第三話
部屋から出て行った沖田は自室に戻って文を読んでいた。
「花蘇芳さん。次は、私ですか。楽しみですね」
そうつぶやくと、沖田は刀を手に取り部屋を出て行った。
部屋に残った文には、
『新撰組一番隊隊長 沖田 総司様
はじめまして。花蘇芳と申します。
夕刻、壬生寺にてお待ちしております。
来てくださらなければ、こちらからお伺いいたしますので。あしからず。』
という短い文と、中に花蘇芳の花が入っていた。
今、運命の歯車が動き出した。
それはまだ、小さなもので誰一人としてその動きに気づいたものはいなかった。
歯車がとまったときに見えるものは、悪夢か、それとも・・・。
スッ。
「土方さん。入りますよ」
「総司、何度も言ってるがそれは、入る前に言うもんだ」
沖田は、また土方の部屋を訪れていた。
そして、土方の言うとおりすでに沖田は相手の有無も聞かずに部屋に入っていた。
「まぁまぁ、そんな事は置いておいて。私、ちょっと出かけますんで。それを伝えにきました」
新撰組には、局中法度というものがある。
その中の、ひとつに、『隊ヲ脱退スルコトヲ禁ズル』という規則が存在する。
局中法度を破ったものには切腹か斬首が待っている。
どの道死が待っている。
そのため、新撰組では外出するときには大体は誰かに行く先を告げてから行くのである。
「お前、どこに行くつもりだ。」
土方の疑っている声に沖田は、悪びれもせずに
「花蘇芳さんに呼び出されたので」
と、あっさり答えた。
すると、土方もうすうすは気づいていたようで、
「一人で行くつもりか?」
と、聞いた。新撰組には、『私闘ヲ禁ズル』という法度もあり沖田は、確認のためで向いたのだった。
「もちろんですよ。相手もこんな鬼の巣窟に文を出してきたんです。私もひとりで出向くべきでしょう。
それにどうせ、いずれ私が行かなくとも戦うことになるでしょうし。」
「…。分かった。だが、絶対に死ぬんじゃねぇぞ。誰一人として増援は行かせねぇ。だが、もし明日になっても帰ってこなかったらお前を探しに行く」
その言葉に沖田はすぐに反論した。
「私は、そんな簡単に負けたりはしないですよ。心配しすぎですってば。それじゃぁ、行って来ますね」
「あぁ」
そういうと、沖田は土方の部屋をでていった。