表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/19

【11】 死霊王と生ける死体

【11】 死霊王と生ける死体


「ユリア! マーリン!」


 古城に向かって走って来ていた小さな人影が、巨大な骸骨のバケモノによって圧し潰されるのが見えた。

 思わず助けに走りたくなるが、その気持ちはぐっと堪えて、目の前に立つ古びたマントを羽織るスケルトンに向き直った。


 死霊王こと、デッドキング。


 人類側の分類で言えば人語を介し、複雑な魔法を行使するスケルトン・ウィザードと呼ばれる魔族で、死霊の魂が死体に憑りついたデッドマンやスケルトンとは異なり、元は人間だったが死を超越し、肉体が滅びても尚、魂を現世に留めているという少し変わった経歴を持つバケモノだと聞いている。


「ネズミが入りこんでいる事には気付いていましたが、まさかまさか、アンデッドとは……」


 眼球の代わりに怪しげな光の灯る目がこちらへと振り向き、骨で出来た杖を打ち鳴らした。


「その様子ですと私のように人間の自我を保ったままのようですね、どうです。共に来ませんか? スケルトン共は元より、デッドマンたちも知性が低く、話し相手に飢えているのデスよ。実に死に伏してからの数百年……。話し相手と言えば死に際の人間どもばかり……。他の魔族共は私の事を魔物擬きといって小馬鹿にするし、元が人間だからか共同戦線は決して張ろうとしない……! 氏族至上主義もここまで行くと哀れでなりませんね! 魔王復活を待って人類領に攻め込み、十数年の戦争で領地の綱引きを行うだなんて、非効率極まりない! そんなことをしているからいつまで経っても人類を滅亡させる事が出来ないのデス! 私の手にかかれば全ての死者を死人として蘇らせ支配する事だって可能だというのに、あの龍頭や魚共は話を聞こうともしない……!」


「…………なんか、すんごい不満溜まってるっぽいけど、微塵も同情しないからな……?」


 なんならそういう不満は魔王が聞くべきなんじゃないと思うけど、槍の先に吊るした生首はずっと黙り込んでいた。


 おい、そういうとこだぞ、魔王。


「蟲王に至っては死者の肉をつまみか何かと勘違いして――、」

「もういい!」


 僕は道中、拾って来た長剣を引き抜き、構えた。


「お前を殺してみんなを救う……!」


 死霊魔法は術者が死ねば止まる。あの巨大な骸骨のバケモノも、このスケルトン・ウィザードを倒せばただの骨の塊になるはずだった。


「既に死を迎えた者同士、仲良くは出来ませんか」

「出来る訳が無いだろう! 僕は、俺達はっ……、戦争を終わらせる為に来たんだ……! お前みたいなやつを放っておくことなんて、出来やしない!」

「こうして言葉を交わし合えるというのに、残念デス」


 奴が仗を鳴らすと何処からともなく、ケラケラと音を立てながらスケルトンたちが這い出て来た。

 この古城で死した兵士たちのものなのだろう。

 古びた甲冑を身につけ、武器を手に操り人形と化したかつての同胞に思う所はある。


 ――だが、いまの俺にしてやれることは彼等をいま一度、眠らせてやることだけだ。


「いつまで経っても、ただのバラバラ死体だと思うなよ」


 言って踏み込み、腕を振るうと二の腕から先がすっぽぬけた。


「……は?」


 死霊王が間抜けな音をもらす。


「言ってろ」


 俺は剣を握ったまま空中を「投擲」された腕の先の感覚に集中し、「腕を振るった」。


「なんと!」


 一直線に死霊王の首を跳ねんと振るわれた剣は割って入ったスケルトンたちによって防がれるが、「まだまだぁ!」


 右へ、左へ、下から上へと。

 剣を握った腕は空中を飛び回り、死霊王へと迫る。


「これは、なるほど、なるほどなるほど! 面白い、デス!」


 俺の勢いに若干気圧されながらも死霊王にはまだ届かない。


「んじゃま、追加だ」


 左手に持っていた槍を床に突き立てると腰からもう一本の長剣を抜き放ち、そのままブーメランよろしく投げつけた。


 ――もちろん、左腕も一緒に。


「おほほほほほ、曲芸も磨けば武芸となるということデスね!?」


 なにがそれほど楽しいのか。


 嬉しそうに叫ぶ死霊王。

 俺はスケルトンを蹴散らしながら魔力操作に全神経を集中させた。

 最初から、不思議な感覚ではあると、気付いてはいたのだ。


 バラバラの死体になっているのにも拘らず、何故動けているのか。

 心臓は止まっているし、身体のパーツは繋がっている訳でも無いのに何故、それらを連動させて動かすことが出来るのか。


 答えは簡単だ。


 俺の身体は魔力によって繋ぎ止められていた。

 指の一本一本が。

 指と腕が、首と体が、胸と腕が。

 本来ならバラバラに千切れてしまっているそれらを、「誰かの魔力」によって繋ぎ止められていた。


 その繋がりを感じ取ることが出来たのは魔王の魔力を身体に流し込まれた時だ。

 別の者の魔力をこの身で味わうことによって、体内に流れるその魔力が鮮明になった。

 色付けされた、と言っても良いだろう。

 とにかく、自分の身体に流れるそれらを感じ取ることが出来るようになってからは、この身体での戦い方が少しだけ分かった気がした。


「魔王は死んだッ! 残る四天王はテメェだけだ! 死霊王!」



 死んでも、殺すッ!



 ある程度のスケルトンを蹴散らせたと確認出来た所で、俺自身が突撃した。

 スケルトンは骨を操る魔法だ。

 幾ら砕いた所で術者を倒さない限り、キリがない――。


「 そうデスか。 あなたが、 魔王 を 」



 それはそれは、感謝しなくては

                       なりません デス ね 。



 ぞわり、と、死体となったこの身体ですら感じるほどの寒気が全身を包み込んだ。

 べらべらと要らぬ事ばかり話していた死霊王は無言のままに冷たい炎のような視線を俺に投げかけ、カタカタとその歯を打ち鳴らす。


 どごぉ、と、奴の後ろ側。

 巨大な骸骨の腕が光の柱によって抉り取られ、それはそのまま薙ぎ払って、巨大な骸骨を打ち滅ぼす。


 ――ホーリー・ドラゴン・ブレス。


 ユリアが奥の手を使ったのだろう。

 ぱらぱら、と空高く舞い上がった骨が塵のように宙を舞い、落ちて来る。

 そんな光景を背に、死霊王は表情の無い笑みを見せた。


「いま私は、世界を手にする」


 どごぉ、という爆発音が再び大地を揺るがした。

 目をやれば、それはユリアの神聖魔法ではなかった。


 古城の門前。

 スケルトンたちを蹴散らして身をもたげた其れは、

 巨大な牡牛に蜘蛛のような四肢を生やしたその姿は、


「魔王……?」


 俺達が相対し、討ち取ったハズの魔王そのままだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ