く。

 慣れた手つきと時間配分で、(のぞむ)はスポンジを粉から作って焼き上げる。夏菜恵(かなえ)は卵を割ったり小さく震える手でイチゴを乗せたり、できる範囲で(のぞむ)を手伝った。

 時間が限られる中で出来上がった小ぶりなデコレーションケーキは、切り分けてしまえばショートケーキの半分もない。


 -合宿2日目 夜-


 雪遊びを終えてゆめみたちはそれぞれのペンションに戻ろうとしていたところ、1通のメッセージが夏菜恵(かなえ)から全員の携帯に届いた。 

 

『望が謝りたいって。みんなチームBの所に集まってほしい』


 広間には(のぞむ)夏菜恵(かなえ)、花乃とその付き添いの看護師が先にゆめみたちを待っていた。テーブルには(のぞむ)たちの作ったデコレーションケーキがぽつんと置かれている。


「ほら、(のぞむ)


 夏菜恵(かなえ)に促され、望は8人の前で頭を下げた。

 

「……みんな、迷惑かけてごめんなさい! せっかくの雪遊びを台無しにした代わりにはならないかもだけど、これみんなで食べて!」


 (のぞむ)は自らケーキを切り分け始めるが、その横を朋香はさっと通り過ぎていこうとする。


「待って!」

「わざわざ口で言わないと分からないの? 私、あんたみたいに太りたくないの」


 再び場が凍りそうになるのを打ち破り、ゆめみは勝手にケーキを切り始めた。10等分にされたケーキを2人以外は次々と食べ始める。


「うーん、おいしい~っ! ありがとう、(のぞむ)ちゃん!」

「本当。(のぞむ)って『ただのスイーツ好き』じゃ説明つかないよ。私に似てさ」


 美優(みゆう)(のぞむ)が施したクリームのデコレーションを美術品のように眺めながらも1口ずつ食べ進める。


「あーあ。要らないって人が1人いるならおかわりもらっちゃおうかしら。食品ロスなんて経済の損失以上の問題があるでしょう? 瑠璃子さま」

「……」


 わざとらしく紗矢は瑠璃子に話を振ったが、彼女はケーキを食べることにすっかり夢中だ。


「何よ、人の話も無視して食べちゃって。ちょっとは悪いところ出てきたんじゃない?」

「だとしたら、瑠璃子さんもどんどん人間らしくなってきたってことね。そうだ! ケーキには美味しい紅茶がぴったりだわ。ねぇ、持ってきてくれる?」


 サラは使用人に指示をしたが、返事は意外なものだった。


「お嬢様。現在厨房は夕食の準備が遅れておりまして。申し訳ございません」

「うふふっ、いいのよ。今はみんなでケーキを食べるこの時間が1番幸せだから」

 

 最後に1切れ残ったケーキを、(のぞむ)は朋香に差し出した。


「仲直りの印に、食べてほしい」

「だから、いらないって言ってるのが「イチゴだけでもいいから食べて! 私だって、大好きなお菓子のことで喧嘩なんてしたくなかった……」


 叫ぶように本当の気持ちを伝える(のぞむ)を前に、朋香はケーキの上に乗ったイチゴだけを整えられた爪と病的に色白な指先でつまんだ。険しい表情が綻び、彼女の瞳から涙が溢れだす。


「最悪。本当に最悪よ。こんなに甘いもの食べたの、何年ぶりだろう……」


 朋香は涙を流しながらも心からの、天使のような笑顔を咲かせてみせた。


 そんな中、ゆめみはケーキを食べ終えて窓から身を乗り出していた。隣にやって来た花乃(かの)も息を呑む。


「みんな! 見て! 星がすっごく綺麗だよ!」

「本当ですね……。私の病院からも、こんなにたくさんは見えません」


 夕食が遅れるというトラブルすら味方にして、10人は満天の星空を見上げた。そんな姿を生配信に乗せて見せたせいか署名は日が落ちてから数を取り戻し、その数は900筆に達していた。

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