第1話:それでも、何か変えられる
私、高宮ゆめみ。高校1年生。
生まれてこの方、自分が動けば何かが変わるって信じてた。小さい頃からずっと、ずーっとそうだったから。
例えば幼稚園の頃も。
「えーん、赤のクレヨン返してよ~!」
「だめ! あたしのだもん!」
私は2人の間に割って入った。
「かなちゃん! ケンカはめっ! 半分こ!」
のちに高校まで幼馴染でいることになる、大垣夏菜恵ちゃんの手からクレヨンを奪い取って、ポキッと半分に折った。
ここから、私は何でもできるって信じ始めたんだろうな。そんな感じでやってきた。
学級委員とかそういうタイプじゃなかったけれど、何かが起きるたびに私が率先して前に出て、解決してきた。
当然、それがいびつな形になることもあったけどね。
例えば中学生の頃、修学旅行の班決めで揉めたときとか。
「ほら、あと5分で全員組めなかったら先生たちが勝手に決めるぞー」
「え、どうしよう……」「やばい、やばいって……」
「誰かあいつ入れてやれよ」「やだよ、別のクラスだしいかにも陰キャじゃん」
性別やクラスも関係なく、私は学年集会が終わった体育館を動き続けた。孤立している子を次々誘って、大きな輪を作っていく。
「大丈夫、一緒に行こう?」
「え……? 私なんかが一緒にいても……」
「あなたのためだし、みんなのためだよ」
そう言って集めた私の班は20人越え。これでテーマパークを回るなんて無茶な話だった。
結局パークの中で班はバラバラになって、先生に見つかって当日こっぴどく怒られた。それも過去の笑い話だ。
そして、目の前にはそれでは到底片づけられないであろう大問題が横たわっていた。
ここ、双葉総合高校には全日制と通信制両方のカリキュラムがある。しかも、学期ごとに申請さえすれば移動できる。
それは、個人的な夢……。例えば、えっと。
とんでもなく大きな野望があるとか、ちょっとクラスにいづらくなったとか、多分そういうこと。
そういうことを叶えるために、このシステムは生まれたらしい。
双葉総合の生徒は全日制が赤いバッジ、通信制が青いバッジで区別されている。周りの子たちはたまに『クラスで浮いたら通信制送り』『青いバッジの子とは関わらない方がいい』と噂する。
ただ所属が違うだけ、しかも自由に行き来できる。それなのにどうして仲良くしちゃいけないんだろう。
昼休みも終わるころ、私たちの後ろ、全日制の校舎から絶えずはがやがやと声が聞こえてくる。
友達のまほろちゃんと中庭でお喋りしたのち教室に戻ろうとする私は制服姿で、胸には赤い小さなバッジが輝いている。まほろちゃんも同じだ。
ふと中庭を通りがかった三つ編みの女の子は、私たちとは違う格好をしている。
真っ白なブラウスに黒いリボン、膝丈のプリーツスカートも私たちの制服とは違う。
抱えている参考書も含めて、彼女はとても真面目そうな雰囲気を纏っていた。
「珍しい。あの子、もしかして……」
まほろちゃんの声に反応して、三つ編みの子は顔を上げた。私たちと視線が合うと、くるっと背中を向けて早歩きで去っていった。
その子の胸には、確かに青いバッジがあった。一瞬、その子から睨みつけられたような気がした。
やっぱり、全日制の私たちと通信制で三つ編みのあの子の間には決して超えられない透明な壁がある。
「やっぱり。制服にしては色が違うなって思ったの」
「うん」
どうして真面目そうなあの子が通信制にいるのか、私たちには検討もつかなかった。
すると、予鈴と同時に私たちの真上からかなちゃんの声が降ってきた。
「ゆめみー! もう授業始まるよー!」
「あ、うん! すぐ行くー! ……行こ、まほろちゃん」
私たちは上履きの音を響かせて、小走りで1年5組の教室へ向かった。
ここ、双葉総合高校には自由なシステムこそある。だけど、絶対にシステム以上の大問題がある。
私たち全日制の生徒と、通信制の子たちの間にはとてつもなく深い心の溝がある。それに先生たちはまだ気づいていない。
両方の校舎に挟まれていつも日差しの届かないこの中庭が、その証拠のように今日もひんやりとしていて暗かった。
私が動けば、何かが変わる。昨日ベッドの中でSNSを読んでいたら目に留まった、学校でアイドルをしているアニメの1シーンと私自身の気持ちが、私の中で一気にかき混ぜられた。
そうだ、アイドルをやって学校の空気を変えよう。アイドルのきらきらなら、きっとみんな笑顔になる。全日制の子も、通信制の子も、きっと!
アイドル部を立ち上げることがアニメの中では定石だったけど、うちだと通信制の子は部活に入れないって聞いたことがある。
じゃあ、無理に5人も集めなくていい。何人からでも始められる。授業が終わったらすぐにでも2人の友達に声をかけよう。
私はノートの隅に2つの校舎と中庭を描いて、そこに大きなモニターが輝くアイドルのステージを描き足した。
歌に込めたいメッセージも、どんな衣装が着たいかも次々頭に浮かんで気づけばノートの半分を埋め尽くしていた。
教室に、柔らかい日の光が差し込んでくる。
5時間目は現代文の授業だったけれど、目の前の小難しい物語より何千倍も輝かしい未来が私の中では広がり始めた。




