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【4】 聖なる地は血で染まり

【4】 聖なる地は血で染まり


 聖水の湧く湖は、……死体の山で汚されていた。


 大森林の奥深く、本来であれば魔族には知られていないはずの人類にとっての安息地に辿り着いた僕と魔王を迎え入れたのは血の池地獄とも形容すべき湖で、そこには数多くの魔族の死体が浮かび、キラキラと光の粒子を舞い散らせていた水面は臓物で埋まっていた。


「ふむ。待ち伏せというよりも迎撃であるな」


 冷静にここで起きた事を分析し、述べてくる魔王。

 言われなくても分かる。

 死体の多くは湖の中に沈み、溢れている。


 流れ出る先の小川が死体で埋まっているから流れが悪く、いくら聖水が湧いてきた所で穢れが流れ出ることはなく、ここに留まり続けている。

 そんな感じだ。


「そもそも、こんな場所が魔族領にあることが驚きではあったんだけど」


 スケルトンや死霊と言った一部の魔族にとっては聖水とは劇薬であり、そうでなくとも体の動きを鈍らせる程度のデバフを貸すことが出来る。


 見回してみて多く見られるのは悪魔族系の魔族や魔物、魔獣でドラゴン族系の姿は少ない。

 つまり、ここでマーリンとユリアは一戦交えることにしたのだろう。


 魔王の見立て通り、聖水を背負っての迎撃戦。


 摩訶不思議な奇跡を引き起こす程の回復量はないとはいえ、神聖職にとってはドーピング剤として使用することが出来る。

 マーリンに防御癖を張らせ、ユリアは神聖属性の魔法でひたすら迎撃。

 聖水の湖が使い物にならない程度には返り討ちにし続けた、という事なのだろう。


「まぁ……、確かに魔王が討たれたいま、この湖の利用価値は殆どないだろうけどね」


 魔王領の最奥。

 魔王城に踏み込む手前の休息域を利用する者など魔王目的の勇者以外に存在しないだろうし。


「生きて帰るのが大前提、か……」


 以前、ここで休みを取った時にマーリンに言われた。

「あたしはアンタに付き合って死ぬ気はない」と。


「実際死ぬのは僕一人で良かったんだ。僕、一人で」


 死人となったこの身体に聖水がどのような効能を齎すかは不明だったけど、血の池地獄となった湖から神聖な力はほとんど感じられない。

 恐る恐る足を踏み入れて見て、平気な事を確認してから水面の上に浮かぶ其れの元へと向かった。

 ゆっくり、心の内でその準備を整えつつ。


「……マーリン」


 口に出した彼女の名が、どろりと舌の上を溶けていくかのようだった。




「なんであたしがアンタに付き合わないといけない訳?」


 魔王城に踏み込む前に一旦休みを取ろうという事になり、慣習というのは必要に応じて生まれるものなんだなーとしみじみ考えていた僕にマーリンは口を尖らせて言った。


「大体、火を起こしたければあたしが魔法で出してあげるって言うのに、なんで枯れ木なんて……」


 ぶつくさぶつくさ。


 この旅の中で知った事だけど、マーリンはとにかく肉体労働が嫌いだ。

 身体を動かすのが嫌いだっていうのはなんとなく分かっていたのだけど、手が泥で汚れる仕事を特に嫌う。

 進んで汚れ事を引き受けようとするユリアとはまさに正反対。

 かといって綺麗好きなのかと言えばそう言う訳でも無く、伸ばしっぱなしになっている灰色の髪はぼさぼさだし、ユリアにチクチク言われているのをよく耳にしていた。


「マーちゃんも女の子なんだからもっとお手入れしないと!

 せっかくの可愛いが台無しですよ? 神様だってお怒りに為られます!」


 一体何処の神が小娘一人の身だしなみに怒りを露わにするというのか。


 ――髪質の神様とかかな。


「なにぼけっとしてんのよ!」

「あで」


 せっかく集めた小枝たちを投げ付けられ、僕は渋々と地面に転がったそれらを拾い集める。


「そいえばマーリンってさ、元々は魔法使いじゃなくて学者だったんでしょ? なんで魔王退治になんて名乗り出たの?」

「ぇ」


 カエルでも踏み潰した時みたいな声を出してマーリンは固まる。


「いや、このまえユリアから聞いてさ。本当なら王都のなんとかっていう研究所に飛び級で入学するような研究肌なのにすごいよねって」

「ゆぅーりぃーぁー……」


 お腹の深い所から恨み深そうに声を震わせるマーリン。

 本人は大まじめにやっているのだろうが元々小柄なのも相まってそこまで怖くない。

 どちらかと言えばビブラートを失敗した歌みたいだった。


「アレスとは違って実家も健在なんだろ? お金に困ってる風じゃないのは装備とか見てても分かったし、足りない分は補填したりもしてくれたよね? なんで?」

「なんでって、あんた……」


 もごもごと口の中でマーリンは何かを呟き、「そういうとこよ!」といって僕の胸を押して森の中へと入っていく。


「あ、ちょっと一人じゃ危ないって」

「なら一人にしなきゃいいでしょ!」


 微妙に噛み合わない会話に呆れながらも僕は慌てて後を追いかけた。


 マーリンはいつもそうだ。

 僕らの中で一番ちっこい癖にお姉さんぶって、リーダーを気取る。

 アレスはああ見て面倒見が良いから好きにさせてやってるけど、危なっかしいったりゃありゃしな、「あぎゃっ」

 言わんこっちゃない。

 目の前でマーリンが転んだ。


「大丈夫かよ……」

「うぅ……」


 涙目になる天才魔術師様を抱え起こし、そのさまがつい、妹に重なって腕が頭に伸びた。


「……………………」


 違うよな。と寸前の所で思い留まる。

 マーリンは仲間で、背中を預ける戦友だ。

 確かに色々と幼児体形で、同い年とは思えないほどに幼くは見えるけど、子供扱いは、違う。


「…………なんで撫でないのよ」


 でも、マーリンは恨みがましそうに僕を睨んだ。


「撫でて欲しいの……?」


 あまりにも意外な発言に呆ける僕をマーリンの顔は見る見るうちに赤くなっていく。

 それこそゆでられたタコみたいに。


「ば、ばっかじゃないの!? だ、誰がアンタなんかに……!」


 言いつつも手は出てこない。

 ただ棘のある言葉を返して来るばかりでその場から動くことはなく、「…………で、どうすんのよ……?」俯きがちにマーリンがいった。


「え、えっとー……?」


 困った僕は視線を泳がせるが周囲にこれと言った危機も無く、アレスやユリアの近づいて来る気配もない。

 二人は最後のまともな夕食づくりに励んでくれているようだった。


「じゃ、じゃあ……」


 と、僕はおずおずマーリンの頭の上に手を乗せ、妹によくしてやったみたいに頭を撫でる。

 さわさわと、あまり手入れの行き届いてはいない髪が、指に絡まりそうだ。


「……長旅なんだから、仕方ないのよ。


 いつまで経ってもさらさらヘヤーのユリアがおかしいの」

 頬を膨らませて告げるマーリンはなぜか拗ねていて、僕は何と答えたものかと首を傾げる。


「ちっちゃくて、可愛いと思うけど……」

「ふんっ」


 ぼすっと、ちょうどみぞおちにマーリンの拳が入った。


「うぐぐ……」

「……ちっちゃいいうな」

「ごめん……」


 コンプレックスなのは知っていたけど、妹みたいだなって思ったら、つい……。

 僕はお腹を押さえつつも頬を赤らめてそっぽを向いているマーリンを改めて観察する。


 元研究者の天才魔術師……。


「ありがとうね」

「へ?」


 つい口を突いて出た言葉に驚いたのはマーリンだけではなく、僕自身もだった。


「なんとなく組まされたパーティだけど、ここまで来れたのはみんなのおかげだし、マーリンが居なきゃどうにもならなかった」


 例えば大群のコウモリ系魔ものに襲われた時とか、川の中から半魚人が襲ってきた時とか。

 剣や弓では対処できない場所からの攻撃を防いでくれたのはマーリンで、いつも範囲攻撃で状況を打開してくれたのもマーリンだ。


「君が勇者候補生として名乗り出てくれたのは人類史に残る奇跡だね」

「……バッカじゃないの」

「あはは……」


 後半の部分はなんとなく気まずくなって小難しい言い方をしようとして見たのだけど、失敗したみたいだった。


「幼馴染が、いたのよ」

「へ……?」


 突然零れ落ちたとでも表現するのが妥当なマーリンの物言いに、僕は思わず聞き返した。


「幼馴染! 幼馴染が、勇者討伐に名乗りを上げたの」


 言葉自体はヤケクソに近かったけど、なんとなくその言葉の裏にある悲劇を僕は感じ取っていた。


「それで……?」


 この話しを続けて良いのか、それとも、聞かなかったことにして聞き流すべきなのか、少しだけ悩んで、僕は前者を選んだ。


「その人とは、再会できた……?」


 そう、例えば勇者養成機関だとか、実はアレスがそうだったのだとか、そういう幸せでお気楽な話を求めて、尋ねて。


「……死んで帰って来たから、かたき討ちしなきゃってなったの。――分かるでしょ。アンタなら」


 ……あぁ。


 と、妙に納得のいく部分があって、魔族に対する攻撃的な姿勢とか、アレスとは異なる種類のやる気の持ちようとか、これまでの旅でそう言ったマーリンの憎しみ、みたいなものは幾度となく目の当たりにして来ていて。


「魔王を討ったら、それは達成される?」


 僕は少しだけ、哀しくなった。

 普段はお気楽で、何の悩みなんて無い。


 ただ魔法をぶっ放すのが好きで、僕やアレスを小馬鹿にするのが生き甲斐、みたいな顔をしているマーリンがこれまでその想いをひた隠しにして来たことも、

 そんな『くだらないこと』に縛られているという現実も。


「……さぁね」


 僕の心配を余所にマーリンはあっけらかんと言ってのけた。


「アイツは一期生だったし、死んだのももっと手前。私達が殆ど素通りしたような場所よ」


 なんて事の無いように言っているけれど、そんなはずがなかった。


「……旅の初めの方で一回だけ、休みたいって言いだしたのって……」

「ま、そういうこと」


 小柄な体型をコンプレックスに感じているマーリンは自分から休みたいとはめったに言い出す事はなかった。


 ただ、ぼんやりと、

 ほんとうにぼんやりとダケド、

 旅の始まりの頃。魔族領に入って少ししたところで「ちょっとだけ気分が悪いから休ませて欲しい」と言い出したことがあって、ユリアが酷く心配していたのを記憶している。


「……そっか、じゃああの場所が……」

「勘違いしないでよね」


 同情の色を滲ませた僕にマーリンはきっぱりと言ってのけた。


「かたき討ちだって思ってるけど、これは別に彼奴の為だけじゃないし、そんなことしたって彼奴が生き返る訳でも無いことぐらい分かってるから」


 小さな身体に似合わないほどの強い光をその目に携えて、彼女は告げる。


「あたしがここにいるのはアンタたちみたいな犬死候補生の尻を叩くためよ。


 無駄死になんて、させないから。覚悟しなさいっ?」

 勝ち気で、負けん気が強くて。

 その癖子犬のような印象を抱かせる少女は不敵な笑みを携えて僕の胸を小突く。


「……分かったよ。マーリン」


 僕は頷き、その頭に手を乗せる。


「君の事は、僕が守るから」


 かつて、妹によくそうしてやったように、優しく頭を撫でてやった。


「は、はっ、はぁあ!? 全然わかってないじゃない!?」


 騒ぐマーリンだったが気にしない。

 あははは、と僕は揶揄いながらマーリンをこねくり回し、焚火の為の枝を掻き集めて野営地へと引き返していった。

 死中にありながら、色褪せない、楽しい思い出だった。




「どうやらここで尽き果てたようだな」


 魔王が水面に浮かぶ粉々の杖を見て呟く。


「……天命を全うしたって事だよ」


 聖水の湖というよりも血の池地獄とかした湖の浅瀬にひざ下までつかりながら、それに手を伸ばす。 そこにマーリンの遺体はなかった。

 浮かんでいるのはどれも魔族の死体だ。

 僕の、仲間の死体は一つもない。

 そのことが分かると肩から力が抜けた。


「……はぁ」 


 いつの間にか息まで止めていたらしい。死んでいるとそういう事すら気付きづらくなるのか。


「杖が壊れたから撤退したんだ。元よりここで全員を迎え撃つなんてことは不可能だったろうから」


 聖水に体を浸していたとしてもユリアにも限界はあるし、その恩恵をちょっとした回復薬程度にしか得られないマーリンにとっては長居した所で消耗戦になる。

 数を減らし、追撃隊の勢いをそぐことが出来たのなら再び逃げるしかない。


「自爆宝珠を使った形跡もないから、本当に迎撃に徹して時間稼ぎって感じかな……」


 一応、王都への連絡用のハトを、ここに隠して置いた。

 その籠が空になっているのをさっき見つけたので回収部隊が来るまでの時間稼ぎ――……。


 希望があるとすれば、人類の軍隊。王国騎士団が勇者の出迎えに向かってきているという情報を得た魔族が追撃を諦めることだけだ。

 実際、魔王と刺し違える形で僕が、

 追撃隊を食い止める形でアレスが戦死している。


 そしてこの湖でもかなりの損害を出し、全軍を指揮する立場の魔王が不在とはいえ、そろそろ潮時。手打ちにしようと現場の指揮官が言い出してもおかしくは無いだろう。


「お前らの氏族社会ってどの程度まで横のつながりを意識するものなんだ?」


 マーリンの杖の欠片に触れながら僕は問いかける。

 魔王は少しだけ考えてから、「殆ど弱肉強食と変わらぬ」と鼻で笑った。


「貴様らは魔王軍などと言ってはおるがな、それも風習に則ったものであり、我亡きあとは再び戦乱の世よ」


 魔王とは数百年単位で復活する自然現象みたいなもので、他の魔族にとっては天災みたいなものと変わらないのだという。


 誰の腹から生まれ落ちる訳でも無く、魔素の豊富なこの大地において自然と魔素だまりが発生し、そこから生まれる「魔王」という生き物。


 他の魔族とは比較にならないほどの魔力を有し、魔族の頂点に君臨するバケモノ――。


「その統治者が死した後はどの氏族が権力を握るかで戦乱の時代となる」


 つまり、魔王軍とは名ばかりで、実際の所は人間の勇者によって魔王が討たれるまでの期間の休戦協定みたいなものでしかなかったのだろう。

 全ては魔王亡き後の時代の為の戦乱を見据えた準備期間。


 人類領に侵略する魔族の行動が突発的で、それなりの損害が出れば撤退していくのも人類を滅亡させる事が目的なのではなく、物資を奪い取り、後に備えるのが目的だったと言う訳だ。


「お前を殺す為に人類が数百年かけて準備してきているって言うのに、お前らはお前が死んだ後の為に活動しているだなんて皮肉なもんだな」

「ふん。我にとってはどうでも良い事だ。所詮は我は魔王。その後の世界の事など興味はない」


 饒舌に語らうくせに根っこの所ではやはり相容れる事は無いらしい。


「腹が立たないのか?」


 湖から陸地へとあがり、マーリンたちの去って行った方角を探しながら尋ねる。

 魔王軍を名乗りながら本気では戦争をしていない配下たちに、「思う所はないのか?」

 尋ね、魔王はしばらく沈黙する。


「……だが、世界を支配してしまえば我は永遠に魔王であるからな」


 聞きようによっては少し寂しくも思える発言に、僕は眉をひそめる。


「魔王であるのが嫌だとか?」

「後悔はしておらぬ。そもそも、望むべく生まれなどは選ぶことは出来ぬからな」


 生首は揺れながら続ける。


「戦う目的など、あって無いようなモノだろう。貴様らは誰かの為、世界の為と言って死にに来るが、我々にとっては生きることとは常に殺し、殺されるという事の裏表でしかない。戦いに崇高な目的を張り付けたとしても、結局の所は武力の行使。殺戮に意味を持たせた所で、貴様らが豚や牛を食う為に殺すのと大差ない」


 魔王然とした口調で告げられ、僕は睨み返す。


「お前と一緒にするな」


 他者を殺す為に存在しているような奴らと。

 思いやりの欠片も持ち合わせていないような連中と――。


「だからこそ、我らは矛を交えたのだろう? 互いに分かり合う事が出来ず、互いに相容れる事の無い存在としてこの世に生まれ落ち、殺し合う事でしか互いの在り方を否定できはしない。そこに大義名分などは存在せず、ただ、殺し合うが為だけに互いを認識している。――良いか、我を討った者よ。貴様の偉業は歴史に刻まれるであろうがな、いずれは風化し、伝承となる。それはただの物語だ。そこに貴様らの想いなどというものは記されはしないし、必要ともされる事はない。ただ、魔王に立ち向かい、打ち滅ぼした。その英雄譚こそが、人類史にとっての栄光であり、貴様らの存在価値なのだ」


 これは、……悪魔の囁きだ。

 耳を貸す必要なんて無い。


 身体を失い、喋る事しか能が無くなった死にぞこないが、その残された力でもって僕を誘惑しようとしている。

 利用しようと、しているだけなんだ。


 だから、


「……うるさい」


 吐き捨て、自分に「構うな」と言い聞かせながら歩みを進めた。

 ここで一戦交えたという事はユリアとマーリンとの距離も縮まっているハズだ。

 もう少し、あともう少し頑張れば二人の元へと辿り着ける。



 ――しかし、ぽろぽろと、頬からこぼれ落ちるものがあった。


「……?」


 そっと、指を伸ばす。

 涙かと思ったけど、そうじゃない。

 頬を伝い、剥がれていくのは皮膚で、肉だった。


「っ……」


 思わず、顔をしかめる。


 それは僕の人間性で、皮膚や肉と言った生きていた時の名残だ。

 いつまでも、この時間が続くとは思ってはいない。


 所詮は歩く死体で、生きた人間とは違う。


 ただの死にぞこないの、神様の気まぐれか、ユリアやマーリンの蘇生魔法によって繋ぎ止められているだけの存在に過ぎない。

 いまの僕に、何が出来ると言う訳でも無いのだろう。

 あるくだけでも身体が崩れそうになっているというのに、こんな身体で二人の元に向かったって――、「……無駄だとしても、良いんだ」


 自分で納得し、再び歩みを進めた。


 僕は歩く死人だ。


 それでいい。


 死人として彼女達の元へと向かう。

 例えこの死が、勇者の名に相応しくはない行いだとしても。

 仲間が戦い続けている限り、僕は死ぬわけにはいかなかった。

 あの夜、アレスと誓い合ったように。

 アレスがそうしたように。



 僕が、仲間を生きて、帰すんだ。

 この魔族の支配する世界から。

 彼女達が幸せに生きてくらせる世界へと。



 その想いだけを抱いて、歩いた。


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