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【1】 決戦、そして終わり。

【1】 決戦、そして終わり。


 回復薬も治癒魔法も、とっくに尽き果て、もはや僕達は気力と使命感だけで立ち上がっているようなものだった。

 半年にもわたる遠征の果て。

 半年にもわたる敵中突破。

 疲弊し、摩耗し、食えるものはなんでも食らい、時には魔獣の肉を焼いて腹の足しにした。

 人語を介し、和平を申し出て来る魔族も居た。

 人を奴隷としてではなく共生すべき種族として見る者達も。


 ――だが、結局は相容れることはなかった。


 どれほど高尚な理想を一部の少数派が抱いた所で、現実は変わらない。

 どれほど平和を望んだところで、戦争が終わる訳ではない。


 人類による魔王討伐。


 お伽話の中に語られ、そして数世紀単位で繰り返されるその現実は僕達が成し遂げるべき任務だった。

 大陸の東側を支配する魔族に対し、人類は各国から勇者候補と呼ばれる者達を収拾し、場当たり的に魔族領に派遣しては敗北に帰していた。


 当然だ。


 本来戦争とは軍隊が行うもので、少数精鋭の勇者擬きを派遣して敵大将の首を取る、だなんて手法は暗殺でしかなく、正攻法ではない。

 だが、軍隊で挑んだところで魔族の壁は打ち破れない。

 否、正しくは打ち破れたとしても損害が大きすぎるのだ。

 有史以来、魔王が復活する度に様々な方法がとられて来たが、連合軍による侵攻の結果は悲惨なものだ。

 軍隊が負けることもあったが、問題は軍隊が魔王を討ち滅ぼし、各国がその成果を我が物と叫ぶことにあった。

 軍隊が疲弊している状態での戦争は泥沼化し、魔族に対する戦い以上に人々の暮らしを苦しめた。

 それ故にいつか対魔王戦は勇者の役割となり、軍隊を動かす事は愚策とされて来たのだ。


 ――故に、僕達はこの場所にいる。


「右側だッ! 奴は見えていない!」


 僕が叫ぶと全身から血を吹き出しながらもアレスが走り込み、片腕で槍を振るう。

 魔王の脇腹にそれが深く突き刺さるのを見て、


「左足!」


 背後で詠唱を続けていたマーリンに叫ぶ。

 直後、魔王の牛のような顔目掛けて火球が飛び、弾ける。

 それまで、呻くばかりで悲鳴を上げる事の無かった魔族の王が叫び声を上げる――。


「ユリア!」


 言いつつ僕は奴の足元目掛けて疾駆する。

 大ぶりに振り下ろされた残る三本の腕の内の一本を躱し、懐に滑り込んだところで片側の潰れた悪魔の瞳と目が合う。

 勢いよく奴が僕を抑え込もうと腕を動かすのが分かった。

 ――が、「ホーリー・スピア!」

 祈りに応えた神々の槍によってその腕は串刺しにされ、足元に溜めていた力を爆発させた。


「滅べッ!」


 太い首目掛けて聖剣を切り上げ、喉を切り裂くとさらに空中で身を捻って傷口へと切っ先を突き立てた。

 ざぐり、と指先に伝わる確かな命の感触。

「ふんッ」と、それまで幾度となく繰り返して来た方法で繋ぎ止められていたそれを捩じ切り、悪魔の瞳が、爛、と燃え上がるのを見た。


「ヘル・フレイム……」


 口から血を吹き出しながらも地獄の底から響くような声色で告げられた言葉に室内が突然明るくなる。

 そこまで広くもない魔王城の大広間に生れた幾つもの炎が勢いよく僕達に向かって襲い来る。


「ギル!」


 マーリンが叫び、一瞬、判断を迷った。


「……ごめん」


 ――でも、迷ったのは、ほんの一瞬だ。


 次の瞬間には僕は首元に下げていた『自爆用の宝石』を握りつぶして魔王の顔面と共に吹き飛んだ。魔王と、僕との間で光が弾ける。上下がひっくり返った世界の中で、驚愕に目を見開く仲間の顔に、僕は笑い返せていただろうか?


 仲間の驚く顔が、目に映る。

 こうして僕達勇者一向による魔王討伐は成し遂げられた。


 僕、一人の犠牲で、仲間を救えたのなら安いものだろ?


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