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十色の永久光石  作者: みいみ
第2章 結束
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第13話:だからこそ、ライブしよう!

 文化祭ライブを終え、石井美優(みゆう)を作曲担当として取り込んだドリームテイルはいよいよ最大の目標へ動き出そうとしていた。

 オンライン会議ツールで繋がった全員に向けて、ゆめみはそれを言い放った。


「私、今年中にみんなで中庭ライブがしたいんだ」

「はぁ!? 今年ってあと1か月切ってんのよ?」


 画面越しに紗矢は身を乗り出す。部屋の窓は結露し、カレンダーは12月1日を示していた。それに気づくとゆめみはぶんぶんと首を横に振った。


「じゃあ1月! 1月の終わりくらい! それなら冬休みに練習できるし、早速美優(みゆう)ちゃんに作ってもらった曲を披露しちゃおう!」

「ったく……。それなら……。いや、無理に決まってる。どうやってステージを用意するのよ。文化祭と違って誰も用意してくれないのよ?」


 紗矢が画面外で携帯を操作しながらスケジュールや予算を計算しながらため息をつく。次に動いたのはサラだった。サラのウィンドウの背景は高校生の家とは思えないほど洗練されている。


「大丈夫。中庭でのライブならそんなに大掛かりな機材はいらないでしょう? だったら行けるわ」

「え、サラちゃん用意できるの!?」

「パパのリゾートからちょっと機材を借りるだけ。明日にでも頼めるからいつでも言って」


 とんとん拍子で話が進む中、瑠璃子はすかさず制止した。


「待ってください。それ以前に中庭の使用許可を取らなければなりません。そもそも非公式の団体に学校が許可を出すとは思えません」

「う――ん。何とかして中庭にステージ建てていいよって学校の偉い人に言ってもらえないかなぁ。あ、そうだ!」


 翌朝、全日制の生徒たちが吐息を白くし身を縮こまらせながら校門をくぐる頃、双葉総合の学内チャットに突如デジタル署名を求める投稿があった。


 ――ドリームテイル 中庭ライブ開催に向けて皆さんの力を貸してください!


 ゆめみの行動は誰よりも早かった。ただ署名を求めるだけでなく、彼女が仲間たちをここまで連れてきた動機と同じ思いが真っ直ぐな言葉ですべて書かれていた。

 実現すればドリームテイルが拠点としてきた中庭を『全日制・通信制の生徒たちにある心の溝』の象徴として、そこでライブをすることを通じて無理やりにでも交流の場所を生み出すという。

 署名の目標は1000筆、通信制を含めた全校生徒の半分だ。無鉄砲なゆめみに仲間たちは苦笑いしながらも最初の10人として名前を連ねた。

 募集から1日が経つころには100筆ほどまで数を伸ばしたが、そこで頭打ちとなってしまった。


 文化祭の実績を武器に掲示の許可をもぎ取ったドリームテイルの手作りポスターを眺めながら、朋香と瑠璃子は中庭ライブへの署名運動の行く末を案じていた。


「ここにあるのは文化祭の写真と、ゆめみさんの思いだけ。本当にこれだけで生徒たちは名前を貸してくれるでしょうか」

「……正直、全く足りません。自分を売り込むならもっとグイグイ行かないと」

「中庭のライブが実現したら何をするのか明確にすればもっと賛同を得られると?」

「うん。それだけなら別に悪いことじゃないでしょ? ただ、見に来てくれる人の楽しみが増えるだけですから」


 そこに、ポケットに両手を入れた通信制の男子生徒たちが通りかかる。2人が視界に入ると、彼らは一気に視線を冷たくした。


「うっわ、あいつら、あのアイドル気取りじゃね?」

「学校でアイドルとか、夢の高校生活に酔って現実とアニメの区別もできないのかよ。自分たちは必死に毎日レポート出し続けてるのに。特にあの"るりこ"ってやつ生意気で嫌い」

「そうそう。アイドルになる前のあいつにシャツのボタンが開いてるって怒られたけどこの前自分がミニスカでポンポン振ってたくせに。髪型だけは真面目ちゃんな三つ編みなのに。マジキモいよな」


 わざとらしい声量で陰口を叩く彼らに、瑠璃子は詰め寄ろうと速足で彼らを追おうとする。そんな彼女の肩に朋香はそっと手を置いた。

 それだけで瑠璃子の足を止めることはできず、朋香の手にぐっと力が入る。


「待って。私たちは今、1番大事なライブを控えているんです。ここでもめ事を起こしたらスキャンダルを増やすだけです、ここは堪えて」

「しかし、あのような侮辱を放っておいては彼らはまたこのような行為を繰り返しその果てにはスクーリングにすら来られなくなる生徒を生む可能性だって」


 瑠璃子の手は個人的な怒りか暴言を吐く彼らを悪とみなした正義感からか、強く握られ震えていた。瑠璃子の拳は、朋香の手で優しく包み込まれた。男子生徒たちは舌打ちしながら大股で歩き去る。


「ステージの下で小言を言うだけの人に、アイドルは務まりません。私がどれだけ厳しいことを言っても、瑠璃子さんは根を上げずについて来てくれたじゃないですか」

「しかし、それとこれとは話が別ですっ……。あのような行為を見逃すわけにはいきません、離してください!」

「今だけは、絶対離しません」


 朋香が見据えた瑠璃子の目には、涙が滲んでいた。


「アイドルはいつだって、アンチの心無い言葉に傷ついてきました。アンチは実力で黙らせる。それが私にとってのアイドル道です」

「アイドル、道……」


 口にしたことの鋭さとは裏腹に、朋香は微かな微笑みを浮かべた。

 


 朋香のアドバイスはドリームテイルの面々の耳に入り、ポスターには次々と新曲披露や新しい衣装といった中庭ライブで予定される要素が追加されていった。

 通信制の生徒たちには未だに白い目で見られているが、全日制の生徒からはドリームテイルは好意的に受け入れられていた。


「すごい、ゆめみちゃんたちまたライブやるんだ! しかもあの美優(みゆう)ちゃんが新曲書き下ろしとかもうガチのアイドルじゃん、聴きたいに決まってる」

「でも、こんなことで本当に通信制の子たちと仲良くなれるのかな」

「正直言うと通信制の子たちってガツガツしてて付き合いたくないな……。ここの朋香ちゃんとか瑠璃子ちゃんも。動画見てると結構怖いし」


 いつからか学校に根付いた、全日制・通信制が互いを嫌う発端を知る生徒は誰もいない。

 はっきりとした理由も分からずに『みんなが嫌っているから自分も嫌いだ』と言い続ける循環がくり返された小さな社会のタブーに、ドリームテイルはさらに深く足を踏み入れようとしている。

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