第3話・デラレネェ・ラビリンスにいるミノタウロスの『ミノ華』はメスの乳牛
デラレネェ・ラビリンスの深部へ向って配信を続けながら進む闇姫が歩きながら時々、自分の胸を寄せて持ち上げているのを見て、不思議そうな顔でテ・ルルが質問する。
「前々から気になっていたのデスが、その胸を押して寄せる仕草はなんデスか?」
辰砂が胸寄せをしながら答える。
「これは、今世に転生したウチが得た能力……テ・ルルも、ウチと同じ容姿で転生を繰り返してきているから、なんとなくわかるでしょう……転生で失う能力もあれば、加わる能力もある」
「わかりますデス……あたしたち四人は、転生を繰り返して出会い続けているデス……その胸を寄せるのが、辰砂の新たな能力デスか。その胸寄せにどんな効果が?」
「セシウムに喜んでもらえる」
「へっ?」
「結構、セシウムにはウチの胸寄せは好評でね……イチャラブする前の前菜になる……あはッ」
辰砂とセシウムは、前世から続くイチャラブの恋人同士だった。
辰砂はセシウムのプラーナを時々、活動エネルギーとして吸収している。
テ・ルルが少し呆れ気味に言った。
「そうデスか……」
「テ・ルルの、今世の転生で得た能力って何?」
「それは、追々」
男湯の方から、アンチモンがセシウムをふざけてブレンバスターでお湯の中に投げ込む、豪快な水飛沫の音が聞こえ。
テ・ルルが男湯に向って叫んだ。
「お風呂でプロレスごっこは、やめてくださいデス!」
◇◇◇◇◇◇
次の日──チーム闇姫は、デラレネェ・ラビリンスの深部へ向かった。
歩きながらテ・ルルが辰砂に言った。
「それにしても、巨大ナメクジたちが物わかりが良くて助かったデス……元々は雑食性で人間を食べるのは、そんなに好みじゃなかったんデスね」
「彼らはラビリンス内で、キャベツとかレタスを自家栽培して、それを食糧にしていたからね」
◇◇◇◇◇◇
ラビリンスを奥へと進む、チーム闇姫の前に門が閉じられた、関所のようなモノが見えてきた。
関所の前にある小屋の中から顔に傷がある、海賊から迷路賊になった男たちがゾロゾロと出てきて。
チーム闇姫に、抜いた剣先を向けて言った。
「ここを通りたかったら通行料を払いな」
通行料の値段を聞いてみると、とんでもなく高額な通行料だった。
視聴者からのブーイングコメントが流れる。
《ブーッ! メチャクチャ、高いぞ通行料》
《そいつら、たぶん人相悪いから、悪者だと思う》
《悪党はやっつけちゃえ!》
辰砂たちが通行料を払わずに、木製の門を押して通過しようとしていたチーム闇姫に、剣で襲いかかる迷路賊。
アンチモンが腰の手斧で、迷路賊たちの海賊剣を弾き飛ばす。
怒り狂う迷路賊たち。
「てめぇ、赤パンツの覆面レスラーのくせに、斧を持っているんじゃねぇ!」
拳で殴りかかってきた男たちの貧弱パンチを、そのまま強靭な筋肉の体で受けるアンチモン。
「硬ぇ、なんて体してやがる……素人相手に卑怯だぞ」
「そうか、それならこれでどうだ」
アンチモンの肉体が獣化していく。
バキッバキッ、ニュル……バキッガキッ……ニュルル。
途中に奇妙な擬音を交えて、アンチモンの体が白っぽい体に変化した。
手と足が軟体生物のような手足に変わった、アンチモンが迷路賊たちに向って言った。
「これでいいだろう、さあ思いっきり打ち込んでこい……全部、受け止めてやる」
迷路賊たちのパンチが、アンチモンの体にめり込む。
「な、なんだこの体は? 目もアーモンド型のグリーンアイになって……おまえ、人間じゃないだろう!」
「オレはオレだ!」
軟体アンチモンは、プロレス技で次々と迷路賊たちを沈めていく。
迷路賊の一人が、隠し持っていた短剣を見えないように背中側で抜いて、辰砂に襲いかかろう準備をしていた時──天井からテ・ルルの声が聞こえてきた。
「それは卑怯デス」
迷路賊が天井を見上げると、手足の裏側を天井に付着させて、ヤモリのように張りついたテ・ルルの姿があった。
長銃を背負った背中側を天井に向けたテ・ルルが呟く。
「異賀忍法【ゲッコー】デス」
天井から落下してきたテ・ルルは、そのまま迷路賊にマウントして連打で倒す。
視聴者のコメントが流れる。
《忍者だ! 忍者だ!》
《迷彩模様のパンツ、チラッと見えたぁ!》
《オレも、マウントされたい!》
チーム闇姫は、さらに奥へと進んで出口に到達した。