第二十六話
『』は柚子の過去のときの言葉。
「」は現在、沖田に向けて話している言葉です。
「父上と母上が殺されてから、あたしは何も飲まず食わずで生きてたの。
それから数日後だった。あの人が現れたのは」
両親が殺されてから、数日たっても幼い柚子はその場を動けなかった。
目の前にあるのは、腐敗していく骸。
その姿を見つめながら、柚子はただ時を過ごしていた。
ガラガラ・・・
『誰か、そこに居るのか?』
「そういって、吉田先生はあたしの家に足を踏み入れたの」
声がする方向へ、スッと顔を向ける柚子。
そこに居たのは、一人の男。
一瞬、その男を見つめた柚子はまた、骸に目を落とす。
『帰れ』
ただ、その一言を発して。
その姿を見た男、吉田は小さくつぶやく。
『竜胆とその妻か。そして、お前はその娘と言ったところか。』
しかし、その声はどこか凛としていて柚子の耳にもはっきりと届いていた。
『それが、何?』
苛立ちの混じった柚子の声を聞き何故かにやりと笑う吉田。
『殺されたのなら、やり返せばいい。敵を討てばいい』
「突然現れた先生は、あたしを引き取ってくれた。あたしをここまで、生きさせてくれた。
強くしてくれた」
『敵を討てばいい』
その言葉に、幼い柚子の目は再び光を取り戻した。
`敵討ち´と言うただひとつの願いのために、柚子は見知らぬ男についていった。
男は、ただ柚子を強くするためだけに育てた。
そうして、数年後。
京の町に、一人の人斬りが現れた。




