第五話
カッ、カッ、カッ、カッ
空も、茜色に染まりだしたころ沖田は壬生寺の階段を登っていた。
空にポツポツと光りだした星は、これから起こる戦いにスポットライトを当てているようだ。
「花蘇芳さんって、いったいどんな人なんでしょうかねぇ。土方さんみたいないかつい男だったりして…」
カッ、カッ、カ――
「やっときたぁ。あなたが、沖田総司さん?」
沖田の目の前に現れたのは、少女だった。が、沖田は気にもしない様子で、
「それでは、あなたが花蘇芳さんですか」
と、にっこり微笑んだ。
柚子も、はい、と微笑み他人から見れば敵同士には見えないほどやさしい空気が流れていた。
が、やはりそんな簡単な問題ではなかった。
キィーン、カーン、カン
二つの刀が交わるすさまじい音が辺りに広がった・・・。
キィーン、キン。カキーン
「沖田さん、やっぱ強いや。あたしの、初太刀をよけたのはあんたが初めてだよ。
やっぱ変わってるねぇ。新撰組の隊長さんって言ったら、吉田先生みたいな人と思ってた。」
「あなたも、相当な強さじゃないですか。花蘇芳って言う名前がついているくらいでしたから、
もしかしたらとは思っていましたが女性だったんですね」
キーン、カーン、カン
二人は、刀を交えながらも平然としゃべっていた。
普通、命の駆け引きで言葉を発するのは、隙が生まれやすく、剣士ならただ、無言で斬る。
だが、二人の場合はまるで違った。
しゃべっていても隙が生まれないのはもちろん、動いている刀とは裏腹にまるで友人のように
楽しそうに会話をしているのである。
二人の実力は、ほぼ互角、しかし。
「やりますね。あなたと戦えて、楽しいです。それなら、これは、どうですか?」
沖田は、一瞬で構えを変えた。
天然理心流独特の構え。
「なんか、くるかな?」
柚子が、小さくつぶやいたときだった。
シュッ、
「っとぉ、あっぶなぁ。あたるとこだっ――」
柚子は、何とか沖田のすばやい突きを交わした。が、
シュッ、
「ひゃぁ、二段突き?あっぶな――」
ザシュッ
「残念ながら、三段突きですよ」
沖田は、数秒の間に三度の突きを柚子に浴びせた。
天然理心流、沖田の得意とする三段突きだった。
一度目、二度目の突きをよけれたとしてもバランスを崩した体に三発目の突きを容赦なく入れる。
沖田の三段突きをよけたものはおろか、受けて、死ななかった人間は、誰一人として居なかった。
「ッ痛、さっすが、沖田さんだねぇ。やっぱ強いや」
しかし、柚子が受けた傷は、深くは無くまだまだ、戦えるような傷だった。
「おぉ、すごいですねぇ。花蘇芳さん。それを食らって死ななかった人なんて居ないのに。
やっぱり、だてに人斬りはやってないですね。本当に、あなたと戦っていると楽しいですよ」
自分が、殺すつもりで放った技を受け止められながらも、たのしそうに笑う沖田。
そしてまた、柚子もこの戦いを楽しんでいた。
「あたしも楽しいよ、あんたと戦えてさっ。そぉだ、まだ、名前言ってなかったね。
あたしの名前は、日高 柚子。よろしくねぇ」
キィーン、キン、カァーン
「えぇ、柚子さん。でも、名前を名乗ったところで意味は、ありませんよ。
即刻捕まえて、屯所に来ていただきますから」
沖田が、うれしそうに微笑んだときだった。
「それは、できない約束だねぇ」
そういうと、柚子は、おきたに向けて、殺気をよりいっそう強く放った。
(何か来そうですね、今度は柚子さんですか。お手並み拝見ですね)
沖田は、心の中でそうつぶやき、刀を強く握り締めた。
「秘術、鎌鼬」
ブァン