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ロンリードール

作者: 竹目 樹本

共働きの両親に連れられて、訪れたデパート。

そこで一人娘の5才の少女は、可憐な女剣士の人形の玩具に運命的な出会いをする。

とても大きな全身可動の立派な人形。

それは版権物ではない、玩具メーカーオリジナルのシリーズ物。

一目惚れした少女は両親に精一杯のおねだりをしてその人形を買って貰った。


少女は満面の笑みで人形と遊ぶ、両親の居ない時間の寂しさを紛らわす為に。

何より一目惚れした人形と一緒に、楽しい時間を過ごしたいから。

人形を動かして、優しく語りかけて……少女は人形遊びに夢中になった。

時間を忘れて、寂しさも退屈も消し飛ぶような素敵なひととき。

少女が惜しみなく人形に注ぐ愛情と優しさ、人形にとってそれは全てが掛け替えのない宝物。

純粋な少女の真心が、人形を立派な家族として迎え入れてくれる。

少女の言葉に乗ってまるで陽だまりのような暖かさが、知識が流れ込んでくる。

そのやり取りの中で確かな幸せを感じ、人形に確かな心が宿っていった。


少女と人形の楽しい時間、出会ってから5年の月日が流れたある日……突然悲劇は訪れる。

遠方で一人暮らしの祖母が倒れ、入院する事になった。

入院・治療費の為、母は更にパートを掛け持ちして少女は家に一人で居る時間が増える。

悪い事は続き、度重なる過労と看病疲れで今度は母が少女の目の前で倒れてしまう。

少女は多忙極める父に泣きながら助けを求め、母を自宅から病院へ連れていき結果当面入院する事に。

いつも遊んでくれた少女の表情に不安と翳りが増える。

動く事の出来ない人形は、酷く無力感に苛まれながらそれを見守っていた。

"勉強しなきゃ""しっかりしなきゃ"

いつしかそれが少女の口癖になっていた、せめて父を不安にさせない為の優しさに基づく健気な心遣い。

少女は悲しい瞳で人形に"ゴメンね"と告げて、勉強机の定位置に座ってた人形を窓際の棚へと移す。

人形よりも勉強を選んだ少女は、黙々と教科書に向き合う。

少女は人形遊びを巣立ち、父を安心させる為淋しさも我儘も押し殺し勉強に没頭していく日々を送る。

それでも人形は少女の幸せを心から願い、動けぬ身のまま応援していた。


その日は風が強い日だった、少女はいつものように学習塾に出かけてく。

誰も居ない少女の部屋で、人形はある異変を察知した。

窓の外遠くの暗がりに、静かにこちらを目指し這い寄る魑魅魍魎を発見する。

便利が神秘を駆逐したこの時代、大きな妖怪なんて存在できない。

しかし時代変われど、人が居る限り淀んだ情念が途絶える事は決して無い。

そんな妖怪にさえなれない無数の情念の残滓が寄り集まり、棄てられたゴミに憑依し蠢く卑しい物共。

幸せな人間を穢せば、それで自分が幸せになれると思っている浅ましき敵。

−−魑魅魍魎が、少女を狙っている。

そう確信した人形は、少女から与えられた愛情と心と恩義に報いるべく奇跡を起こす。

人形に宿った心を全身に張り巡らせ、徐々にその身を動かしだした。

愛する少女を守るべく、人形は剣を手にして駆け出す。

少女に別れを告げられない事だけを悔やみ、しかし強い決意と覚悟を抱き開きっぱなしの窓から家の外へ飛び出した。

全ては大切な少女を害する魑魅魍魎を斬り伏せる為に。

関節の自由度は高く鋭利な剣があれば、蠢く魑魅魍魎など今の人形の敵ではない。

剣士人形の本領発揮、鮮やかな剣技が魑魅魍魎を斬り捨てた。

斬られた魑魅魍魎は呆気なく霧散し、憑依元のゴミの残骸だけが無残に散らばる。

だがその数にはキリがない、影から忍び寄る無数の魑魅魍魎共。

人形は一人壮絶な戦いへと身を投じていく。



−−5年後、幾度も季節が巡り少女は15才になっていた。

受験を控えて勉強に励む毎日。

祖母も母も無事に退院して友人に囲まれて、多忙ながらも充実した日々。

少女の表情に明るい笑顔が戻っていた。

穏やかな日差しの中で、学習塾で知り合ったボーイフレンドと仲良くお喋りしてる。


その様子を微笑ましく物陰から見守る、主思いの人形が居た。

素体の経年劣化に加えて、蓄積したダメージで剣も本体もボロボロ。

それでも少女を常に見守り続け、彼女をつけ狙う魑魅魍魎から人知れず守り通した人形。

最早倒した数は星の数、幾度もの襲撃を全て残らず討ち滅ぼしている。

その事実を少女は知らない。

少女は人形の事をすっかり忘れている、きっと顧みられる事は無いだろう。

けれど彼女が幸せに健やかに笑顔の輪の中で生きていてくれるのならば、それで良い。

それが、それだけが人形の本望。

しかし人形は自身の限界が確実に迫っている事を悟っていた。

ダメージは極めて深刻で、関節部にガタが来てて至る所にヒビが入り弱っている。

一撃で倒す所か時折防御が叶わず、反撃の痛打さえ貰う有様。

最近は魑魅魍魎相手に遅れを取りそうな気配さえ濃厚に漂う。


背後の影で一つまた一つと茂みが動いた、人形はヒビだらけの剣を手に振り返る。

そこに蠢くのは大型の魑魅魍魎、今まで見た中でも一番大きく人形の背丈に迫る程。

無数のゴミが連なった群体が、少女を付け狙っていた。

間違いなく今の状態で相手取るには危険な相手。

勝つのは難しい強敵に間違いない、だけど絶望的でも決して引き下がれない。

この背の先には守りたい少女が居る、断じて魑魅魍魎の好きにはさせないと意を決し剣を構える。

例え勝ち目が薄くとも退かない、人形はそう固く心に決めていた。

倒れても何度でも立ち上がり、最後の最後の最後まで身命を賭して少女を必ずや守り抜くと。

自身が滅ぶ事よりも、少女の笑顔が幸せが曇る方が耐えられない。

人形は燃え盛る闘志と不退転の覚悟と燦然と輝く勇気を抱き、たった一人で立ち向かう。

ロンリードール    作詞・竹目 樹本


1.

思い出くれた 大事なあなた

人形遊び から巣立ち

もう遠くに 見える その姿

物陰から 見守ってる


どうか光 ある世界 

日差しの中で 生きて欲しい

影から寄り来る 魔の手は全て

私がこの身を 賭して討つ



壊れても 砕けても

例え 顧みられなくても

優しいあなた 守る為

一人戦う ロンリードール



2.

あなたと共に 過ごした日々で

愛情を知り 心知る

この恩決して 忘れない

あなたが私 忘れても


どうか笑顔 輪の中で 

幸せ色に 生きて欲しい

それを邪魔する 悪意は全て

私がこの身を 賭して討つ



汚れても 倒れても

意地でも立ち 上がってみせる

不屈の闘志 燃え上がる

戦う ロンリードール



寄り来る魔の手 刺し違え

滅びの淵の ロンリードール

もしも輪廻が あるのなら

あなたの傍で もう一度…

最近作詞に没頭していまして、255曲分書いた中で一番の会心作をお届けします。

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― 新着の感想 ―
竹目さんの力作、新しい一面を魅せて貰えて感動しました。 物語をわたしは書いたことがないので、詳しくは述べられませんが、言葉にならない熱量が設定を越えて人形に魂を与えてゆく描き方に惹き込まれました。 人…
歌詞のほうを先に拝読し、これだけでも素敵なファイトソングだと思いましたが、ストーリーを読んでなおさら味わいが深まりました。 ドールは勇ましくて健気ですね。ラストで捨てられてしまうんじゃないかとハラハラ…
ロンリードール、人形を家族として受け入れてくれて、愛情を注いでくれた少女を、迫り来る魑魅魍魎から必死に守ろうとする姿がとても心に残りました。 たとえ少女が気付かなくても、その笑顔と幸せを守るために。…
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