第1話・ウチらが配信します!未知の魔境
作者は○○配信の類は一度も観たコトがありません、だから異なっている部分もあるかも知れません。
手持ちの配信撮影カメラのファインダーを覗きながら、撮影担当の配信者ネーム【闇姫】こと『辰砂』が、軽い口調で言った。
「あらららっ、召喚された途端に凶暴なサイクロップスに体を真っ二つに、引き裂かれちゃいましたねぇ……痛そうですねぇ」
メイズダンジョンの地面には、一組の男女が上半身と下半身を、引き裂かれ内臓が出た状態で呻いていた。
「うぅ、なんだよ……ここはどこだ? オレの体どうなっている?」
「痛い、痛い、あたしの足が目の前にある?」
数体のサイクロップスたちが、血で汚れた手をタオルで拭きながら、召喚されてすぐに引き裂かれたカップルを眺めながら飲み物を飲んでいた。
配信撮影担当の辰砂が、迷彩メイド服を着ているインタビュー担当の『テ・ルル』に言った。
「テ・ルル、体を真っ二つに引き千切られて、地面に転がされた現世界人のバカップルにインタビューしちゃって」
「了解デス」
背中に長銃を背負ったテ・ルルがマイクを片手に、悲惨な状況になっているカップルにマイクを向ける。
「今、どんな気分デスか?」
痛みが消えてきた、高校生のバカップルが答える。
「なんなんだよ、コレ? オレたち校舎の階段の踊り場でハグしていたはずなのに?」
「もう、痛みも、感じなくなってきた……死ぬの? あたしたち死ぬの?」
配信されている動画には視聴者の書き込みで。
《すげぇ、痛そう》
《やっぱり、外の迷路迷宮は危険な場所なんだ》
《見たかった、残酷シーンきたぁぁぁ》
《カップルさん、ファイト!》
そんな人ごとの書き込みが、流れていた。
配信を中止した辰砂が、照明担当でイチャラブ恋人の『セシウム』に言った。
「セシウム、二人に再生治癒の金の粉を振りかけてあげて……アンチモンは、サイクロップスたちに謝礼を」
黄金色の防具を身に着けた、配信ネーム【太陽王子】の『セシウム』が、金色に変色した体から黄金色の粉を体が真っ二つにされた、カップルに振りかけて。
覆面をしていて、赤いレスラーパンツを履いて、腰に手斧を装備したプロレスラー『アンチモン』がサイクロップスたちに謝礼が入った紙封筒を手渡す。
セシウムの顔から振りかけられた黄金の粉を浴びた、男女の上半身と下半身が磁石で引き寄せられるように、接近していくのを見た辰砂が慌てて言った。
「そっちじゃない、男の上半身には男の下半身、女の上半身には女の下半身……アンチモン、癒着する前に方向修正してあげて」
アンチモンが、性別の違う体に近づいていこうとしている、千切れた体を正しい位置にもどす。
「男の下半身はこっち、女の下半身はこっち」
まるで合体ロボットのように、癒着再生して元にもどった男女が上体を起こす。
「もう、ぜんぜん痛くない……説明してくれ、ここはどこなんだ? 何がどうなっているんだ?」
「あたしたちを、元の場所に戻して! あなたたち誰?」
インカムを通じて誰かと通話をしている辰砂は、カップルの質問を無視して独り言のように会話する。
「そうですか、今回の配信も再生回数爆上がりで今月も、ウチらの配信チームがトップですか……えっ、序福専務が召喚した別現世界人のバカップルに、東王母社長が占って出た結果を伝えるんですか? まぁ、序福専務がそう言うなら伝えますけれど」
インカムの会話を終了した辰砂が、カップルの男の方を指差して言った。
「あなた、宝クジを一枚だけ買いなさい……高校生でも年齢を偽ったり、成人した親戚に頼んで買ってきてもらったりして……その買った一枚の宝クジ、大当たりするから」
「本当か? ラッキーじゃないか」
「その代わり、親戚縁者が角砂糖に群がるアリンコみたいに、寄ってきて身内同士の骨肉の争いに発展するから」
「……ちょっと、待て! そんな未来知りたくは……」
男子高校生が最後まで言い終わる前に、姿が消滅して元の世界に帰った。
恐怖している女子高校生を指差して、辰砂が言った。
「あなたに、もうすぐ同じ歳の弟ができる……不倫していたお母さんの隠し子よ、今のお父さんは離婚して出ていって──新しい若いお父さんが弟を連れて家に来る……家族が増えて良かったわね」
「えっ、えっ、え──っ??」
女子高生の姿も消滅した。
別の現世界から召喚しれた人間が去ると、辰砂は質問されていた答えを告げた。
「ここは、別の現世界と似通った世界……異世界と言ってもいい、全体が迷路と迷宮で構成された惑星」
辰砂の話しだと、緑色のマリモのような惑星の中に、迷路や迷宮が幾重にも重なった階層やアリの巣のようになって存在している特異な星だった。
「この世界の住人は、狭い地域に固まって生活していて。迷路や迷宮には近づかない……だから、ウチらみたいな配信者がメイズダンジョンの様子を娯楽として配信している」