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実験番号No.7  作者: 羊雲
2/8

2話

道にそって走り続けると、段々と街の近くまでたどり着く。

街の入り口には関門などは無く、誰でも入ることが可能である。

少女は門まで駆け寄ると、追手らしき者がいないかあたりを見回す。

そして恐る恐る、門から街の中へと踏み出した。


街の中をゆっくりと歩く。

初めて見たものばかりで意識はあちらこちらにと気がそぞろだ。

小さな声でわぁーと感嘆の声を上げる。

全てがキラキラと、宝物のように光り輝いて見える。


ふと感じる。

どこからかいい匂いが漂っている。

そういえば、実験が始まる前から何も口にしてはいなかった。

思い出してからは、空腹感と強烈な喉の渇きを感じる。


「…………っ!!」


飲めるものが欲しい。何かを口にしたい。

少女は匂いのする店の近くまでそろそろと歩くと、ちょうど今買い物をしている女性を見た。


女性はパンを3つと店員に声をかけていた。

そして袋に入れられたパンと引き換えに何かを渡している。

丸い物を渡していたようだが、あれがないと貰えないのだろうか?

あの丸い物の手に入れ方も、買い物の仕方も何も知らない少女は、パンが貰えないかもしれないと思い、焦燥感が募っていく。


そんな時、ふとパン屋の店員と視線が合う。

店員は少しふくよかな女性で、少女に向かって笑顔を見せる。


「おやまぁ、いらっしゃい!!お使いかしら?」

「!?……あ、あの…食べ物と飲み物を分けてもらえませんか…」


突然話しかけられた事に狼狽えながらも、伝えた声はだんだんと尻すぼみになっていく。

その言葉を聞いた店員は、笑顔を消した。

そして、見定めるような視線を投げてくる。

そんな視線に耐えきれず、下を向いてしまう。

ドキドキとした緊張と共に、その場に立ちすくんだ。


「………ちょっと待ってな」


思案した店員はそう言うと、店の奥に引っ込み2分も経たないうちに戻ってきた。

その手には、1つのパンとコップに入った水を持っていた。


「おいで、お嬢ちゃん」


柔らかな声でそう呼ばれると、優しい笑顔に戻った店員が両手に手渡してくる。


「あ……ありがとうございます」

「いいんだよ、久しぶりにいい子に出会えたからね。最近は盗みを働く子が増えてねぇ……正直に言ってくれて嬉しかったよ」

「!!」

「またおいでね、あんたなら待ってるよ」


少女はもう一度お礼を言って頭を下げた。

そしてどこか人目のつかない路地裏へと移動する。

そこは薄暗くはあったが、ゆっくりと休むにはちょうど良さそうではあった。


少女は貰った水を思い切り飲む。

乾ききった体に水分が行き渡るようで生き返った気分だった。

もう片手にはパン。持っただけで分かる、ふわふわの柔らかいパン。

香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。

クラクラするほどにお腹が空いていた少女は、ひと口またひと口と口を開く。

瞳からきらきら光る一雫が落ちていく。


食べ終えた少女は、まだ喉の渇きは残っていたが、少し休む事にした。

もう体は動けなかった。

瞼をゆっくりと閉じる。


何も持たずに出てきた事を後悔した。

あの優しい人に、何も返せなかったから。

それに、これからどうするのかを考えないといけない。

でも今だけは……眠りたい。

少女は次に目が覚めたら考えることにして、暗闇に身を委ねる。

そしてゆっくりと意識が沈んでいった。

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