第14話:だからこそ、見せつける
12月も半ばに入り、ポスターの手直しが効いたおかげでドリームテイルの中庭ライブに向けた署名は400筆に達していた。
文化祭の成功を境に学校内での知名度が急上昇したドリームテイルはすっかり噂のアイドルグループとして生徒たちの語り草になっている。
「ドリームテイル、ぶっ飛んだ理由で結成された割にはすごくストイックだよね。覚悟を感じる」
「中庭で練習してるの見ちゃった、どうしよう……!」
「あの署名、家族の名前も借りちゃった。ライブすごく楽しそうだもん」
全ての発端であるゆめみは、ドリームテイルが注目されるごとに表情をわずかずつながら曇らせていた。
昼食の弁当を広げながら夏菜恵はさりげなく中庭のベンチで虚空を見つめるゆめみに問いかけた。
「ゆめみ、最近元気ないじゃん。ここからだってタイミングにどうしたの?」
「あ、かなちゃん……。あのね、私たちすごく遠いところまで来ちゃったなって。紗矢ちゃんや朋香ちゃんが入ったあたりから急に変わった気がする」
「それはそうだね。色々訳ありな子も入ってきたわけだし……。でもこの10人じゃなかったらここまで来られなかったのも事実だよ」
「うん……」
購買でパンを買ってきたまほろも2人に合流する。
「あ、まほろ。ゆめみが明らかに萎んじゃっててさ。何があったのか聞いてるところ」
「へぇ……。ゆめみちゃん、どうしたの? 私のパン半分いる?」
「まほろちゃん……。パンは後でいいや。私、このままでいいのかなって思ってるんだ。みんなを笑顔にするためにはそりゃすごいものを見せなきゃいけないんだろうけど何か違うんだよな〜って」
「違うって、どんな風に?」
「うまく言葉にできないんだけど、こんなガチガチになるつもりなかったんだよね。みんなの中には私たちのこと怖いって思ってる子もいるみたいだし」
中庭で3人並んでいるだけで、通りかかる生徒はこちらに視線を一瞬向けてそそくさと去っていく。
3人の吐息は白く手もかじかむが、教室にいるとゆめみがうっかりライブの内容を口外しかねない。
それを避けるため関係者以外から離れるようにと朋香に釘を刺されこうして外で昼食をとるようになっていた。
「学校にアイドルがいるって、ここまでどんよりした感じじゃないよな〜って。頑張ることも大事だけど、笑顔でいることを私たちが真っ先に忘れちゃった気がするんだ」
ゆめみを挟んだ2人は息を呑み、はっと顔を見合わせた。
「ゆめみ、それだ!」
「……え?」
「ゆめみちゃん、私たちはアイドル以前にただの高校生だよ。紗矢さんが昨日『上級生からの署名が全然来ない』って言ってた原因、私も今分かった!」
「な、何? 何が分かったの?」
きょろきょろと2人の顔を交互に見るゆめみを横目に、夏菜恵は状況を変えるアイデアをドリームテイルのグループチャットに投げかけた。
それは、冬休みを使って中庭ライブの練習をしつつ、カリキュラムやクラスの垣根を超えて触れ合う姿を見てもらう合宿配信だった。
「合宿……。って、かなちゃんバスケ部はいいの!?」
「文化祭の後、先輩たちが私のこと急に褒めだして。何事かと思ったら『ドリームテイルとバスケ部の予定がかち合ったら好きに選んでいい』ってさ」
「本当!? よかったね、かなちゃんっ!」
「いや、先輩たちに私の実力が全然及ばないから大会のメンバーから外されたってだけなんだけど……」
場所は城ヶ崎グループのペンション3棟、1年2組と5組、通信制のメンバーが均等になるようにドリームテイルは3つに分けられた。
1日目はしっかりと練習に充てて、2日目は遊び、3日目は全員で衣装作りを進める。そしてその様子を可能な限り全て生配信しながら互いの様子を共有する。
そうすればドリームテイルに親近感を持ってもらえる上に10人の結束もより強くなるだろうという夏菜恵とまほろの作戦だった。
12月の末、サラが用意した山奥の別荘地は目に眩しいほどの銀世界だった。3つのペンションの重厚な扉がゆっくりと開かれる。
広間やダイニングには三脚とともにカメラが置かれ、配線が床を這っている。このためだけにサラが莫大なお小遣いをはたいて山奥に配信環境を整備させたのだ。
外では雪が静かに降り積もっているが、中に入れば暖炉で薪がぱちぱちと爆ぜている。 カメラの向こうではすでに100人近くが配信開始を今か今かと待っていた。
【A】高宮ゆめみ 石井美優 福松瑠璃子
「はぁ……! あったかーい……」
「こんな山奥までどうやって行くのかと思ったら、まさか送ってもらえるなんてね」
「2人ともいいですか。遅くとも22時には絶対に就寝としますからね」
【B】大垣夏菜恵 村上望 佐谷朋花 菊池花乃
「すごい……。私たち本当にこんなところで3日も過ごすんだ」
「ディナーには美味しいケーキとか出るのかなぁ。楽しみだね、佐谷ちゃん」
「……そうですね」
「私、友達とお泊りなんて生まれて初めてで……。すごく、ドキドキです」
【C】林まほろ 至田紗矢 城ヶ崎サラ
「衣装の生地がたくさんあったけど、車で全部運んでもらえて助かりました、ありがとうございます」
「さあ、荷物を置いたらすぐに配信開始よ。いっそ初日で署名1000筆達成してやろうかしら」
「うふふっ。それはちょっと言い過ぎじゃないかしら。焦らず行きましょう。まほろさんもね」
事情は違えど肩書は同じ。 この作戦は確かにメンバーひとりひとりの個性をより深く生徒たちや校外から応援するファンに知ってもらう機会となった。
双葉総合の1年生には場違いな雰囲気を放つこの場所が、この3日間は包み隠してきた負の感情が漏れ出す舞台と化すことになる。
そんなことは、重いコートを脱ぎ捨てたばかりの10人には想像もつかなかった。




