美意識ってつまりなんの需要を満たしたいかとの擦り合わせ
明るい部屋だった。
とにかく、どこもかしこもつるつるしていて奇麗な白い建材の建物で
その中でひときわ日当たりのよい部屋を贅沢にも衣裳部屋にしているのだった。
目の前にはひたすら色んな色の洪水がある。
イリスはまずお嬢様の顔や体つき、雰囲気なんかをじっと見つめた。
それこそ、ほんの少しの間なら脳裏にまざまざと思い浮かべられるほどに。
ちゅんと上向いた鼻。眉頭は少し凛々しい。あごは別にほっそりしていないけれど、その代わり首が細長くてつるりとしている。
肌はとにかく柔らかそうというよりもハリがある。ほんの少し白粉をはたいてけぶるような質感に仕上げられたら柔らかいモスリンのモミの木のような緑色なんかがデイドレスとして似合いそうだった。
セージグリーンだときっと、目の力が強いのでいろいろぼやけてしまいそう。
面倒なことを言わないから主観で選べ、と先ほどの言葉をイリスは解釈した。
だから遠慮呵責なしにじろじろと見まわしながら、まず多すぎる色を間引くことにした。
「ねえ、そこのサテンのマーメイドのベビーピンクのデイドレス。避けて。あっちのパウダーピンクのレースのサッシュがついたプリンセスラインのベビーブルーのも避けて。」
パープルブルーのジャガードのも、そこの少し薄めのカーキっぽい色のも…そう、それ。
あとサンドベージュに緑が入ってそうな色があるよね
これ全部避けて。なんでこんなに同じ色で似た形のがあるの?
お嬢さんはぽかんとかわいらしい唇を開けていた。
淑女らしからぬ仕草に、やはり新興貴族かなと頭の片隅で思う。
最も、昔ながらの貴族である令嬢の知り合いなんかイリスにはたった一人しかいないけれど。
もちろん、ねえやは除く。
ありとあらゆる似合わないと思ったものを取り除いた先にあったのは、たった一枚のもうお嬢さんには入らなさそうなサイズのドレスだった。
ノーブルな紺のベルベット生地のAラインドレス。
銀色の刺繍とレースで飾り付けられた星のような夜空のような一着。
これに、イリスは宝石箱を持つ侍女からパールのチョーカー、パパラチアピンクの華奢な銀細工で象ったネックレス
そしてカポションカットのプレナイトで作られたオリーブがモチーフだろう指輪の三つを合わせさせた。
全部を使う必要はない。
アクセサリーは最低限調和がとれていれば、あとは自分がどれがつけていたいか選べばいいと思っていた。
靴は迷わなかった。
白のレースと金糸の刺繍で花模様を散らした布で表面を丁寧に覆われたサテンのヒール。
これ以上に彼女が似合う一式は残念ながらイリスには考え付かなかった。
お嬢様は、レディ・ヴィオレット・ユークレースは
呆然としたような顔つきでただ涙を流れるままにそのドレス一式を眺めていた。
言葉は鎖。態度は重石。すべてを取り払うために自ら動くことはできずとも、彼女はちゃんとふさわしいものを逃がさずにつれてこられたのでした。
めでたしめでたしにはまだ遠い、春の来る前の日のことです




