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ヴィオレット・ユークレースの珍行動

レディ・パグの名前はどうやらヴィオレットというらしい。

生まれたばかりの頃の瞳は見事な菫色だったそうな。

まあ、髪色も幼少期から変わることがあるらしいので。目の色も変わることもあるんじゃないかな。今の色が奇麗なんだからどうでもいい話だった。

ヴィオレットお嬢様のタウンハウスは、見事な大理石の床。

つるつるな床に湖畔からついてきた土くれが汚れをつけることもいとわず先陣をきって勇ましくお嬢様は進んでいく。

その後ろをイリスは懸命についていった。鬱は体力を奪う。結果的に。頭がしんどいと体もしんどくなって、食べるのも歩くのも人よりのんびりのったりになるのだ。

イリスは今ノミよりも自分の歩く速度が遅いような気もちでいた。



イリスはそもそも造園や植物の品種改良が特産ともいえる伯爵家に産まれた。

彼女は一族最年少のお姫様だった。

だから誕生日にもなると、親族はこぞってイリスに新しく改良した品種の花束を差し出した。

イリスは無邪気にそれを受け取っては笑顔でありがとうを言えばよかった。

五歳までの話だ。

とにかく、彼女の美意識は遺伝子に組み込まれたものなのかそれとも齢五つを越えてからも手慰みに頁を繰り続けた画集のおかげなのか

まあそれなりに確立されていた。


案内されたのはヴィオレットのタウンハウスの一室だった。

勿論そこは丸一室クロークともいえる衣裳部屋で、もてなすためのテーブルセットなどは無い。

レディ・ヴィオレットは赤い鼻をつんとして言った。


「ね、あなた。この中でどれでもいいわ。私に一番似合うものと、似合わないものを選んで見せて」

この中、婚約者にいただいたものももちろんあるし!お父様やお母様にいただいたものだってあるわ。

でも、それらをあなたが選んだって私腹を立てないし!フケイとか言わないわよ当たり前でしょ!


そのかわり、私に飛び切り似合うものを選んで…そう!コーディネートして見せて!ないなら何かもっとわかりやすく提案して!今すぐよ!速く速く速く!


たんたんたん!リズミカルにレディ・ヴィオレットの黒いサテンの靴のつま先が大理石の床をたたく。

イリスは何かよくわからないことがやってきたぞ、と思いながら一面のドレスと靴、そして帽子たちを眺めた。

フケイ?フケイですってこのパグ娘ったら!そォんなこというのは相手の身分を知ってからにおし。ええ?

ああ、レディ!お待ちになってくださいどうぞ、どうか!必死なのですわ彼女の肌をどうぞご覧になって!まるで泣き喚いた後の嬰児のように赤いではないですか!彼女は彼女なりに必死なのです。これもまたそう、彼女なりの生命活動と言えるのでは…?

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