二話 金とは
「おい聞いたか?勇者の息子がまた戦果をあげたそうだぞ!」
「凄いなまたか、それで今度は何番目の子供だ?...」
あれから街の中心地へと歩き段々と街にも喧騒が溢れてきた。守衛に通されてすぐの街並みは酷く物乞いや生き倒れなどがあっちこっちに見えるまさにスラムと言ってよい状況だったが中心地へと近づく程に街は栄えているようだ。
「...自分さえ良ければなんでも良いってか?」
不意に出た独り言は誰にも聞かれず喧騒へと消えていく。
「...新規登録ですか?」
「そうです、これが身分証と登録金ですね」
冒険者ギルドに来た、腕に自信がある奴が金を稼ぎに来るところと言ったらやはりここだ。
俺は自分の身分証と登録に必要な金を提示してこの街で新たに冒険者稼業を始めようと思う。
この身分証も登録に必要な会費も全て偽物だがまぁ今回は些細な問題だ。
「かしこまりました、ではこちらにサインをお願いします。それとこの書類をお渡しするので目を通しておいてください、私は冒険者カードを作成して参ります」
「あぁすみません、今ギルド長って居ますか?少し伺いたい事があるんですけど...」
ふと建物の中の空気が冷たくなったような気がした、やはりギルド長の話はタブーのようだな。
「...彼と面会がしたいなら事前連絡をお願いします、それとも伝言なら私から伝えておきますか?」
「いや、大丈夫です。会えないならそれで構いません」
「......失礼します」
受付のお姉さんはそそくさと奥に引っ込む、俺はその内に渡された書類を読む振りをする。
「おい兄ちゃん、態々ギルド長を呼び出すなんて度胸あるな~」
この冒険者ギルドは酒場としても使われており、治安が悪いこの街では昼夜問わず馬鹿騒ぎしている。
故に絡まれるのは覚悟の上ではあったが...
「あ?兄ちゃんなに見てんだよ、もしかしなくても童貞か!童貞だろ!」
まさかビキニアーマーの痴女に絡まれるとは思わなかった、いや絡まれると言ってもそう言う意味じゃない。
というかスタイル凄いなこの人、赤髪ロングで顔立ちも整ってる上にボンキュッボンのビキニアーマーって完全に誘ってるだろ...
「ギルド長には少し用事があっただけですよ、後童貞じゃないです」
嘘である
「その用事ってのが気になんだよ、あのスケベ親父に会いに来るなんて余程の暇人か出世目的の間抜けかのどっちかだ。兄ちゃんのその覇気の無い瞳からして...暇人のほうか?」
黙ってりゃ人の事を暇人だなんだと好き勝手言ってくれる、このスケベおっぱいが...少し言い返してやろうか、と思ったところで開きかけの口が閉じる。
「そんな暇ならよ...あたしを買ってみないか?兄ちゃん金持ってそうだし今後の事も考えて安くしとくよ?な?童貞君♪」
耳元で囁く甘言は俺の理性を砕くには十分だった...
「......よろしくお願いします...」
「フフフ、それじゃあカードを貰ったら着いてきて?良い所♡案内してあげるから♪」
俺は受付のお姉さんから冒険者カードという身分証を貰いビキニアーマーの元へと行こうとするがふと止められる。
「これは珍しく良心からの言葉ですが、やめておいたほうが良いですよ?」
「忠告ありがとうございます、でもそこにエデンがあって飛び付かない男はもう、男じゃないんです!」
俺はぶれない覚悟で歩を進める、確実に着実にビキニアーマーの彼女が待つ路地裏へと向かうが...
「うわ兄ちゃん本当に来たのかよ、ハハッ童貞の性欲ってのは恐ろしいな!それじゃあ着てるもの全部脱いでどっか行きな、痛い思いをしたくなければな」
たどり着いた先には強面のお兄さん2人とふんぞり返ってるビキニアーマーさん、あれぇ?
「ひ、ヒェェェ!すみませんでした~!これで許してください~!」
「あっ!テメェ!...チッまぁ有り金置いていったようだし許してやるか」
「うお!こりゃ凄いぜ!アイツ童貞の癖にボンボンだったのかもな!この袋に入ってるもの全部金貨だぜ!しばらく遊んで暮らせるぞ俺達!」
泣きながら金置いて逃げていく俺、拾うゴロツキ、下品に笑う3人を見ている俺。
今逃げていった奴は幻だ、ついでにコイツらが拾った金も全部ただの石。最もコイツらの目には金貨がたっぷりと入った財布にしか見えてないようだ。
男の純情を弄んだコイツらには罰を与えなきゃな!......
3人が路地裏から出ていき早速手に入れた金貨で買い物をしようとしている時に3人の服を切り刻み公の場で全裸を公開してやる、痴女には相応しいお仕置きだ、ついでに金貨の幻も解いてやる。
「お客さん!?こんな所でなにやってんだ!?」
「へっ?......キャーッ!見んじゃねぇ!」
「うわっ!なんで俺まで!?」
「ちくしょう!何が起こって...あぁ!?これ全部石じゃねぇか!」
一目散に逃げていくビキニアーマーとゴロツキ2人、全裸で街を疾走する姿はみていて実に愉快である。
「あの調子じゃ俺みたいな奴を何人もカモにしてきたんだろう、天罰って奴だな!」
今頃金の代わりに石を置いていった俺に対する怒りで頭が沸騰しているかもしれないが自分達の醜態でそれどころじゃ無いだろう、それにどうせ俺の事も覚えていない。
「ん~!良いことをした後は気分も晴れやかで素晴らしい!さてと、飯でも食ってギルド長に会う方法でも考えますかね」
どさくさに紛れゴロツキ達から現金を回収し一先ず無一文から脱却する。
そして人混みに入り認識阻害の魔法を切る、突然現れたように見える俺を目視して驚く通行人もいるが見落としていただけかとすぐに興味を失くす。紫の煙は喧騒に揉まれて消失した。