2話
道にそって走り続けると、段々と街の近くまでたどり着く。
街の入り口には関門などは無く、誰でも入ることが可能である。
少女は門まで駆け寄ると、追手らしき者がいないかあたりを見回す。
そして恐る恐る、門から街の中へと踏み出した。
街の中をゆっくりと歩く。
初めて見たものばかりで意識はあちらこちらにと気がそぞろだ。
小さな声でわぁーと感嘆の声を上げる。
全てがキラキラと、宝物のように光り輝いて見える。
ふと感じる。
どこからかいい匂いが漂っている。
そういえば、実験が始まる前から何も口にしてはいなかった。
思い出してからは、空腹感と強烈な喉の渇きを感じる。
「…………っ!!」
飲めるものが欲しい。何かを口にしたい。
少女は匂いのする店の近くまでそろそろと歩くと、ちょうど今買い物をしている女性を見た。
女性はパンを3つと店員に声をかけていた。
そして袋に入れられたパンと引き換えに何かを渡している。
丸い物を渡していたようだが、あれがないと貰えないのだろうか?
あの丸い物の手に入れ方も、買い物の仕方も何も知らない少女は、パンが貰えないかもしれないと思い、焦燥感が募っていく。
そんな時、ふとパン屋の店員と視線が合う。
店員は少しふくよかな女性で、少女に向かって笑顔を見せる。
「おやまぁ、いらっしゃい!!お使いかしら?」
「!?……あ、あの…食べ物と飲み物を分けてもらえませんか…」
突然話しかけられた事に狼狽えながらも、伝えた声はだんだんと尻すぼみになっていく。
その言葉を聞いた店員は、笑顔を消した。
そして、見定めるような視線を投げてくる。
そんな視線に耐えきれず、下を向いてしまう。
ドキドキとした緊張と共に、その場に立ちすくんだ。
「………ちょっと待ってな」
思案した店員はそう言うと、店の奥に引っ込み2分も経たないうちに戻ってきた。
その手には、1つのパンとコップに入った水を持っていた。
「おいで、お嬢ちゃん」
柔らかな声でそう呼ばれると、優しい笑顔に戻った店員が両手に手渡してくる。
「あ……ありがとうございます」
「いいんだよ、久しぶりにいい子に出会えたからね。最近は盗みを働く子が増えてねぇ……正直に言ってくれて嬉しかったよ」
「!!」
「またおいでね、あんたなら待ってるよ」
少女はもう一度お礼を言って頭を下げた。
そしてどこか人目のつかない路地裏へと移動する。
そこは薄暗くはあったが、ゆっくりと休むにはちょうど良さそうではあった。
少女は貰った水を思い切り飲む。
乾ききった体に水分が行き渡るようで生き返った気分だった。
もう片手にはパン。持っただけで分かる、ふわふわの柔らかいパン。
香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
クラクラするほどにお腹が空いていた少女は、ひと口またひと口と口を開く。
瞳からきらきら光る一雫が落ちていく。
食べ終えた少女は、まだ喉の渇きは残っていたが、少し休む事にした。
もう体は動けなかった。
瞼をゆっくりと閉じる。
何も持たずに出てきた事を後悔した。
あの優しい人に、何も返せなかったから。
それに、これからどうするのかを考えないといけない。
でも今だけは……眠りたい。
少女は次に目が覚めたら考えることにして、暗闇に身を委ねる。
そしてゆっくりと意識が沈んでいった。